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決戦前の準備

 オーガの群れは、それこそ怒涛のような勢いで、忍びの里を襲撃したらしい。


 その数は百鬼を超え、少なからず里に被害が出たが、そこまでは問題なかった。


 忍びの里は猛者揃いである。オーガと言えどモンスターに後れを取らない戦力は十分にあったはずだった。


 しかしとあるオーガが忍びの里の首塚を破壊したことで事態が急変した。


 かつて忍び達が討伐した鬼。大戦鬼 羅豪の首を封じた首塚から、怨霊が飛び出し、相性の良い憑代に憑りついたことで、かつての力を蘇らせたのだ。


 その力は凄まじく、幾人もの忍びが蘇った羅豪の前に敗北し命を落としたという。




「拙者の名は影丸という……拙者は女子供を島の外に逃がすのが役割だった。しかしこのまま里をあの怨霊の好きにさせておくなど我慢ならん。我が師もあの鬼めに命を奪われた。なんとしても仇を討たねばならん。故に件の鬼には手出し無用に願いたい」


 血の涙を流しそうな形相でそう宣言されれば言わんとしていることはよくわかる。


 敵の親玉だけは自分に討たせろと。


「拙者は今夜、闇夜に紛れて夜襲をかけるつもりだ。動くつもりならその時に頼みたい」


 頭を下げる忍者、影丸の作戦にとりあえず俺は言うことはなかった。


「なるほど……」


「悪い奴はやっつけないとな!」


 俺達の役割は他のオーガをどうにかすることか。うまく使われる感じだが、俺達にしてみれば里が解放されればそれでいい。


 俺は頷いておいたが、パワードスーツなしではそれほどできることもない。


 せいぜいツクシの荷物持ちがいい所だった。


 方針は決まったが、計画通りに行くならまだ日が高い。


 襲撃なんてマネをするなら出来る限り準備をしておきたかった。


 こういう準備は手慣れたもので、ツクシもさっそく必要な物を確認する。


「だいきち。ポーションいるな?」


「ああ。ここはいい森だ。回復ポーションも……毒消しもいけるな」


「なら一人一本ずつ頼むぞ!」


「了解だ」


「調薬が出来るのか?」


「まぁ簡単なのだけね」


 意外そうに影丸に言われたが、全ては悪あがきの歴史である。


 ちょっとばかりに器用さは持ち合わせていた。


「だいきちのポーションはよく効くんだ! 味は最悪だけどな!」


「そりゃそうだろう。薬草って言っても、その辺の草を混ぜ合わせてるだけなんだから」


 お手軽な割に効果は中々のものだと自負している。


 まずいのは、昔からよく言われていた。懐かしいネタだ。


「……これは思わぬ拾いものだったか?」


 ツクシではなく俺を見て言われるのは中々うれしい呟きだった。


 俺はポーション作りに精を出した。


 こっちの世界の薬草は組み合わせ次第で魔法のような効果を及ぼす。


 その組み合わせを知っていれば、即席の傷薬が出来上がるわけだ。


 もちろん魔法と併用したりはできないから、治療の効果は応急処置程度だが、無いよりはマシだろう。


 ひとまず完成したところで、効果を確認してみることにしよう。


「すごい苦いから気を付けてな」


「……う」


 俺はトシにロックオンする。まぁ軽くでも怪我をしているのは彼だけだからだ。


 コップを覗き込んだトシは眉をしかめたが、その緑汁を一気に飲み干した。


「……!!!!」


 顔色は青白くなったが、擦り傷切り傷がキラキラ輝いて消えてゆく。


 さすが戦場で調合を重ねたオリジナルポーション。軽傷には効果は抜群である。


「口の中苦い。けど痛いの治った」


「薬だけでここまで効果を上げられるのか……」


 この効果にはトシにも影丸にも驚いてもらえたようだった。


 そしてなぜかツクシが自慢気だった。


「そうだぞ! だいきちの作る薬は評判がよかったんだ! 味以外は!」


「あ、味だってはちみつ入れて見たり改良したんだぞ?」


「だいきち……こいつの顔を見て、同じことが言えるのか?」


 ツクシはにやにやしながら、トシを見る。


 傷はともかく、まだ彼の眉間には深いしわが寄っていた。


「……いやー……まぁ失敗はしているとは思うけれどもね」


 所詮は何とか勇者と旅をするなら役立つことができないだろうかと身につけた付け焼刃であることは認めよう。


 回復薬の準備が終わったら今度は飯の準備である。


 腹が減っては戦はできぬ。


 今日は今晩中に忍者の里を奪還できる前提で大盤振る舞いということにする。


 全員分用意した食事を黙々と食べ、一段落した頃、少しばかり会話する余裕ができたので、俺はこの機会に忍者、影丸にどうしても気になっていることを尋ねた。


「……ところで、その。忍術はがんばれば使えるようになるんですか?」


 思わず敬語になった俺に影丸は首を振った。


「いいや。それはないな。忍術は血の力だと言われている。我らの祖先には鬼の血が流れているのだそうだ」


「遺伝するものなんですか」


「ああ。まぁ鬼にかかわらずアヤカシ者の血を引いていれば術を使える場合があると伝わっている」


「……そうですか」


 つまりは才能だと。しょっぱいねどうも。


 忍術なんて素敵技能を今後に生かせないなんて、人生の損失である。


 手に入らないなら、現れなければよかったのになどと、失恋ソングみたいな歌詞が頭をよぎった。


「ならば拙者も聞きたいことがある……その子供は結局なんなんだ?」


「ああ……それはなぁ」


「さぁ?」


「やけに曖昧な返事だな」


 影丸の言う子供とはもちろんトシの事だ。


 聞きたいことがあると言われても、実はなにも知らないのだが?


 今トシは、端っこに座りじっと黙ったまま俺達を見ていた。


 だいたいこんな調子だが、殺気もなければ攻撃してくる素振りすらない。


「お前はなぜついてくる? オーガと敵対していることはわかるが、この二人に何かあるのか?」


 影丸が今度は本人に尋ねたが、トシはきょとんとした顔で小首をかしげた。


「……食べ物くれたから?」


 この子供、行動原理が基本食欲だった。


「そ、そうか……お前。何か有益な情報を持っていないか?」


「ゆうえき?」


「なんでもいい。オーガの弱点やらボスがどこにいるかやら、そういうのだ」


「弱点……」


 トシは自分の頭を掴んで首を捻る。


 そして、ひらめいたようだ。


「オレ……角が弱い。聞いたことある」


「そ、そうか……」


「オーガって角が弱点だったのか?」


「知らない。剣で斬ったらとどめはさせるぞ?」


 一つ勉強になったが、この弱点はツクシにはあんまり意味がなさそうだった。


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