15、苦楽
私は頭を撫でられる感触に気持ちよさを感じながら眠っていた。悪夢という名の過去の自分に会うこともなく、久しぶりにぐっすりと寝ていた。
「ふわぁー」
起きたと同時に大きなあくびをする……と共に首を触る。
ん? 何かしら?
ガーゼ……?
とたんにガタガタと震えだす。心臓がドクドク鳴る。
「お嬢様、おはようございます。いかがなさいましたか?」
え?
横を向くと専属侍女のエマがいた。
「く、首に……」
「あぁ、それでしたら、昨晩爪で引っ掛けたとのことでしたので、軟膏を塗りましたがまだ痛みますか?」
「へ? 爪?」
自分の爪をみると、確かに伸びている。
そう認識すると震えも心臓の音もおさまっていった。
「あ、ありがとう。ちょっと記憶がなくて……痛みはないわ」
「二、三日もすればきれいに治りますよ。朝食はいかがなさいますか?」
お部屋でと答えると、エマはにっこり笑って食事を取りに行ってくれた。
私、いつの間に爪で引っ掛けたのかしら? 覚えてないのはきっと熱のせいね。
そう思うと体が楽になった。
「お嬢様は無理をすると発熱されるので、念のため今日もお部屋でお過ごしくださいね」
食後の紅茶を頂きながら私は頷いた。
さらに、今日から一日中、部屋に侍女がつくことになり、体調が悪くなったらすぐに言うようにとエマから言われた。
今日はエマが一日中部屋にいて、エマと長時間お話したのは生まれて初めてだった。
午後になるとエドワード王子が訪ねてきた。
『アリ、覚えていてね。僕が愛するのはアリ、あなただけだよ。僕はアリを愛しているよ』
私は急に思い出して赤面する。あれは夢だったのかしら……?
「アリ、起きてて大丈夫なの?」
「はい。熱も下がりました。私なんかのために来ていただきすみません」
「ほかでもない、アリのためだから来たんだよ。熱が下がったわりには顔が赤いね。今日もゆっくり休むんだよ。ん? 首はどうしたの?」
「爪で……爪で引っ掛けたようです。二、三日で治りますので大丈夫です。」
「そう。治るならよかった……。
アリ、この前のは覚えている?」
きょとんとするとエドワード王子は耳元で
「アリ、覚えていてね。僕が愛するのはアリ、あなただけだよ。僕はアリを愛しているよ」
と囁いた。
とたんに顔が真っ赤になる。
「覚えてます」
「僕の気持ちは変わらないよ。どんなことがあっても、アリを愛してるし、アリ以外に興味はない。アリを手に入れるためならなんだってする」
「……」
私はエドワード王子のことを信じていいのか分からない。
夢見が悪すぎて、意識がそっちに引っ張られがちで、頭が混乱する。
「私……頭が混乱して……」
「うん、今はまだ混乱しててもいいよ。夢の内容を一つずつ潰せば、いつか信じてくれるようになるから。でも、僕が愛を伝えるのはやめないよ。アリに知っていてもらいたいからね」
エドワード王子は優しく笑い、優しい声で話す。
「ノートは学園に入学してからのことばかりだ。それまでに二人で対策を立てよう。僕のできる限りの力を使って、アリを守るよ」
「はい……」
夢では険しい顔ばかりのエドワード王子、そのエドワード王子の私に向ける笑顔と優しい声に、私の心はほっとする。
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