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異世界で闇金屋始めました  作者: 上月海斗
プロローグ
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プロローグ

お読みいただきありがとうございます。

初めましての方は初めまして。上月海人と申します。

そうでない方はお久しぶりです。

この話は一章で完結型の話となっております。一章自体はそんなに長くないので時間つぶしにサクサク読んでいただければ幸いです。

一章が完結するまでは頻繁にアップしていくと思われます。

各章に移る際にインターバルを置き、アップしていく形式になります。


※2016年3月17日に再編集しています



プロローグ




「あー、めんどくさー」



 机の上に散乱する債務書。椅子の背にもたれ掛り、机の上に足を投げ出す。


 穏やかな時間が流れる。僕が勇者をやめて何か月が経っただろう。理不尽な世界だと恨んだ事もある。だけど、世界はどんな事が起きても平常運転だ。


 僕、平良木大和(ひらぎやまと)と言う人間が一人消えても、世間ではそんなに騒がれる事はなかった。と言うよりも、情報操作の勝利と言ったほうがいいのだろうか。僕と言う人間は、魔王との戦いに敗れて死んだという設定になっていた。



「大和。お行儀が悪い」



 頭に走る衝撃。……叩かれた。


 若干の私怨を籠めて叩いた主を見る。金色の髪をハーフアップに纏めた髪。少し切れ長で大きな瞳と長い睫。線の整った顔立ち。黒を基調としたワンピースのドレス。その服の上からでもわかるスタイルは、彼女の容姿に妖艶さを演出している。


 彼女の名前はクリストファー・フィリング。彼女は僕の剣の師匠であり、この国、ハエン国の第二王女だ。



「いいじゃない。クリス」


「よくない。将来、私の旦那になる人間が、そんなはしたない事するなんて認めない」


「まただよ。また、その話だよ」



 何かにつけてクリスは、その話をしてくる。事あるごとに旦那の理想像を押し付けてくるのだ。



「はいはい、わかったよ。わかりましたよ。まったくプリプリしちゃってさ。……って、ああ、今日辺り生理か」



 言い終わるや否や、先ほどよりも数倍強い衝撃が僕の頭を襲った。



「い……痛い」


「痛くしたんだ、ばかもの!」


「耳まで真っ赤にして怒る事かねぇ。クリスの排卵日の計算ぐらい覚えてるっての」



 僕の呟きにクリスはさらに顔を赤くした。



「社長。今のはセクハラで訴えられたら勝てませんよ」


「あら? さくらまでクリスサイド? 僕、四面楚歌?」


「あら? 何を言ってるんですか? 社長はいつだって四面楚歌じゃないですか」



 眩しすぎる笑顔。このとんでもない毒舌を放ってくるお嬢さんは、早乙女さくら。


 背中まで伸びる艶のある黒髪。精巧な人形を思わせる整った顔立ち。そして、少し気の強そうな眉と瞳。白いブラウスの上に淡い青のロングジャケット。茶色いプリーツスカートから覗く太ももは至極の一品だった。



「うれしくないよ! 僕の周りは敵だらけかよ!」



 思わず突っ込みを入れるが、僕と彼女は同郷の人間だ。つまり僕と同じ異世界人……と言うよりも、同じ日本から召喚された人間だ。正確に言えば、彼女はぼくの後任として召喚された勇者だ。だが、彼女もこの国のやり方に絶望を抱き、いつしか僕の所に足を運ぶようになった。


 そして、今では立派な秘書として僕の元で働いている。本人曰く僕の秘書兼、第二夫人候補だそうだ。



「それはそうと社長。ゴミ……じゃなかったハデス子爵がお見えになってます」


「ねえ、今ゴミって言ったよね。お客さんをゴミって言ったよね」


「気のせいです」


「まあいいや。んで、子爵がどうしたって?」


「それが……」



 不意に外から聞こえる喧騒と罵声。相当な数の人間がこの建物を囲んでいるのが分かる。



「ああ、そういう事」


「はい。借金が返せないから私兵を雇い、潰しに来たとの事です」


「確かにゴミだわ。数は?」


「六〇〇人」


「六〇〇人!?」



 告げられた数はあまりにも予想外だった。



「如何なさいましょう?」


「如何なさいましょうって六〇〇人だよ? 勝てる訳ないでしょ。って言うかそれだけ人雇える金があるなら僕に返せるよね。明らかに頭おかしいよね、この人」


「大和。だから私も父上も言っているだろ。この国の貴族は腐っていると」


「うん。改めて実感したよ」



 盛大な溜息と共に机に立てかけていた剣を手に取る。



「仕方ない……か」



 ゆっくりと立ち上がり、剣を肩に担ぐ。ずしりとした重みが書類整理で訛った体をほぐしてくれる。


 扉に向けて足を進めていく。切り替わる意識。研ぎ澄まされていく感覚。体中の魔力が細胞を活性化され、足を進めるごとに体が軽くなっていく。



「ったく。たった六〇〇人で僕らに挑むとか正気の沙汰じゃないね。僕を倒したかったら世紀末覇者を一〇〇〇〇人はほしいね。わが生涯に一片の悔いなしってね」


「社長。一〇〇〇〇人分も昇天させたら逆にトラウマになります」



 おっさんが片手を上げて『わが生涯に一片の悔いなし』と言いながら自決するのだ。それも一〇〇〇〇人分。至る所にできるおっさんのオブジェ。それも一〇〇〇〇人分。確かにトラウマの何物でもない。



「想像させるな。言った事に後悔するわ」



 折角シリアスに決めようとしてもいろんな所が台無しだ。



「大和、勢い余って建物壊すなよ」


「社長。さっさと終わらせて次の債務者の所に回収に行きますよ」


「ちょっとは心配してよ! 仮にも六〇〇人だよ、六〇〇人! 『大和死なないで、愛してるわ、抱いて!』とか、『社長無事に帰ってきたら私の体をご褒美に差し上げます。抱いて!』とか言えないのかね、君たちは」



 僕がそういうと二人は視線を合わせて一言こう言った。



「「妄想乙」」



 つまり、『そんな相手じゃ心配できねぇよ。むしろ、お前の頭の方が心配だ』と言う心情の表れだ。いい嫁候補を持ったものだ。



「……行ってくる」


「さっさと行ってさっさと終わらせて来い」


「あいよ」



 背中越しにかけられた激励に押され扉に向けて足を進める。



「さて、狩りの時間だ」



 扉を開き、外へと疾走。


 あ、言い忘れました。僕、勇者やめて異世界で闇金屋始めました。


お読みいただきありがとうございました。

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