ゴブリン打ち明ける
俺は、もうそちらへは行けないのだろうか。たった数メートルが届くことのない距離に感じられる。
俺が一歩進むとゴリザベートはジリッと後ろに下がる。ダンジョンの壁や床というのは何者も通さない。姫様の足元にできた水溜りは広がる一方だ。
言い訳が思いつかない。流石に鬼人族だから鬼人化なんてのは鬼人族も差別されかねない。全てを正直に語ろう。
俺はこれまでの経緯、人間界でやろうとした事を全て話した。ただ姫様に会いたかったのだ、と。
ゴリザベートの肩の力が抜ける。姫様の目に光が戻る。
「やっぱり貴方はあの時の。」
「なんとなくそうじゃないかと思ってた。いつか、私をこの窮屈な国から攫ってくれるんじゃないかって。」
「まさか正面から会いにくるなんて思ってなかった。でも、会いにきてくれて嬉しい。」
こちらに歩いてくる。そして、呆然と立つ俺はギュッと抱きしめられる。ふわっといい香りが鼻腔をくすぐる。俺は大粒の涙を流した。
しばらくしてから姫様の顔が真っ赤に染まる。そう、失禁して濡れた服で抱きついている事に気がついたのだ。俺は魔法で、ダンジョン内の水溜り、衣服に着いた水分全てを球形にして、シュンっと消した。
「ありがと。」
と、複雑な顔をしていう。
ゴリザベートは、それを見守った後話し出す。
「これを見たのは私達二人だけだし、報告しなければ問題なく人間としての生活を送れるでしょう。それに。」
「もし、貴殿が人間に悪意のあるモンスターなら、その実力で王国の守備など気にせずに王位継承権はないに等しい姫様をさらう事など容易だったはずだ。」
「ここでの事は私達だけの秘密だ。」
ゴリザベートは指を出す、姫様と俺も指を出し、指を合わせて話さない事を約束した。
気絶したリリィと、試験官を起こし異常事態という事で、脱出した。
結果としてここから先の試験は免除特待生として学費は免除、最上位のクラスで学園生活が始められることが決まった。そしてその代わりに口をつぐむ事を約束させられた。
まぁ、バレてしまったら貴族たちからの反発、学園の信用が揺るぎかねない。更にこの人造ダンジョンは王国が管理しているという事で、王国も批判を避けられない。
異常も見られなかったという事で、何事もなかったかの様に処理された。
数日後、正確な合格届けが届いた。正直、目的は全て果たした気もするが、悪い虫が付かないとは限りないし、俺に姫様が見ているのは希望であって愛ではない。
俺は彼女の心も誘拐したいのだ。俺の作る国に。
さて、今日は一話だけです。
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