90、エミリー・ジョセレイン side 見守
この日は朝からとても良い天気でさわやかな一日になりそうだと気分良く目覚めた。
「お嬢様、起きられたのでしたら朝のお支度をいたしましょうね」
「はい」
私、エミリー・ジョセレインの侍女サラは私が生まれたときからこのお屋敷にいて、元はお母様の侍女だった。私が生まれてからは私の専属の侍女になり、私が六歳のときにうちのお屋敷の庭師と結婚をした。サラには男の子が二人いて、四人一緒にうちのお屋敷に住んでいる。
「サラ、今日はアリシア様とアンジェリーナ様と持ち寄りでお菓子パーティーする日なのだけど、用意はできてるかしら?」
「もちろんできておりますよ。包んだものを後程お持ちしますね」
「ありがとう!」
今日は待ちに待ったお菓子パーティー。といっても、お昼休憩の時間にするので短時間だけれどもとても楽しみにしていた。
「あ、少し別に包んでくれる? サイテス様にもお渡ししたいの」
「お嬢様、そう言われると思ってすでにご用意してますよ」
にっこりと笑うサラにもう一度感謝の意を伝えた。その後朝食を食べ学園に行く準備が終わった頃、サイテス様が迎えにいらした。
「おはようございます、サイテス様」
「あぁ、おはよう」
サイテス様は騎士団の鍛練に参加されているからか落ち着いていて、そして大人で素敵だ。
「さ、行こう」
手を差し出すサイテス様に私は毎回照れながら手を乗せる。剣ダコや豆で少しゴツゴツしたこの手が実は大好きだったりする。
馬車の中ではいつもお話をするのだけれど、今日は先にお菓子をお渡しした。
「今日のお菓子パーティーで出すお菓子です。サイテス様にも食べていただこうと思って」
するとサイテス様は「ありがとう」と言いながら、チュッと口づけをしてくださった。私にだけ見せる甘い甘い顔がうれしくて私はふにゃりと笑った。
「今食べてもいいか?」
「はい」
サイテス様は包みに入っていたマカロンをぱくっと手掴みで食べ、満足そうな顔をされた。
「エミリー口開けて」
?
言われた通りに口を開けると、口にマカロンを入れられた。
「一緒に食べるとおいしいね」
今度はサイテス様がふにゃりと笑う。朝から私の中の糖度が上がりっぱなしだ。
学園に着くと、みんなが来るのを待って教室に向かう。かなり早い時間なのでほとんど人もいなくて、なんとなく教室が澄んでいるように見える。
殿下とアリシア様を教室までお送りすると、サイテス様は殿下、レオナルド様、タキレス様とで打ち合わせをされるので、私とアリシア様、アンジェリーナ様とで楽しく話す。今日はやはりお菓子パーティーの話だった。
こうやってお二人とお話させて頂けるのはサイテス様のお陰なのでいつも感謝している。今日のアリシア様も天使だったし、アンジェリーナ様はお姉様だった。ああ、幸せ。
話していると、ラドニー先生がいらっしゃったので、私たちは教室からお暇した。
Aクラスに戻り授業を受けそろそろ待望のお昼休憩に入る頃、廊下が騒がしくなった。なんだろうと思いつつ授業時間が終わると、Bクラスの女生徒がクラスに飛び込んできた。
Aクラスにお友だちがいたらしく、控え目に言ってもわりと大きめな声で話すのはいくらか興奮しているからかもしれない。
「学園にたまにしか来ないアリシア様が、殿下がいないところだと他の女生徒をいじめてるらしいわよ。今日はアリシア様に話しかけただけで、ラドニー先生に怒鳴らせたらしいわ」
「えー!? アリシア様、そんなことするかしら?」
「だって悪者にされたって泣いてたのよ、その子……」
えっ……。
Aクラスがざわざわしはじめ、Bクラスの子は自分が話をクラス中に広めたことに気付き、文字通りそそくさと教室から出ていった。
「みんな、確認してくるからこの件は保留にしていてくれ」
タキレス様がみんなに聞こえるようにいうと、そのままサイテス様と教室を出られた。サイテス様たちがお戻りになられる前に、何人ものBクラスの人が同じ内容を話していった。
アリシア様もラドニー先生もそんな人ではないのに……。私はくやしい思いをしていた。
「待たせて悪い。確認してきた」
ちょうどタキレス様とサイテス様が戻られた。
「女生徒に肩をつかまれ階段を落ちそうになったアリシア様を、ラドニー先生が受け止め救ったというのが真相だそうだ。
女生徒も判明していて、Aクラスにきてはエドワード王子を不敬にもエディと呼び、しつこく付きまとっていたマリアンナ・ブラウニングだそうだ」
「えっ……」
クラス中が絶句していた。まさか相手が彼女だったとは。あまりにも彼女がしつこく絡んで来るから、Aクラスではみんな嫌悪感でいっぱいだった。私も被害にあった一人だった。
さっきまで不安定だった教室の空気が、今度は心配の色に代わり、あちこちでアリシア様を心配する言葉が聞こえてきた。
しばらくすると殿下が教室にこられて、心配するみんなに感謝をのべられた。表情にはでていないけれどおそらく、殿下もかなり心を痛めているように見えた。
殿下が教室を出られると、ラドニー先生が少ししていらっしゃったので、みんなの気持ちが高揚し先生を次々に称えた。ラドニー先生は戸惑いながらも担任のサフォーネ先生を探しに出て行かれた。
そんな中、誰が言ったのか
「殿下とアリシア様を守り隊を結成したいわ」
あ、私も入りたい……。
ちらりとサイテス様を見ると、ダメですとばかりに首を振られた。
残念。
取りまとめをしたタキレス様はくれぐれも相手の生徒には手を出さないようにと言い、殿下たちに反撃するかもしれないためだと説明されていた。
サイテス様からこっそりとアリシア様たちはこのあと帰られることを聞き、私はアリシア様の無事を祈った。
今日の授業が終わり、サイテス様がうちまで送ってくださったが、サイテス様は城にそのまま行かれた。
私はというと、お菓子パーティーをする予定のお菓子が丸々あまっていたので、サラの子たちを呼びおやつにすることにした。
アリシア様も殿下も心穏やかに過ごせますように。お菓子を見つめながらも願わずにはいられなかった。
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