73、約束
夕方、私はエドワード様には悪いなあと思いつつ、エドワード様の執務中にソファーで寝てしまっていた。たくさんのキスに顔は赤くなりっぱなしで、体が疲れてしまっていた。
その間にお父様が様子を見に訪ねてきたらしく、「ここでならよく眠れるんだな」と言いながら頭を撫でて退室していったらしい。
「公爵はアリが心配でたまらないらしいね」
クスクス笑いながら、エドワード様は私の頭を撫でていたため、私は気持ちがよくて頭がボーッとしていた。この部屋にエドワード様といる時だけは不安がすべてなくなり、安心していられる。
「そういえば、縄抜けはできるようになったの?」
今、学園でラドニー先生の授業がちょうど縄抜けで、私は何回やってもうまくいかず、先生から課題を出されていた。
「それが、エマと練習してたのですがうまくいかなくて……」
「縄抜けなら僕も教えてあげられるけれど、今からやってみる?」
「はい、お願いします」
侍女に腕を縛る縄を用意してもらい、エドワード様がお手本を見せてくださることになり、私がエドワード様を後ろ手に結ぶ。私なりにきつく結んだはずが、エドワード様は短時間でするすると縄を抜け出した。
「王族はどうしても狙われやすいからね。金属でなければ抜け出せるよ」
私はエドワード様のお手本を頭に入れ、後ろ手に結んでもらっているところに、ちょうど王妃様が侍女も連れずにいらっしゃり、ノックと同時に扉を開けて入室された。
「エドワード! アリシアちゃんになんてことしてるの!」
「……え?」
「……え?」
お互いに固まったままで、いち早くエドワード様が覚醒し
「母上、これはラドニーからの課題で縄抜けの練習中です」
「だって、腕を縛りたいから縄を持ってこさせるようにいうなんて、ついに監き……閉じ込め……んー……とにかくアリシアちゃんが危ないと思って……」
「母上、少しは息子を信じてくださいよ」
か、監禁? 閉じ込める?
いやいや、そんなこと……
ある?
「あーもう! アリシアを怖がらせることしないでください」
と言いながら、エドワード様は王妃様の肩を押して、部屋から追い出してしまった。
「アリ、さ、続きをしよう」
私は後ろ手に縛られて、エドワード様のお手本通りにしているつもりが、エドワード様から指摘があった。
「アリ、ここは反対側に曲げるんだよ」
「ここですか?」
しばらく縄と格闘していると、するっと抜けた。
「ぬ、抜けた……」
「アリ、お疲れ様」
初めて自力で、といってもアドバイスをされながら縄抜けができた。忘れないうちにもう一度と思っていたが、夕食の時間になりエドワード様にエスコートされながら食堂に向かう。今日の夕食は陛下と王妃様ともご一緒にいただく予定だった。
食堂につくと、カトラリーが用意してあり、私たちのすぐあとに陛下方もすぐに来られた。
「さっきはごめんなさいね。わたくしてっきり……」
「王妃様、私、エドワード様のおかげで縄抜けが初めてできたのですよ」
ニコニコしながら話すと陛下も王妃様も頑張っていることを口々に誉めてくださった。
「父上も母上もアリを好きすぎる……。アリは僕のですからね」
「分かってますよ。でも少しくらいアリシアちゃんと話してもいいではないですか」
「そうだよ。二人だけのクラスにしてあげたんだから……ね?」
二人のクラスは陛下がしてくださったようだ。
「二人だけのクラスは陛下がしてくださってたのですね。すごく安心感があって、エドワード様と学べてうれしく思っています。ありがとうございます」
「うんうん、かわいいねえ」
「未来の娘ちゃんがかわいすぎるわ」
「父上、母上、それぐらいにして食事にしましょう」
エドワード様は何かを諦めたようだ……。それからも久しぶりだったからか、王妃様の話は止まらず、いつもよりもかなり賑やかな夕食だった。私を気に掛けてくださいつつ、エドワード様にもさりげなく話を振られるところは見習いたいなと思う。
夕食が終わり、湯あみなど寝る準備が終わってから、私とエドワード様はバルコニーに出て星を眺めていた。
「アリ、今日は父上と母上がごめんね」
「私は楽しかったですよ」
「そうかなあ。嫌なことがあったらすぐに言ってね」
「大丈夫ですよ。エドのご両親なのですから、そんなことはなさいません」
「そうだといいのだけど……」
最近のエドワード様は特に心配性で、自分が原因だとは分かりつつも、心配されるのが内心うれしかった。もちろん、申し訳ない気持ちもある。
あまり自分から愛情表現を出すことはないが故に心配させている部分もある。それならばと、私は無言でエドワード様の方を向き、腕をエドワード様の首に回した。驚いているエドワード様を無視して私は軽く当てるだけの口づけをすると、とろけるような笑顔になるエドワード様がいた。そのまま深い口づけをし、立てなくなった私をエドワード様が横抱きにして、私たちはベッドに入った。
「アリ、いつか……」
「……はい」
私たちは抱き合って眠りについた。
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