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弱点

「は? ……いやちょっと待て。……まさかアレをか?」


「そうだ、たぶん。そうだよ?」


 俺の膝は動揺しすぎてぐぁたぐぁた震えていた。


 ちょっとびっくりな震え方は、影丸が心配するほどだった。


「どうした? 大丈夫かお前?」


「だ、大丈夫だ。だが……あまりにもありえないことが起こったんで動揺してるだけだ……ツクシがぶっ飛ばされるなんて」


「……いや、しかしさっきのは当たり前といえば当たり前じゃないか? 地面に足をつけた巨大な化け物と、強いとは言っても人間サイズの女性の飛び上がったパンチだ。ぶつかり合えば軽い方が飛んでいくのが道理だ」


「それは常識の話だろ! さっきの正解はツクシが相手をぶっ飛ばしてニカっと笑うだ!」


「いや無茶を言うなよ」


「無茶なもんか! 春風 ツクシはそういう生き物なの! ドラゴンが来ようが魔王が来ようが戦車が来ようが隕石が来ようが、バッと行ってガッとやって、ニコニコ笑って大勝利! それがあいつなんだ!」


「……うーん。ある意味美化しすぎではないかとも思うのだが」


 影丸はあきれ顔だが、そんな感じでだいたいあってる。


 しかしツクシが吹っ飛ばされた。それが問題だ。


 単純に相手が強いのなら絶対に勝てないし、手加減をしていたとしたらあれはトシだという可能性がぐっと跳ね上がる。


 あいつに戦いを挑むのは無謀だ。ここは逃げなければ命が危ない。


 戦いどころか手も足も出ずに消滅させられる可能性すらあるだろう。


 しかしツクシが失敗したのなら、俺が踏ん張らなければならない。


 そう強く思っている俺にも驚いた。





「……トシを止めよう。そうじゃないとまずいよな?」


「見ていなかったのか!? あいつは本当に化け物だ!」


「だけどこのまま放っておいたら、この隠れ里がなくなる」


「……!」


 影丸が押し黙ったのを見計らって、俺は続けた。


「やることはシンプルだと思う。どうにかして不意を突いて動きを止めるか、ひきつけて逃げるか。どっちにしても、一発食らわせなけりゃはじまらない。何か知恵を絞ってみよう」


 しかし真っ正面から突っ込んでも勝ち目はないのはツクシがやった通りだ。


 不意を突いて一撃入れるなら、もう一つ、いや、二つくらいは隠し玉が欲しいところだった。


「わかりやすい弱点でもあれば……」


「弱点か……そんな都合のいい話が……」


 だが弱点と口に出してみるとどうにも引っかかる。


 その時どさりと両膝を地面についたのは、トシらしき化け物だった。


 全身から汗が気化した真っ白い蒸気を出し、罅の入った角を押さえてうずくまる。


 表情は苦悶にゆがみ、体は震えているようだ。


 その姿を見て、俺達は二人同時にあるトシの言葉を思い出した。


「「ツノだ!」」


 まさかあのアドバイスがここに来て役に立つとは思わなかった。


 予想していた以上に簡単に出て来た弱点情報だが、影丸はいやいやと首を振る。


「い、いや。やはり無理だ! 角は額についているんだぞ? あの巨体だ、あの高さまで行くのがそもそも難しいだろう?」


「ツクシみたいに一気に飛び掛かるのは……いや俺にもできなくはないか?」


「いけるのか?」


「でもそんなものは叩き落とされて終わりだ」


 跳ぶのはいいが空中では動けない。直線的な動きはただでさえ読みやすい。


 野球のボールではあるまいし、変化をつけることなどできるわけがない。


 だがそこで俺は少し引っかかった。


 いやまて? 空中で軌道を変える方法ならさっき実演されたばかりじゃなかっただろうか?


「影丸の使ってた二段ジャンプでも使えればなぁ。くそ」


 忍術が遺伝じゃ無ければぜひトライさせてもらいたかったのだが、影丸は妙な顔をした。


「二段ジャンプとはなんだ?」


「あれだよ、羅豪と戦った時に、最後に使った空中を跳ねるやつ」


「ああ、あれか? 使えるぞ?」


「そうかー使える……は? 使える!?」


 驚愕する俺に、影丸はあっさり頷いた。


「ああ」


「ほんとに! 忍術は俺には使えないんじゃないの!」


「アレは忍術ではなく忍具だからな。足の裏に札が仕込んである」


「それ貸して!」


 俺はすぐさま頼み込む。


 ひょっとしたら何とかなってしまったかもしれない。


 ならば行くしかないじゃないか。


「……鎧をつけた程度で埋められる差ではないと思うが?」


 影丸は渋い表情で、自分の持っている札をきつく持って見せる。


 俺は前に差し出された札を、それ以上の力でつかんだ。


「おいおい。それは聞き捨てならないな。これは鎧じゃなくってパワードスーツ……圧倒的な差を埋めて、凡人を英雄の高見まで釣り上げてくれる片道切符だ!」


「その……赤いマフラーもか?」


 あ、そこ気になっちゃう? このマフラーはすげえ便利で、レア素材を使った呪われた一品で……などと色々と思い浮かべたが、そんな物あんまり意味がない。


 ではこうとだけ言っておこう。


「マフラーは……すごくかっこいい! 都会では流行ってる!」


「都会では……流行っているのか?」


「そうだとも! さてどこまでやれるか見ていてくれると嬉しいね!」


「……わかった。やってみよう」


「ああ!」


 さて俺達がどこまで通用するかはやってみなくちゃわからない。


 だが、ここで成果を残せないとパワードスーツを引っ張り出したかいがない。


 トシの体から出る湯気が薄まっている。


 あのまま縮んでくれればいいが、残念なことにトシは動き始めた。


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