【3】お昼の契約
「今日は3時から雨となるでしょう」
その言葉を聞けば普通学校に行くのが少し嫌になるが今日はそうではない。
今日久しぶりに人と食べることができるからだ。制服に着替え、歯磨き・顔を洗い、弁当袋に保冷剤とゼリー3パックを詰めた物を鞄に入れた。靴を履き、冷たいドアノブをひねり家を出る。
道中何を話そうかを考えていた。好きな食べ物・趣味など色々なことを考えてながら歩いていた。
そう考えていると気がつけば学校に着いていた。教室に入るとクラスは昨日と違って穏やかな雰囲気であった。
隣の人の席に視線を向けると、人だかりができていた。隣の人はそれくらい人気があるのだろう。
特に挨拶もすることもなく席に着いた。暇だから窓を見ていると反射で隣の人が机の下で窓に向かって手を振っているのを見えた。
しかし、顔の向きは窓の方には向いていない。本当に自分に対してやっているかは不明だった。
が、一応お返しと認識してくれるかは分からないが顔を載せてる手の指を振り返してやった。
授業を耐え抜いてお昼休みの時間になった。駐輪場の方へ歩いていき、隣の人が座っている所まで歩いて来た。
「お疲れ様。」
「君もお疲れ様だよ。」
隣の人は嬉しそうにこちらを見る。オレンジ色に変色しながら。
お互いトタン屋根の下でお弁当を広げる。昨日と同じく、美味しそうなお弁当と簡素過ぎる僕のゼリー弁当。
すると、僕のゼリーを見ながらこう聞いてくる。
「それって美味しいの?食べた事なくて。」
子供がお菓子をねだるように見てくるので僕は一本をあげることにした。
「いいの?じゃあいただくね。」
キャップをパキッと開け、ゼリーをチューチューする。目は輝き、髪と目が黄色に変色しながら食べる。
見てて楽しいし、ゼリーを美味しそうに食べるのを初めて見た。
「こんなに美味しい物だなんて思わなかった。」
「どこでも売っているし買ってみたらどう?」
「こういうの買うと家に怒られるからダメなんだよね。」
苦笑いをしながらそう言う事情があるならこう言えばいい。
「じゃあ、お昼にゼリーあげようか?」と。
でも、少し困った顔をして言われる。
「え、でもゼリーっていい値段しない?そんなのもらうのは申し訳ないからいいよ」
「大丈夫、家に大量にゼリーがあるから毎日一本あげてもいけるよ。」
「じゃあ、お願いするね!」
嬉しそうに言うと、弁当の蓋におかずを載せて僕に差し出してきた。
「これ、お礼どうぞ。」
お弁当の蓋には焼き具合も完璧な卵焼きと表面が艶々なトマトが載っていた。
お礼と言うならばすぐ食べるべきだと思い口に入れる。
「いただきます」
口に入れた瞬間美味しいと感じた。それはゼリーでも同様に思う。しかし、量産された味ではこの家庭独自の懐かしい味を生み出せないだろう。
「半泣きするほど美味しかったの?」
咄嗟に目を触ると濡れている感覚があった。こんな感情になったのは始めてで自分でも驚いた。
「すごく。」
この一言しか思いつかなかった。驚いた顔をされながら少し照れくさそうに僕にこう言う。
「そっか…じゃあお昼ゼリーと交換しない?」
「それでよろしくお願いします。」
ゼリーとの交換なら1本でも2本でも出そうと思える程この交換は僕にとってはすごく嬉しかった。
こうしてお昼にお弁当の交換契約を結んだ。その時の色は濃いオレンジの色をしていた。
その後は自分たちの弁当を食べているが、お互い気まずくて話しのネタを出そうとはしない。
すると、相手から話しかけて来た。
「そういえば朝、指で挨拶返してた?」
「やっぱり朝、机の下から挨拶してたのか。」
「よく気がつけたね…ん?」
コンッ…
トタン屋根が何かが当たった時の反響音が耳の鼓膜を揺らす。湿った空気の匂いが僕の鼻を触る。
「そういえば、今日雨降るんだっけ?傘持ってきた?」
その言葉は僕の神経を揺さぶる言葉であった。どんな顔をしているかは分からないがこう答える。
「持ってきてるよ。ちゃんと。」




