33、困惑
外に出るとなんとなく見覚えがある通りに出た。右側は貴族のお屋敷の方よね。だったら左側に行って市井の方に出てみましょう。
全くあてはないけれど、きっとなにか仕事ぐらい見つかるはず。私は左に出て、進行方向をまっすぐ休み休み歩き出した。さすがに病み上がりには少しつらい。
三十分ほどゆっくり歩いた頃、後ろから来た馬車が私の横を通りすぎてすぐに二十メートルほど先でゆっくりと止まった。馬車を見ると王家の紋章が入っており、邪魔にならないように、不敬にならないようにと、その手前で私は左側に曲がって歩くことにした。
「次で右に曲がれば市井に着くわね」
景色を見ながら歩いていると、バタバタと後ろから足音がし、急に腕を掴まれた。
「アリシア、どこに行くの?」
え? エドワード王子?
私は慌てて丁寧に挨拶をした。
「はじめてお目にかかります」
私は頭を下げるけれども、自分の名前がわからない。迷ったけれども頭を下げたままにしていた。
すると、手を引かれそのまま抱きしめられた。
私は訳がわからず、目を白黒させる。
「あ、あの……だれかとお間違えではないですか?」
ドキドキしながら話しかけると、エドワード王子は体を離し、分かりやすく傷ついたような顔をされた。
「失礼します」
私は頭を下げ去ろうとしたところ、腕を再び掴まれた。
「あの……」
「ごめんね、アリ。僕はアリを放してあげられないんだ。僕と一緒に来てもらうよ」
私はエドワード王子に腕を掴まれたまま馬車に乗せられたが、なぜなのか全く分からなかった。アリ……?
不安になりながらエドワード王子の隣に座り、どこに連れていかれるのかもわからずもどうしようもなく、大人しく座っていた。
ほどなくして着いたのは王城だった。
「王城……なん、で……?」
「アリには診察を受けてもらう」
「診察?」
「公爵のところの医師を信用してないわけではない。治るきっかけがないか模索したい」
「治る……?」
エドワード王子の言ってることに理解がおいつかない。なぜ私が王城の医師に診てもらうのか……?
「あ、の……エドワード王子はなぜ私に……」
「エドワード様」
「え?」
「アリは僕のことをエドワード様って呼んでたよ」
「エドワード……さ、ま?」
「うん。一つずつゆっくり教えるから、まずは診察を受けてね」
エドワード王子はふわりと微笑んだ。
公爵家で受けたような医師からの質問を延々と受けるのかと思ったら違った。
催眠療法というものをするらしい。
「アリシア様。今から眠っていただきます。薬を使ったりするわけではありませんので安心してください」
お医者様に話しかけられていると、だんだん眠くなってきた。まぶたが重い……。
はっと気がつくと、なぜか分からないが涙がどんどん出てきた。なんだろう?よくわからないけれど、泣いちゃえ。
私は声をあげて泣いた。
どれくらい泣いたのか……。気がつくとエドワード王子の腕の中にいた。
エドワード王子を見ると今にも泣きそうな顔に見え、私は不敬だとは思いつつ、エドワード王子の頬を両手で挟みエドワード王子の目を見つめた。
なぜかは分からないけれど、エドワード王子を見て懐かしいと思った。思わずニコッと笑うとエドワード王子は私の頬を私と同じように手で挟み、そのまま顔を引き寄せてキスをした。
唇に柔らかい感触があり、エドワード王子は食むようにしたあと、すぐに唇を離した。
「な、んで……」
「なんでだろうね」
エドワード王子は泣くように笑った。
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