64、協力
しばらくして私たちの前に現れたのはAクラスの副担任のラドニー先生だった。
ラドニー先生はエドワード様が入学するのに合わせて王家が配置替えをして学園の先生になり、さらに副担任になった方だが、元々は近衛騎士団長だった方だ。三年前に肩を痛めて現役を退いたらしいが、エドワード様曰く「怪我をしてても強い」とのこと。その後は護衛騎士団の指導をしたり、執務をしたりされていた。今この学園では剣術と歴史とで教鞭をとっている。
「ラドニー先生よろしくお願いします」
「殿下や未来の妃殿下に先生と言われるのはむず痒いですね」
ニカッと笑いながら言うラドニー先生はとても近衛騎士団長だったとは思えないくらい表情豊かだった。
「授業に関して、お二人は座学の内容はすでに習得されているので、授業はそれとは別のことを考えています。剣術は殿下は毎日されていますが、私ともしましょうね。アリシア様は護身術をお教えいたしますね。今日は初日ですし、私はこちらでは新米ですが学園の案内をいたしますね」
主に私たちが使う部屋の案内をラドニー先生がしてくださることになった。
今は他のクラスは授業中で廊下には護衛の騎士がいるだけでとても静かだ。
「本館はここですね。生徒会室とAクラスの間の扉の前と、殿下とアリシア様の教室の前には交代で必ず騎士が控えております。騎士は私が選出しましたので安心してください。では下に降りましょう」
ちなみにお兄様のクラスは生徒会室の並びの三つ隣にあり、同じ三階にあるので休み時間のたびに会いに来そうな気がする……。
「一階に職員の部屋ですね。保健室も一階です。この本館の他に二号館、三号館がありますが、三号館はCクラス以下のクラスの教室のみなので、二号館に行きましょう」
本館から通路を通り中庭を見ながら二号館に行くと外から食堂が見えた。一階は食堂とサロンがあり、二階と三階の一部に実験室や研究室、三階の奥に図書室がある。さらっと全部の部屋を確認しつつ回った。
「殿下やアリシア様に関係するのは二号館だと食堂と図書室ぐらいですかね。あとは中庭の向こうにある道場と本館の向こう側の講堂あたりですかね」
私はエドワード様にエスコートされながら校舎を見て回る。心の中では、見たことがあるところばかりで前世の夢はほんとうだったのだと考えていた。
「アリ、大丈夫?顔色が悪いよ」
「大丈夫です。少し疲れただけです」
「ではそろそろ教室に戻りましょう」
二号館から本館への渡り廊下を歩いていると午前の授業時間が終わったようでちらほら生徒が出てきた。
出てきた生徒にエドワード様が見つかり人だかりになりそうだったのを見て、私たちは急いで教室に戻った。
「アリ、顔色が悪いね。今日はもう帰ろう。初日から無理することはないよ」
そんなに顔色が悪いつもりがなかったけれども、青白くなっていたようでラドニー先生にも早く帰った方がいいと言われた。話をしてる最中、ちょうどお兄様が訪ねてきた。
「アリシア、お昼に行こうか……って顔色が悪いよ」
「あぁ、今から帰ろうと言ってたところだよ。レオナルドはどうする?」
「私は残念ながら次の授業は抜けられないので授業を受けてから帰ります。エドワード王子、アリシアをよろしくお願いします」
「分かった。ではアリシア帰ろう。ラドニー先生、今日はこれで失礼いたします」
「先生、すみません」
「いいえ、アリシア様、お大事になさってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
私たちは馬車の待機所に行こうと廊下に出たところでちょうどタキレス様が来てエドワード様に告げた。
「今は出ない方がいい。例の男爵令嬢が本館にきている」
「そうか。ではアリシア、少しここで待機しよう。タキレスどんな様子だった?」
「エドワードを見かけた人がいるって聞いて来たようで、今探し回ってる。昼休憩が終われば教室に戻るとは思うからしばらくは待機だな」
タキレス様の話を聞いて、私たちは一旦教室に入ることにした。
「アリシア顔色が悪いままだね」
といってお兄様が私の口に小さなあめ玉を入れた。
「お兄様、ありがとうございます」
甘い飴に少し気持ちが浮上したが、マリアンナ男爵令嬢がここをいつか見つけるのも時間の問題かもしれないと思うとため息しか出なかった。
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