残念、ツクシちゃんでした。
「やあやあ我こそは春風 ツクシなり! 勝負! いざ勝負!」
白く輝く長い髪をなびかせ、大人の姿になったツクシは、絶好調で大暴れだった。
気分は桃太郎ってところか。恐れを知らないオーガ達が武器を振りかぶって突っ込んで、片っ端からツクシに丸ごと蹴散らされている。
その光景、ボーリングのピンのごとし。飛んでいくのが筋肉質なオーガだけに迫力満点である。
その目で見ても中々理解できない非常識な戦いぶりに、影丸も呆然としていた。
「……なんだあのでたらめなパワーは? いや、そもそも誰だあれは? あんな美女がいたか?」
「残念。ツクシちゃんでした」
「……どういうことでござる?」
「ござると言ったか」
素になると出るのだとしたらずっと素でいてもらいたい。
ツクシが美女云々の話は、今この緊急事態では話が長くなりそうなのでスルーの方向で行こう。
そしてもう一人、獅子奮迅の活躍をしている人影があった。
「おおおおお!」
吼えていた。そして戦っていた。
オーガの一体が、振り回されてすさまじい回転で塔に飛んでくる。
高速のダッシュから飛び上がり、空中で回転しながら敵オーガの頭を両手でつかんで投げる豪快な投げ技を見た瞬間、俺はただものではないと確信した。
その後もちぎっては投げちぎっては投げ、豪快な動きで魅せつつも、自分よりもはるかに大きなオーガを仕留めていく。
「すげーな。いや……そうかもしれないとは思ったが、あの子英雄側の人間っぽいなぁ」
「人間なのかは疑わしいな。敵でないことを感謝しよう」
忍者から見てもトシの動きは目を見張るものがあるようだった。
普通にうらやましいです。俺も生身であれくらい動きたい。
そして見てわかるほど順調にツクシ達は俺の予想よりもはるかに陽動してくれている。
というかあわよくば正面から全滅させる気満々だった。
ならば俺達もやることをやらねばならなかった。目指すは五重塔の最上階。
塔の中に他のオーガの姿はない。
一つしかない階段を駆け上がり、四階までたどり着くと、そこで俺達はようやく一体オーガを発見した。
青いオーガで雑魚っぽいが、小柄だが何かガジガジかじっていた。
そしてもう一つオーガのすぐ近くには気を失っている人間が三人ほどいるようだった。
「人が捕らえられてる?」
「そのようだ……人質が気を失っているのが厄介だな。一秒でもあればあのオーガを仕留めてやるが」
「一秒? ……なら俺が注意を引き付ける。忍者なら瞬きより速く仕留めてくれよ?」
「……ああ」
塔は階段が一つしかない。
見つからないことは不可能だ。
しかしうまく注意をひきつければ、それくらいならどうにかなるかもしれない。
準備をしろと影丸に視線を投げて、俺は走りだす。
「おい! 人質をとるたぁふてぇ奴だ!」
オーガは俺を見つけると、牙をむき立ち上がった。
さてここからが正念場だ。俺は姿勢を低くし気を引き締めた。
でかい奴の対処法その一。まずはよく見る。
どんな相手だろうと、避けることだけ考えていれば、早々避けられないもんじゃない。
「……来い!」
オーガは走ってきて、手に持った斧を振り被った。
俺は出来る限りギリギリまで引き付けて、振りかぶられた瞬間に飛び込んで避けた。
この時一瞬でもためらったら終わりである。
床をゴロゴロと転がり、人質を捕まえると引きずって距離を取った。
オーガのぎらついた目が俺を見ていたが、狙い通りだ。
どろんとオーガの背後に現れた影丸は指で印を切り、素早く振る。
オーガは振り向くこともかなわずに胴体を一文字に切り裂かれ絶命した。
「忍法……かまいたち」
「おお! 忍法!」
とか喜んでいる場合じゃなかった。
長い白いひげのおじいさんと、若い女性が一人。そして男性が一人。
俺は素早く彼らの縄を切り、軽く診断する。
怪我はあるが脈も呼吸もちゃんとある。
「よし、ならばこの気絶してても飲める特製ポーションを飲ませれば……」
「「「ンボ!!!」」」
三人同時に口の中に流し込んでやると、彼らはすごい顔でキョンシーみたいに跳ね起きていた。




