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【4作目・執筆中】青嵐の旗を掲げて ~地方議会・立志激闘篇~  作者: 立花大二
第四部:洗礼篇

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第四十一話:再選への道標


再選に向けた戦いは四年前とは全く様相が異なっていた。

あの頃の晴斗は失うもののないただの挑戦者だった。だが今の彼には守るべきものがある。一期四年という議員としての実績。そして彼を信じてくれる市民とのささやかな、しかし確かな繋がり。それら全てが評価の対象となるのだ。


市川率いる最大会派の動きは予想通り執拗かつ巧妙だった。

彼らは晴斗の実績について「地域に目に見える成果を何ももたらしていない」というネガティブキャンペーンを地域情報誌や各種団体の会報を通じてじわじわと浸透させていった。

「口先だけのパフォーマンス議員」

「議会の和を乱すトラブルメーカー」

四年前のデマとは違う。事実を巧みに捻じ曲げたより悪質なレッテル貼りだった。


さらに市川たちは晴斗の選挙区に強力な「刺客」を擁立した。

地元で代々続く病院の若き院長。クリーンなイメージと豊富な資金力。そして医師会という強力な組織票。

四年前の相馬とは格が違う。本気で晴斗を落とすための対抗馬だった。


「……厳しい戦いになりますね」

事務所で健太が深刻な顔で分析結果を報告した。

「向こうの陣営は俺たちのSNSでの情報発信を徹底的に研究しています。俺たちが政策を発表すればすぐに対するカウンターの公約を出してくる。……完全に俺たちはマークされています」


仲間たちの顔に不安の色が浮かぶ。

四年前のあの奇跡のような勝利をもう一度再現できるのか。

誰もが自信を持ちきれずにいた。


その重苦しい空気を打ち破ったのは一本の電話だった。

電話の主はあの現場監督の男だった。四年前、敵陣の中から晴斗に情報をリークしてくれたあの男だ。

「……木島先生かい。久しぶりだな。ちょっと会えねえか」


数日後、晴斗は人目を忍び深夜の工事現場のプレハブ事務所で男と向かい合っていた。

男は缶コーヒーを一本晴斗に差し出した。

「……先生の苦しい立場は俺もよくわかってる。市川先生への恩義もある。だから表立って応援はできねえ。すまねえ」

「いえ……。お気持ちだけで十分です」


「だがな」

男は続けた。

「この四年間、先生がたった一人で議会で俺たちの生活のために戦ってきてくれたこと。俺たちはちゃんと見てるぜ。あんたがしつこく言ってくれたおかげで公共工事の入札の仕組みが少しだけクリーンになった。俺たちみたいな地元の中小企業にもチャンスが回ってくるようになった。……誰も気づかねえような小さな変化かもしれねえ。だが俺たちにとっては死活問題なんだ」


彼は作業着の胸ポケットから一枚の折りたたまれた紙を取り出した。

それは葉山市の地図だった。

その地図には赤や青のマジックで無数の印がつけられていた。


「こいつは俺の仲間たちが作った地図だ」

男は少し誇らしげに言った。

「この赤い印はな、先生のことを陰ながら応援してくれてる商店や工場の場所だ。表立っては言えねえが心は先生と共にあるって奴らだ」

「……!」

「そしてこの青い印。こいつはまだどっちにつくか決めかねてる連中だ。市川先生への義理と先生への期待。その間で揺れてる。……こいつらをどっちに振り向かせられるかが今度の選挙の鍵になる」


それは晴斗たちが決して手に入れることのできない敵の地盤の内部情報。

そしてこの四年間で晴斗が水面下で築き上げてきた声なき「地盤」の可視化された姿だった。


「先生。俺たちは武器は持てねえ。だがな、道案内くらいはできる」

男はその地図を晴斗の手に押し付けた。

「この地図をあんたの再選への道標にしてくれ」


晴斗はその使い込まれた地図を強く握りしめた。

ずしりと重い。

それはただの紙ではなかった。

声には出せないがそれでもこの街の未来を諦めていない名もなき人々の魂の重みだった。


事務所に戻った晴斗は仲間たちにその地図を広げて見せた。

皆の目に再び光が宿った。

そうだ。

自分たちの戦いは決して無駄ではなかった。

蒔いてきた種は見えない場所で確かに根を張り大きなネットワークを作り上げていたのだ。


「……皆さん」

晴斗は仲間たちの顔を見回した。

「四年前、俺はたった一人でこの戦いを始めました。でも今は違う。俺たちにはこんなにも多くの声なき仲間がいる」


彼は事務所の壁にその新しい地図を力強く貼り付けた。

それは彼らのこれから始まる再選への戦いの羅針盤となる希望の道標だった。


「さあ始めましょう。俺たちの二度目の戦いを」

晴斗の声にはもう迷いはなかった。

一期目の終焉。

それは次なるより大きな戦いの始まりを告げる号砲でもあった。


第四部、了。

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