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修羅場を生き延びるのには定評がある

 とっぷりと夜が更けて、半月の照らす中、小舟は漕ぎ出す。


 先発隊のツクシとトシはすでに島へと出港した。


 後発隊の俺と影丸も波に揺られていざ鬼退治へというわけだが、こちらの空気は若干重いものがあった。


「……本当にこの人選でよかったのか?」


 影丸の物言いは表面上を見れば正しい。


 だが俺は影丸に視線を上げて言い切った。


「これでいい。ツクシは最強の戦士だ。俺がいると邪魔になるよ」


「ふむ。信頼というには、盲目的に聞こえるが……しかしお前はやけに自分を低く見積もるのだな」


 影丸は探るような視線を向けてきて、俺は肩をすくめた。


「俺は俺が弱いことを知っているってだけだよ。そっちこそ、あまりにもツクシを低く見積もりすぎじゃないか?」


「そうか? ただ者ではないこともわかるが」


「今はそれで大丈夫。すぐにわかるよ……」


 俺達は、島本来の港とは別の海岸からこっそりと上陸し、敵の本拠地と思われる場所に向かう。


 木々の生い茂った森を抜け、かなりハイペースの登山をこなしていると、登り切った先でこの島の全貌を把握することができた。


「ここ、すり鉢状になってるんだ」


「そうだ。外から見ても里の様子はうかがい知れない。そしてあそこが―――」


 影丸は屋根が五重にある高い塔を指した。


 月明かりに照らされる、かなり大きな塔を目にした俺は感動した。


「なるほど、ボスの基本をよく抑えているな。あとは騒ぎが起こるのを待って、裏から襲撃……」


「そうだな」


 そこからしばらく会話は途切れた。


 虫の声と、ホーホーと鳥の鳴き声しか聞こえない静かな闇の中で、ぼそりと影丸の声が聞こえた。


「お前はここに残れ」


「ん?」


「ここまでお前達を見ていればわかる。お前は戦いに向いていないんだろう? 体はよく鍛えられているが、それだけで戦えないことはわかる。ポーションもそれを補うための技能だろう」


 おおよそその通りの評価である。隠しているつもりもないが、今更な指摘を否定する気もない。


「拙者はお前達を利用している。わかっていて身体を張るのか?」


 だがそんなことを尋ねられたら。しっかりと答える必要があった。


「当り前だろう? 弱い奴は弱い奴なりの戦い方ってもんがある。いくさ。どこにでも。今までもそうやって来た」


 俺は弱い。確かにそうだが、舐められるのも心外だ。


 それに弱いだけであると思われるのも癪だった。


 俺は影丸を睨む。


 鋭い目を向けていた影丸はふっと覆面ごしに息を吐いた。


「そうか。お前の名前は何だったかな?」


「大門 大吉。しがない荷物持ちだけど……まぁ役に立って見せるよ」


「わかった。ダイキチ悪かった」


 短いやり取りに、妙にほっとした。


 俺は少しは認められたのだろうか?


 だとしたら嬉しいが、この場の空気はさっきまでより少しはマシになった気がした。


 ただそんなことはお構いないしに、始まりの合図は突如としてこれ以上ないほどわかりやすく上がった。


 ズドンとここまで空気が震えて身がすくむ。


 ハッとして震源を見た俺達は五重塔より高い砂煙を見た。


「なんだ!」


「……ツクシの攻撃だね。始まったみたいだ」


「……なるほど。確かにこれは心配の必要はなさそうだな」


「だろう? さて行こう。改めて念を押しておくけど、俺のことは気にしなくていい。これでも修羅場を生き延びるのには定評があるんだ」


 俺だって自分から首を突っ込んだ以上はそれ相応の覚悟はしてきている。


 まずは生き延びること。


 そして最良の結果を掴むために、俺達は動き出す。


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