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守る刃、支える算  作者: 麦崎誠
第二章 旅路
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第六話 再び労働

 夜明け。名もなき浪人は再び埠頭へ向かう。英国船からの荷揚げの仕事。周囲は息を切らし、時に愚痴をこぼしている。それを意に介さず、浪人は歯を食いしばり、ただ黙々と運ぶ。夕刻、二百文を受け取る。さすが、異人相手の危険な仕事だっただけある。割が良い。だが懐の銭はまだ足りぬ。壬生浪士組へ行くには、装備も腕も心許ない。

 まずは、腕を鍛えるか。浪人は町の商人に問う。

「この辺りで、剣術を教えてくれるような場所を知らないか。道場でも、個人的に指南してくれるような人間でもいい」

「確か、町のはずれに剣術道場がありやしたな」

商人に教えられた先は、町外れの小さな道場だった。

立派な看板もなく、木戸は歪み、板壁は日に焼けている。

「……ここか」

門の隙間から覗く。

「メェェェン!」

荒削りな掛け声と、竹刀の乾いた音が響く。

中央には、年季の入った男が腕を組み、無言で門下生を見ていた。打ち込みの音が浪人の胸を打つ。あの中に立てば、己の未熟さが露わになるだろう。

(今の俺では、話にならん)

——だが、いずれ立つ。

門を叩く資格すらない。だが、目指すべき場所は定まった。

「…先、装備を整えるか…」

近くの裏路地に入る。表の喧騒とは打って変わり、薄暗く、煤と鉄の匂いが漂っている。その奥に、小さな職人の店があった。刀を打つこともあれば、研ぎや修理も請け負う、何でも屋に近い職人だ。

壁に掛けられた刀に目が止まる。

「一振り……十五両」

——遠い。

「なあ、親父。俺の刀、研いでくれねぇか?」

職人は浪人の刀を手に取り、刃を確かめ、低く言う。

「最低でも……一両はもらうぞ。ただ…こいつは数打の刀の中でも質の低い刀だ。その錆じゃぁ、鉄くずと変わんねぇな。打ち直しに近い仕事だ。1両払って、この鉄屑をマシにする意味がお前さんにあるのかどうか...」

銭袋の中身は500文。一両は4000文であることを考えると手の届かない値段である。現実は冷たい。

「そうか。ご丁寧にありがとう。俺には、無理な話だったようだ。」

そう言い残して名もなき浪人は店を出る。冷たい夜風が頬を撫でる。

(どうすればいい)

——だが、立ち止まるわけにはいかない。

懐は軽いまま。夜風だけが、肌を刺した。


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