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予想は裏切られた

 さっきまでそこにあった建物の残骸が、空からバラバラと落ちてくる。


 パワードスーツがなかったら軽く死んでいる高さからの緊急ダイブは肝が冷えた。


 しかし何とか生き残ったのはラッキーだ。


 小脇に抱えた影丸は白いパワードスーツを着た俺に驚いていた。


「なんだ……あれは! というかお前は誰だ!」


「……命の恩人かな?」


「いや拙者を抱えているということは、ダイキチしかありえないな。しかしその姿は……今はそんな

ことを言っている場合じゃないか」


「そうそう。あっちがやばい」


 バレてしまったが、確かにそんなことを言っている場合じゃない。


 化け物のでかさはおそらく六十メートルはあった。


 ビルを見上げるような感覚で、遠近感がおかしくなる。


 地上から見上げるそいつの迫力は尋常なものではない。


 先ほどの一撃はよほど体力を使うのか、全身の血管が浮かび上がり、熱した鉄のように体が光っている。


 だが今にも動きそうに唸っているのを見ればぐずぐずしてもいられない。


「まだ終わらぬ……終わらぬぞ。再び体を手に入れてくれる」


 そして、もう一つぞっとするような声は塔の跡から聞こえた。


「あれは!」


「まさか!」


 ドロドロと角の生えた髑髏が浮かび上がり、化け物に向かって飛んで行く。


 しかもあのでっかいのに憑りつこうとしているとか冗談ではなかった。


 だが、最悪の怨霊は突如飛来した流星によって止められた。


「トシ! あぶない!」


 燦然と輝く聖剣が邪悪な悪霊に突き刺さり、羅豪をそのまま地面に縫いつけたのだ。


「ぎやああああ!!!」


 聖剣の光は邪な者を浄化し、大戦鬼・羅豪の怨霊は今度こそ完全に消滅する。


「ふぅ! 危ないところだったな!」


 そして現れたツクシは当然という顔で微笑んでいた。


「なん……だと?」


 あまりにもあっさりとついた決着に一番愕然としていたのは影丸である。


 カタカタ震え、汗を額にびっしりかいた影丸は俺に詰め寄って叫んだ。


「なんなんだあれは!」


「いやー……ツクシだからとしか?」


「納得できるか!」


 叫びたくなる気持ちはわかるが無理やりにでも納得してもらうしかない。


 白く輝く聖剣使いに斬れないものなどない。


 王都では常識である。


「それよりもツクシのやつ、今アレを見てトシって言わなかったか?」


「……まさかそんな」


 トシとあの巨大な化け物は似ても似つかない。


 しかしツクシが意味のない事を叫ぶとも思えなかった。


「うーん。あいつは良くも悪くもシンプルだからなぁ」


 俺にしてみても考えてみれば、あの化け物と関係ありそうな心当たりは一つしかなかった。


 この場において、全く未知の外的要因、それが森で出会ったトシだ。


 俺はダクッと冷や汗が出てくるのを感じる。


 羅豪のオーガ達を追いやったのはあの化け物だという言葉を思い出す。


 なんか本当にこの状況を引き込んだのは俺達なのかもしれない。


 しかしツクシならこんな些細な問題くらいサクッと解決してくれるに違いない。


 俺の胸にはしっかりとツクシへの信頼があった。


「よし。なんかばっちいのはやっつけたな。本番はここからだぞ! トシ!」


 ツクシは拳を合わせてファイティングポーズを取った。


 俺と影丸はそんな姿を見て首を傾げた。


 一体どうするつもりなのかと今度は影丸と視線を合わせると影丸はおそらく正解をぽつりと言った。


「あいつ……まさか武器なしで戦うつもりなんじゃないか?」


「……」


 確かにあれがトシならばツクシが素手で戦おうとするのも理解できた。


 聖剣じゃ確実に殺してしまう。ならば拳で戦えばいいという実にシンプルな答えだ。


「しかし……そもそもあのトシは言葉が通じるんじゃないか? 声をかければもしかして……」


「グオオオオ!!!」


「……あれは無理だな」


「……そうっぽいね」


 ささやかな希望は、化け物の理性の欠片もない叫び声で吹き飛ばされる。


 怪物も一目でツクシを強敵と理解しているのか爆発したような咆哮を上げ、威嚇していた。


 二人はにらみ合い、ブオンと派手な風切り音が響く。


 跳躍し殴り掛かったツクシの拳は同じく、拳で迎撃された。


 拳同士がぶつかったとは思えない衝撃は大地を揺らす。


「は?」


 その後に起こった展開に俺は頭が付いてこない。


 ビリビリと発生した衝撃波でビシリと鬼の角に罅が入るが、押し負けたのはツクシの方だったからだ。


「え?」


 ツクシは来た方向と同じ方向に殴り飛ばされた。


「うにゃあああーーーーー」


 キーンと雲を引きながらツクシが飛んでゆき、彼女が視界から消えると俺の頭はようやく動き出す。


「ツクシー!」


 今自分で見たものが信じられない。


 あのツクシがぶっ飛ばされた。


 そして少なくとも目で見える範囲にはいないという事実に身体が強張る。


 俺はハッとして自分の頭をぶんなぐって何とか動揺を押し込めた。


 それよりもこうなったら言っておかなければならないことがある。


「影丸……あいつは俺達でとめよう」


 そう告げた瞬間、影丸の目は点になった。


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