ダストボックス
「……疲れた」
「……あー……うー……」
『……』
合宿と調査が終わり王都に無事生還を果たした俺達はすべての力を使い果たし、崩れ落ちた。
俺達はこの三日間、肉食獣達が肉を食らうさまをまざまざと見せつけられ続けた。
次々と運び込まれる獲物達。
俺達はそれをただただ食料の肉に変え、飢えた獣達がそれを喰らう。
栄養のためとか言って森でとれたキノコや山菜も混ぜたがそんなものは焼石に水だ。
たんぱく質を体に吸収し続けた彼らは、それをすべて絞りつくすべくまた戦闘に勤しむ。
血と肉で彩られたこの特訓こそ彼らの強さの秘密なのだと、初参加のリッキーとニーニャにもよくわかったことだろう。
白目をむいていびきをかいているリッキーと、プルプル震えて寝ているニーニャを布団に運び、俺は秘密基地のパワードスーツ置き場にやって来た。
いつも通りにそこにあるそれを見て俺はほうっとため息を吐く。
「やれやれようやく終わった。なぁテラさん」
『はい。なんとも熾烈な特訓風景でした。あの特訓を繰り返せば新たな境地が開けそうな気がします』
「どうなんだろうな。まぁあいつらは人類の限界なんてとっくに超えてると思うけど」
新撰組を思い浮かべて、俺は思わず悟ったように頷いた。
『マスターもアレを耐えていたのでしょう? 底知れぬ生命力の理由が分かった気がします』
「よせやい、照れるじゃないか」
褒めても何も出ないぞと俺が言うと、テラさんからは大丈夫褒めてないと訳の分からないことを言われた。
「それにしても、おかしなものばかり見たなぁ」
俺は旅を振り返りしみじみと呟いた。
今回の遠征は、実に妙なものが目白押しだった。
他所の世界からやって来た基地に、他所の世界からやって来た女。
わかってはいたことだが、どうやらこの世界は俺達がいた世界だけでなく様々な他の世界から色々引っ張ってきているようである。
テラさんも俺の言葉を肯定する。
「そうですね。ダストボックスらしい実に雑多とした現象を観測しました」
だが肯定の言葉にはまた聞きなれない単語が混じっていた。
「……ダストボックス? 何それテラさん?」
『……ダストボックスはかつて基地の持ち主だった人間がこの世界の呼び名として仮に使っていた名称です。この世界は零れ落ちた世界の欠片を吸収し成長してゆく世界です。だからダストボックスは世界のゴミが集まる場所。意味としてはそう推察できます』
「ああ、なるほどね。前の人は結構皮肉屋だったらしいね」
岩やらガラクタやらよく流れつくし、異世界人は変なのばっかりだ。
ちょっぴり納得してしまえるのがなんとも力が抜ける。
だが俺はパワードスーツをなんとなく眺めた。
「捨てたもんじゃない。俺はそう思うけどな」
俺はパワードスーツをなでると、その時手に何か柔らかいものが触れた。
「ん?」
なんだろうと覗き込んだ俺にテラさんが声をかける。
『どうしました?』
「いや……今なんだか柔らかいものがパワードスーツについて」
俺がパワードスーツのバックパックを覗き込むとそこには―――首を傾げた様に動く小さなスライムがいた。
「……!!!!」
慌てて手を引き俺は目をむく。
天敵くっついてきとる!
「え? いったいどうすればいいのこれ! テラさん!」
『……実に難しい質問です。あまり刺激しない方がよいかと思われます』
「ほ、ホントに? さっき触っちゃったんだけど、これから手が溶けてきたりしない!?」
『落ち着いてください。大丈夫です。まずは手を洗いましょう』
「そんなんで大丈夫かな!」
まさかあのスライムが生きてるとは思わなかった。
すぐさま核をどうにか潰して倒さなければと考えた俺だったが、少し冷静になってピタリと手を止めた。
俺の頭によぎったのは、スライムが電気をためて放出する苦戦した記憶である。
「なぁテラさん。ちょっと聞きたいんだけど?」
『なんでしょう? マスター?』
「こいつで……うまい事バッテリー作れないかな? 高性能なやつ」
電気をため込む性質と、放出する性質。これって使えそうじゃない?
それは思い付きだったのだが、テラさんはほんの少し黙り込み答えた。
『可能です』
「!」
何事もうまく事が運んでいるようで、すべてうまくとはいかない。
かと思いきや、偶然うまくいく時もある。
今日も俺は異世界に試されていた。




