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1、プロローグ

 

 

「さて、どうしたものかな」


 雲一つない青空の下、見渡す限りの草原の中に、ぽつんと一人。

 途方に暮れながら、ここまでの出来事を思い出す。



ーーーーーー



 オレの名前は佐藤さとう あきら。十七歳。平凡な名前から分かる通り、平凡な容姿と頭脳を持った、人並みにエロくてゲスい、どこにでもいる高校生だ。


 今朝も、いつもの時間に起き、家族と朝食を食べてから学校へ行き、友人達と変わらぬ時間を過ごし、いつものように塾へ行った帰り道。

 ふと、後ろから照らす光に気付き、振り返った時に見えたのは、間近に迫る車の姿だった。


 ボンヤリした目のハゲオヤジの頬が赤く染まっていたのが、はね飛ばされ、横になり縦回転して過ぎ行く視界にやけにハッキリ見えて。


(あ、こいつ飲酒運転だな)


 なんて、冷静に思った所で視界が暗転。そして気がつけば真っ暗な空間に立っていた。


「……ここ、は?」


 周囲にあるのはただひたすら暗い空間だが、声の反響から、なんとなく狭い空間ではなさそうに思える。また、不思議なことに自分の姿がはっきり見えることから、暗闇の中に居るのではないようだ。

 状況を理解しかねて少し呆然としたが、やがて落ち着くと、この空間で気がつく直前にあったはずの出来事を思い出した。


(オレは……死んだ、のか? ということは、ここが死後の世界ってやつか)


 車にはねられた痛みは感じなかったし、宙を舞った後の記憶はないが。


(……はぁ、つまらない人生だったな)


 どういう訳か、ストンと自分の死を受け入れてしまった。


(というか、三途の川とかないのかね)


 これからどうなるのだろう。なんて思っていると、いつの間にか目の前には眩しくない光の玉浮かんでいて。


「やあ、こんにちは」


 しかもその光の玉が話しかけてきた。


「……」

「キミに頼みがあるんだけど、いいかな?」

「……」

「と言っても、拒否権はないんだけど」

「……」

「……おーい」

「……」

「あれ? おかしいな……、聞こえてない? ……それとも、翻訳がうまく出来てないのかな?」


 予期せぬ出来事に呆然とし、うっかり無視する形になってしまった。

 だが、徐々に現状を理解すると。


「コレってあれかな!? ひょっとして異世界に転生させてくれるってやつかな!?」


 少しオタクが入っていると自覚するオレには一連の出来事に心当たりがあり、落ち込んでいたことなど忘れてワクワクしながら問い返す。


「お、おう。まぁ、そんな感じなんだけど……。よく分かったね」

「うおぉぉぉ、マジで!?」


 どうやら思い違いではないらしい。ならば、アレはどうだろう。


「ということは、チートとか貰えるのかな?」


 ゲームで遊ぶならチートなんて要らない。しかし、実際に異世界に転生するなら、オレのような凡人にはチートが必須だろう。


「チート? ……凄い能力、かな? うん、それも必要だろうね」


 そして、これまたオレの知る物語のように、問題なくチート能力も貰えるらしい。


「よっしゃー! あんまり信じてなかったけど、神様ありがとー!」


 そこで、ふと最初の方で気になる部分があったのを思い出し。


(って、ん? さっき翻訳とか言ってた? ひょっとして神様ではないのかな?)


 そこまで思ったところで答えが返ってくる。


「いや。キミにとっては神様みたいなものだよ。翻訳っていうのは、キミとボクでは存在が違い過ぎるから、ボクの意思をキミの記憶の中の言葉に置き換えるツールを使っているからさ」


 どうやら考えただけで伝わっているらしいが、上位存在ならばそんなものだろう。と、それについては深く考えないことにする。


「神様みたいなもの?」

「う〜ん、何と言えばいいのかな? ……キミ達の世界は、僕らにとってはゲームのようなものなんだよ」

「な!?」

「システムの製作者とプレイヤーは別だし。ボクは、沢山いるプレイヤーの一人にすぎない」


 それは、知られざる世界の真実。

 だが。


「……なるほど、ゲームのようなもの、か。まぁ、その可能性は考えたことがある」


 予想だにしない真実、という訳ではない。世界や街を作るゲームをプレイしたことがある人なら、一度は考えることではないだろうか。


「へえ、取り乱すかもと思ったんだけど……。ご理解いただけて良かったよ」

「きっと、そっちの世界にも、さらに上の世界があるのだろうから、ね」

「そして、さらにその上にもね」


 お互いにニヤリと笑ったような気がして、その存在を少し近くに感じる。


「ちなみに、貴方の身分? って何になるのかな? 世界は沢山持てるものなの?」

「キミと同じ学生だよ。ボクが持っている世界は今のところ二つ。キミがいた世界と、これからキミを送る世界だよ」

「はは、学生……か。まさにゲームなんだね……」


 オレが存在していた世界は、上位世界の学生がお手軽に遊べるゲームでしかなかった。だが、それがどれほどの事だと言うのだろうか。


(世界の真実がどうあれ、オレはオレであることしか出来ないし、ね)


 これまた深く考えないことにして、本題に入る。


「で、行くのはどんな所なんだい? 出来れば、その理由も教えてくれると嬉しいんだけど」


 上位存在とはいえ同じ学生であると聞いたためか、さほど丁寧でもなかった言葉がさらに砕けた。


「うん、そうだね。今からキミを送るのは、いわゆる剣と魔法の世界なんだけど、その世界は五千年ほど停滞していてね。その世界に変化を促すためにキミを送るんだよ」

「変化を促す、ね。具体的には、何をすれば良いのかな?」

「何もする必要はないよ。ただ、出来るだけ長生きしてくれれば」

「それだけ?」

「うん。キミという異物が長く留まるほど、その世界が変化する可能性は高くなる」


 魔王を倒して来い。と言われても困るが、あまりにも簡単なことに思えて少し不安になり、改めて聞いてみる。


「チートが貰えるって話だったけど……?」

「うん。どんなのがいい?」

「……何でも出来る。……とか無理かな?」


 疑問に質問で返され、それならばと、否定されて当然の要求をしてみると。


「うーん……。漠然とし過ぎて……」

「まぁ、そうだよね――」

「あ、これなんかどうかな? 《創造》っていうのがあるけど?」

「――って、創造?」

「物質も、物質でないものも、一部制限はあるけど、想像出来るあらゆるものを創ることが出来るみたいだね」

「……それって、もの凄い能力なんじゃ? 大丈夫なの?」

「うん。問題ないよ」


 かなり無茶な要求をしたつもりだったのだが、どうやら通ってしまったようだ。


「是非! それでお願いします!」

「はい。で、その能力を使うには魔力が要るみたいだから、《無限の魔力》も付けておくね。他に何かある?」


 しかも、まだまだ要求して良いようだ。求められることのわりに、与えられるものがもの凄いことになっている気がする。


「それなら、形作る想像力の強化と、曖昧な認識でも大丈夫な補助が欲しい」


 剣と魔法の世界なら、武器や防具を創ることもあるだろう。その際、切れない剣や歪んで身につけられない鎧なんて物が出来ても困る。


「《想像力強化》があるね。後は、う〜ん……。《世界の理による最適化》と《思考からの拡張解釈》、で良いかな?」

「お、おう。なんか凄そうなんだけど、本当に大丈夫?」

「停滞した世界へ、そことは趣きの異なる世界の住人を送り変化を促す。それは、こちらのプレイヤー達にとっては一般的な手法なんだけど、ボクがそれをするのは初めてなんだよね。だから加減がよく分からないんだよ。

 ……っと、設定完了。これで大丈夫かな? 他になければ、そろそろ送るけど?」

「あ、あぁ……、大丈夫」


 そこで、ふと気になって聞いてみる。


「オレが選ばれた理由って、何かあるの?」

「いや。こちらが必要とした時にキミの世界で失われた沢山の命、その中からランダムで選ばれただけだよ」

「なるほど、ね。……ありがとな」

「ん?」

「貴方のおかげで、オレはまた生きられる」

「……ははっ、ギブアンドテイクだよ。では、幸運を祈る」


 少し照れたような気配を感じた次の瞬間、再び視界が暗転した。

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