肉の祭典
「やれやれ死ぬかと思った」
とりあえず手ごろな発掘ポイントを再び見つけ、魔石を回収した俺は重い荷物を担いでキャンプ地まで戻ると、リッキーとニーニャからずいぶん大興奮で歓迎された。
「おお! よかった! 生きてたか! 幽霊じゃないな!」
【……もうだめかと】
「はっはっは! 俺はそんなにやわじゃないぞ? ニーニャもリッキーを守ってくれてありがとう」
まさかこんなに心配されているとは。
俺としてはなんだかとっても上機嫌である。
「死ぬかと思ったけど、何とか生き残って来たよ、はいお土産」
なんでそんなに心配しているのか逆に不安になって来たけど、俺が何とかかき集めてきた大量の魔石を見せるとみんなの注目はすぐにそちらに移ってしまった。
特にリッキー、大興奮である。
「おおおお! こいつはすごい! これなら盾代くらい元が取れそうだ!」
【……すごいてんちょ】
「だろう! こいつはしばらくお金持ちだな!」
ちょっと寂しい気もしたが本来の目的で喜んでもらえたならよかった、よかった。
俺はふぅと軽く息を吐き、ようやくほっと息をついた。
正直今回は危ない場面が多すぎた。
特にあのスライムのような天敵は初めてだ。
やはり今後もパワードスーツの強化は必須だな、なんて楽しいことを考えていたのだが、突然リッキーは俺の肩を掴んだ。
何事かと顔を上げた俺の目にはリッキーの笑顔が映っている。
しかし先ほどの喜んでくれている笑顔とはその性質は明らかに違っていた。
リッキーは俺に質問する。
「……じゃあ、これについて、聞かせてもらっていいかい?」
「え? なになに?」
ちょっと明るく答えた俺に、リッキーはずいぶん煤けた大盾を見せた。
見覚えのある形である。
でも俺の知ってる大盾はもっとピカピカに磨き上げられていたし、あんなに傷だらけではなかった。
すべてを察する。そして察した上で俺は目頭を押さえて嘆く。
「……こ、こいつは俺の身代わりになってこんな変わり果てた姿に」
言ってることは嘘じゃない。
「…………へぇ」
この異様に間の長いへぇにどれだけの怒気が込められているのか?
ゴゴゴゴゴと地鳴りが聞こえた気がした。
いや違う。
間の悪い事態というのはまとめて一気にやってくる。
それが何か重いものを抱えた集団が近づいている音だと気が付いた俺は顔を青くした。
「しまった……もう来たのか」
「そうやってごまかせるわけが……」
リッキーのお説教が始まるより前に、リッキーも異変に気が付いた。
リッキーが驚いて固まっている間にも地獄は刻一刻と迫っている。
そしてがさがさと森が揺れ、巨大なモンスターが次々と運び込まれはじめると、俺達の新たな仕事が始まる。
一番乗りのツクシは得意げに、引きずってきたサイ型モンスターを最高の笑顔で見せてくる。
「だいきち! 約束通りでっかい獲物まず一匹獲って来たぞ! ステーキがいい!」
「……お、おう」
「次々くるからな! だいきちもがんばれ!」
「ちぃ、もうちょい時間かかるかと思ってたのに!」
俺は慌て、とんでもなくバカでかい肉切り包丁を引っ張り出してくる。
「リッキーとニーニャはガンガン火を焚け! 火力が命だ!」
「は、はい!」
【……わかった!】
「おい! 今から解体すんぞ! って! こいつとどめさせてないぞ! 何やってんだ!」
そこら中で歓喜の咆哮と、少しの悲鳴やら、怒声やらが飛びかう。
ここから行われる焼き肉パーティはまさに肉の祭典だった。




