訓練に行かないか?
一通り町の案内を終えて俺達は王都に戻ってきた。
「うーむ。なんだかどっと疲れたぞ?」
こういう時は休憩が一番。
俺は修理が完了しているコーヒーメーカーでコーヒーを淹れる。
付け合せのクッキーは砂糖をふんだんに使った甘い奴で。本日はこれで一服といこう。
「今修理中の本格的なエスプレッソマシンも使ってみたいなぁ。おしゃれなブレイクタイムを演出するのも後々の目標だが、今はこれが精いっぱい」
カップに注がれた真っ黒な液体の匂いを嗅ぎ、俺は未来に思いをはせる。
夢は広がるが慌てず行くのが、俺流だった。
一式持ってテーブルに向かうとそこにはニーニャがそわそわしながら待っていた。
「どうぞ、お嬢さん」
【……おお】
喜んでいるニーニャは、さっそく香ばしい匂いのするコーヒーに口をつけたがその瞬間テレパシーでノイズが届いた。
どうやら苦かったらしい。
「飲みにくかったら、砂糖とミルクもあるからね。クッキーと一緒にお食べなさい」
ニーニャは今度は恐る恐るクッキーを口にする。
すると今度はほわほわとほっとするような思念が。
どうやらこっちは気に入ってもらえたようだ。
ニーニャの頑張りもあって、店内は基地から少しずつ持ってきた物がそろってきていて、だいぶん落ち着きが出てきていた。
しかしひとまず内装が整ったと言っても、客が来ない以上開店休業である。
「さて何しようかな?」
「やることないんかい」
ぽこっと出てきたマー坊はツッコミを入れたが 俺はいったんコーヒーをすすり、一服して言った。
「あるとも。それも無尽蔵に。だからちょっと力尽きてるだけ」
「ないんじゃねーぇかよ。店長」
店長か。その響きなんかいい。
ただちょっぴり悔しいので、やる気がある所を出して言ってみた。
「一応接客用のコーヒー豆らしきものも探してきたんだぞ? 紅茶らしきものも手に入れた」
「それ必要なのか?」
「そりゃいるんじゃないか? なんか飲み物とか出すだろ?」
突然の来客に対するわずかばかりの対策である。
まぁ本当に雑貨品ぐらいしか今は売れるものはないのが困りものだった。
あまりにふがいないので俺は何とかやったことをひねり出してみた。
「あ、あとは実演にいいかと思って、冷蔵庫で氷作ってるから。あとは……そう、使えそうなホットプレートですぐなんか焼けるようにこうやって準備をだな……」
【……食事屋さん?】
「……なんか食い物ばっかりだな」
「うぬぅ」
でも電化製品ってそう言うものの方がわかりやすいんだもの。
そもそもお客だって、ここが何をやっているのかちゃんと知れ渡っているのか疑問である。
悩みが多いが、そんな時今日も今日とて元気な足音が聞こえてきて、俺は素早く玄関の扉を開けた。
「だいきちぃぃぃ!」
勇者ツクシ登場である。
飛び込んできてひどく興奮した様子のツクシは床を転がると着地、楽しそうに俺に詰め寄った。
「だいきち! 訓練にいこう!」
「訓練って……ドアの前でブレーキをかける訓練とか?」
「何言ってんだ! ちゃんと今日はブレーキしたぞ?」
「おいおいいつもはブレーキなし? だったの? こんにちはツクシ」
「こんにちは! だいきち! すぐ準備するんだ! モンスターの森に訓練に行くぞ!」
ツクシのテンションはめちゃくちゃ高いが、俺は頭を抱えた。
どうにも不吉な単語を聞いた気がしたからだ。
「……もう俺、兵隊じゃないんだけど」
そもそももう軍属じゃない俺を訓練に誘う意味が分からない。
困惑している俺に、なぜかツクシは訓練の良さを説き始めた。
「訓練はいいぞだいきち! 体を鍛えて損なんてない! それに今回は宝探しもついてくるんだ!」
「宝探し? 何だそれ?」
だが最後にツクシが付け加えた魅力的な点には興味が湧いた。
俺が尋ねるとツクシは目をキラキラさせて宝探しについて話し始めた。
「モンスターの森にでっかい揺らぎが現れたんだって! 僕達みたいに他所の世界から来るかもなんだ!」
「!」
「でも今すごく不安定で危険だから僕らが見に行くんだ!」
ツクシはエッヘンと胸を張る。
鉱山にいる俺は、ツクシの言う揺らぎについて心当たりがあった。
この世界では時折、他所の世界から大量に物がやってくることがある。
そういう時、魔石も大量に発生するが、予兆として空間が不安定になるんだとか。
なるほど、宝探しとは言いえて妙だ。
確かに魔石だけでも儲けになるし、そんな状況なら他の世界から見たこともないものがやってくるかもしれない。
だがいきなりわけがわからない何かがどこからともなく飛び出す光景は、めちゃくちゃ危険そうだった。
「……それに参加していいのか?」
なんとなく、だいぶん機密性の高そうな情報な気がして、俺は尋ねてみたがツクシは即答してきた。
「もっちろん! その代わりゴハン作ってくれな!」
にっこり満面の笑みのツクシの要求は、なんとも食欲に直結していた。
こいつは真の勇者になったのに昔と言ってることがちっとも変わらない。
「……お前勇者で英雄だろ? うまいものなら何でも食べられるだろうに」
「だいきちのがうまい! だいきちは変なものめっけてくるのうまいもんな!」
「おいおい変なもの見つけるってなんだよ?」
心当たりがあまりなく、首をかしげるとツクシは不満そうに俺を睨んだ。
「元の世界の物をなんでか持ってるだろ? 僕はいくら探しても見つからないのに……」
「……そうか?」
「そうだ! そこはずるい」
ツクシの本気でうらやましがる顔とはこれはまた珍しい。
そう言えば俺はなくし物なんかを見つけるのが元々うまい人だった。
それが特殊な能力だとかは断じて認めたくはないが。
「そうか、ようは食事係か……どうするか」
事情はおおむね把握した。
俺はちらりとニーニャを見る。
店員も増えたことだし、先立つものは多い方がいい。
これから本腰を入れてやらなきゃいけないことがたくさんある。
それにそう言えばこういう話なら、今すぐにでも協力してくれそうな当てがある。
俺は頷き、ツクシの肩を叩いた。
「うん! 受けるぞツクシ! ちょっくら準備してくる! 手伝いに友達呼んでいい?」
「おう! さすがだいきちだな! 僕も副長に言いにいってくるぞ! 明日北門前に集合な!」
「わかった」
「ああそれと、ニーニャもつれて来いって言ってた!」
「ニーニャも?」
【……私も?】
エレメントマスターの実力もみたいのだろうか?
ニーニャに視線を向けると、彼女も頷く。
「……よし、わかった。よろしく伝えておいてくれ」
「心得た!」
叫んだツクシは今度こそ残像を残して消え、俺は気合を入れて短く息を吐いた。
「残像って急ぐとホントに出るのな……というわけみたいだから。まぁごめんな。たぶん拒否権ない」
俺が言うとニーニャは神妙に頷く。
そして、ぬちゃっと出てきた魔王はうんざり口調だった。
「ってことは俺はしばらく引っ込んでなきゃだな。つまんねぇ」
「……ほんと変なことするなよ?」
「しねぇよ。もうあいつの顔見るたびに色んなことがどうでもよくなってくる」
「……ああ」
マー坊はぼやくが、まぁその意見にはちょっと同意である。
そう言うことなら色々と準備を急がねば。
ひとまず表向きはコックだし、久しぶりに自慢の腕を振るうとしよう。
そしてもう一人、人員を確保に向かわねば。
俺は大急ぎで地下室に向かって転移ポータルに飛び込んだ。
「リッキー! ちょっといいかい! いい儲け話があるんだが!」
「……へ?」
本日二度目の訪問にリッキーは目を丸くしていた。




