12.魔王城
VR魔王城には、いまだに定期ログインしてくる古参ギルドメンバーたちがいた。
彼らにとってここは、
『最難関レイドの舞台』
『栄光と敗北の記憶』
『伝説級装備と出会った場所』
つまり「青春」だった。
だからこそ問題がある。
ルシフェリアが魔王城を“夢の国”へ改装するには、彼らをどうにかして一時的に追い出さなければならない。
深夜の厨房。
マリアがクロワッサンを並べながら聞く。
「普通に説明しては?」
ルシフェリアは即答する。
「絶対反対される」
ガルディオスも肯定する。
「古参プレイヤーの魔王城保存欲求は極めて強固です」
そこへユウが入ってくる。
「何してんの?」
ルシフェリアは真顔で言った。
「ギルドを騙す」
「急に悪の組織みたいなこと言うな」
◇◇◇
翌日。
VR掲示板に公式告知が出る。
【緊急高難度イベント開催】
《深淵領域グラン・アビス》期間限定開放!
魔王城よりさらに高難度!
伝説級装備ドロップ率3倍!
古参プレイヤー推奨!
※魔王城エリアはシステム調整中
数分後、古参ギルドがざわつく。
「新エリア!?」
「伝説装備3倍!?」
「うおおおお!!」
ルシフェリアはモニターを見ながら言う。
「よし、釣れた」
「言い方」
古参プレイヤーたちは大興奮だった。
「今度こそ神剣ドロップ狙うぞ!」
「魔王城なんか後回しだ!」
「高難度だぞ高難度!」
全員が新エリアへ突撃していく。
なお、その新エリア。
実態はガルディオスが三日で急造した「終わらない長距離ダンジョン」だった。
・無駄に広い
・敵が多い
・ドロップ率は普通
・一本道が長い
ただし古参は勝手に盛り上がる。
「これは神コンテンツ!」
「運営本気出してきた!」
プレイヤーが消えた瞬間。
ルシフェリアは宣言する。
「今から72時間で夢の国にする」
そこからの作業は凄まじかった。
・城壁撤去
・パレードルート生成
・光エフェクト増設
・お菓子NPC実装
・BGM変更
・罠をアトラクション化
ガルディオスが淡々と報告する。
「玉座を巨大ぬいぐるみに変更しました」
「いいね」
マリアは真剣に追加提案する。
「パンの香りを常時循環させましょう」
「五感攻撃やめて」
◇◇◇
三日後。
古参ギルドメンバーたちは疲れ果てて帰還する。
「くそ……ドロップ渋かった……」
「でも久々に熱かったな」
「やっぱ最後は魔王城で休憩――」
そこで全員が止まる。
魔王城が消えていた。
代わりにあったのは、
・虹色のゲート
・光るパレード
・笑顔のマスコット魔物
・なんだか楽しくなるような音楽
・ポップコーン屋台
そして巨大看板。
『WELCOME TO DREAM LORD CASTLE』
沈黙。
古参ギルドの一人が震える声で言う。
「……俺たちの魔王城は?」
ルシフェリアは平然と答える。
「アップデートした」
「アップデートで済むかぁぁぁぁ!!」
VR空間に絶叫が響く。
「まぁそう言うな。これを見ろ」
ルシフェリアが1つの扉を指す。そしておもむろに扉を開ける。
「今日の主役はこの子たちだ」
ちょうど子どもたちの招待イベントが始まる。
小さな子どもたちがゲートをくぐり、
「わぁぁぁ!!」
と歓声を上げながら走り出す。
古参ギルドは黙る。
楽しそうな笑い声。
走り回る子どもたち。
昔、自分たちが初めて魔王城に入った時と、少し似ていた。
しばらくして、一人がぼそっと言う。
「……まあ」
「これはこれで、ありか」
ルシフェリアは少しだけ笑う。
「クレーム減った」
ユウは呆れる。
「いや普通もっと揉めるだろ」
その頃マリアは、入口近くで新作のチュロスを配っていた。
そして夢の国になった魔王城には今日も、
かつての冒険者と、今の子どもたちの笑い声が混ざっていた。




