71、不在
学園に通い始めて数日、不安だった学園にもだんだん慣れてきたころ新入生歓迎会の話があった。本来ならすでに終了しているはずが、第一王子の参加なくして行えないと一部の生徒と教師が反対し延期になっていたのだ。
さらに、今までは自由参加だったのが、王子が参加するのだからと全員強制参加が王子がいない間に決まったらしい。学園の長であるエドワード様の叔父、アルフレッド・グレイスリー殿下は今は地方に視察に行っていて、学園長不在の中で決まったらしい。馬車の中でその話題になり、エドワード様が困った顔をしていた。
「執務が忙しいという理由にして参加するつもりはなかったのだが……」
「ではお断りなさいますか?」
「レオナルドは毎年どうしていた?」
「参加したことありませんでしたが、今年は生徒会に所属しているので役割があります」
「これは全員が参加になってしまったのだよね?」
「そうなってますね……」
「正直なところ行きたくない。参加したくない。気が進まない」
「まあ、そうですよね……」
「私は行かなければならないようなので、エド……が参加してくださると心強いです」
「!」
お兄様がものすごく驚いているのを感じながら私はエドワード様を見ていた。
「アリ、シア? 呼び名が……?」
「僕がアリだけの愛称で呼んでほしいって言ったんだよ」
私がエドと呼ぶのを初めて聞いたらしい。エドワード様はニコニコとお兄様に説明するも、対照的にものすごく嫌そうな顔のお兄様。なるべくお兄様の前では愛称で呼ばないようにしようと思った。
「アリが参加するならエスコートは僕だから参加するよ。ただし、全生徒参加であれば対策は必要だね」
「はい。進行表と配置図を明日にはお渡しします」
お兄様は仕事となるとキリッとした顔になり、切り替えが早い。さっきまでの嫌そうな顔はすでになくなっていた。
「歓迎会の衣装は制服だったな」
「はい、地方からきた生徒への配慮だそうです」
「僕の贈る衣装を着たアリを見たかったなあ」
エドワード様は少し残念そうにしながら私の腰においていた手に力を入れたので、私はぴったりとエドワード様に引き寄せられた。
「あー……そういうことは私がいないときにしてください」
と言うと、私をエドワード様からぺりっと剥がしたお兄様が、私の肩に腕を乗せ抱き寄せた。僕の婚約者だとか私の妹だとか毎回言い合いになっているが、私は無だ。無になってしまおう。
先日のお泊まりのときから数日経った昨日、お父様に呼ばれ話をした。
「アリシア、陛下と共に決めたのだが、学園がお休みの前日に毎週アリシアは王城に一泊させることにしたよ」
「え?」
「レオナルドは嫌がると思うが決定事項だ」
「はい、わかりました」
そして、今日がその日であった。公爵家につき、一旦降りて準備をする。その間、エドワード様は応接室でお兄様と真剣に話をしていた。支度が終わり、応接室に入るとちょうど話が終わったようでエドワード様に手招きをされた。
「レオナルドとの話も終わったし、そろそろ出発してもいいかな?」
「はい、お待たせいたしました」
「では行こうか」
エドワード様は私の腰に手を置き、お兄様に「また明日」と声をかけると私を連れて馬車に向かった。
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