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暴君ラオ  作者: あーる
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タージルハンの乱5

 ラオ達は、その日の夕方にはガルドの丘についた。小さな丘の上にポツリと砦があり、衛兵隊長が言っていた通り、大人数を収容する場所が無さそうだ。しかも丘の周りは深い密林に囲まれており、野営地を作るにも苦労しそうだった。

 ただ砦からの見晴らしは良く、周り全てを見渡せる。確かに守りやすく攻め難い良い砦だとラオは思った。


「道が整備されていて、かなり早く来れたな。暗くなる前に着いて良かった。」

 ラオは砦の門を見上げながら、ホッと息を吐いた。案内係で着いてきた兵士の一人が、「この辺は夜になると夜行性の動物達が厄介ですからね。」と、苦笑いしながら説明してくれた。

 確かにここまでの間、背の高い木々に囲まれて薄暗く視界が効かない密林が続いている。昼間でも密林の奥に行くのは抵抗を感じるほどで、夜になると遠くから聞こえる動物の鳴き声で恐ろしく不安になると、その兵士は付け足した。


 砦の門を叩くと、クワガタの弟であるオニヤンマが出迎えてくれた。

 砦の兵士達より頭一つ分ぐらいは出そうな大男で、ヒツジグモにも負けないぐらいに筋肉が発達した、見事な体躯をしている。少人数で重要拠点を守る責任者だけあって、眉間の深いシワと鋭い眼光でこちらを見て来た。あまりの貫禄にラオは緊張する。それに気が付いたのか、オニヤンマはしまったという様な表情に変わり、深く頭を下げて来た。

「驚かせてしまったみたいで、申し訳ありません。生まれつき顔が恐ろしいと親にも言われてまして・・・、別に機嫌か悪いと言うわけでは無いのです。」

「軍団長は見た目は怖いですが、本当はとても気配りの出来る優しい方ですよ。」

 一緒に来た兵士がくすくすと笑いながらそう言った。

「いや申し訳ない。クワガタ殿の弟だと聞いていたのに、あまりにも似ていないと言うか、いや、その悪い意味ではなくて・・・。」

 ラオも何故か気まずさを感じて、しどろもどろに弁明した。

「とても頼り甲斐のある偉丈夫では無いですか。流石に伝説のガルド砦をも守っているだけはある。」

 ヒツジグモが愉快そうにそう言って笑った。おかげで全体の緊張感が一気にほぐれ、改めて挨拶を交わしラオ達は砦の中に案内された。 


 後宮での騒ぎはすでに連絡を受けていた様で、早速ラオ達はカマキリ討伐の話し合いをした。トルガとの距離が近いと言う事で、王宮にいた頃よりも詳しい状況が分かるのは有り難かった。

「敵は明後日の朝ぐらいに、こちらへ向かい軍を進めて来そうですね。聞いての通り、奴らの軍は農民の寄せ集めで士気は高くない。トルガの傭兵隊長ヒキガエルが脅しつけて無理やり進軍すると思われます。」

「随分詳しく分かるものだな。」

 ラオが感心した様に言うと、「今日の昼ぐらいから、急に情報が入るようになりました。どうも軍の準備で精一杯の為、情報の管理が出来てないようですね。」と、偵察に行っていた兵士の一人が答えた。

「進軍の準備で情報が管理出来ないと言うのは、あまりにもお粗末ではありませんか。」

 カジキが呆れた様にそう言った。

「全くです。そんな急場凌ぎにも程がある様な軍に、配置される農民もたまったもんじゃありません。」

 オニヤンマはカジキの意見に同調する。

「敵の軍とは言え、農民の被害は抑えたいものだな。気の毒な事もあるが、戦の後の農業に支障をきたすと、国民が飢える事にもなりかねない。」

 ラオの言葉に、一同が驚いた様な顔をした。

「殿下には驚かされますな。それはロジュン王の考え方でもあるのですか?」

 ヒツジグモが感心した様に目を細める。

 皆の尊敬の眼差しが気恥ずかしく、ラオは「当たり前の事だ」と少しぶっきらぼうに答えた。

「そう言う所はまだまだ子供でいらっしゃいますな。」

 ニシカゼがそう言って吹き出した。釣られて他の皆も大笑いした。皆が笑う事で、戦の前だと言うのに砦の中は和やかで、落ち着いた空気に包まれた。


「まだ少しだけ時間はあります。詳しいことはまた明日話し合うとして、今日は歓迎とお互いの友好を高める為に、ささやかではありますが全員で夕食を共にして頂きます。明日からは忙しくなると思いますので、今日はのんびりと過ごして下さい。」

 オニヤンマはそう言って、ラオ達が休むテントまで案内してくれた。城壁の中に大きさの違うテントがいくつも貼られている。その中で小さめのテントにラオは案内された。

「ラオ殿下に、このようなテントで休んで頂くのは誠に恐縮でございますが、砦の中はさっき案内した食堂が一番広くて、他は倉庫と矢を射る為の小さな小部屋ぐらいしかありません。兵士達はあの大きなテントに分かれて寝泊まりしています。殿下はこの個室になっているこのテントをご利用ください。」

 オニヤンマが申し訳なさそうに頭を下げる。

 ラオは自分の休むテントを覗いてみたが、下には絨毯が敷かれており寝台とちょっとした文机と椅子まで用意されている。

「結構快適な良い寝所じゃないか。急に来たのにこの様な準備をしてくれて、本当にありがたい。」

 これはラオの本当の気持ちだ。南大陸に帰ってくる時の粗末なテントに比べれば、高級な宿屋に泊まっている様な気にさえなる。


「衛兵隊長は1000人の兵を集めたと言っていたが、確かに全軍ここに集めるには少し狭そうに感じるな。」

 ラオは率直に思ったことを言った。

「そうですね。でも今の人数で500人以上の軍を相手にするのは、ちょっと無謀過ぎます。朝一番に伝令を走らせて100人だけ先に兵を送ってもらいましょう。それ以上だと、ここが混乱してしまう可能性もありますから。ここを守り抜いた後のトルガ攻めに合わせて、残りの軍に来て貰うのが良いと思います。」

 オニヤンマの提案に、ラオ達は納得した。

 そして夜になり、砦の兵士たち全員と夕食を食べた。みんな陽気で気の良い奴らだ。オニヤンマの人柄が皆を纏めているのだと感心した。


 次の日の朝、アケボノからの返事が届いた。

「ヒツジグモより、殿下がタージルハン王に推挙されたと聞きました。殿下が即位なされると、我がマーマタンとタージルハンの友好は益々強硬なものとなり、それは私の望む所でもあります。私は殿下を信頼しております故、ご自分の信じた道を歩いて行かれるのがよろしいかと存じます。

 それにしても、懐かしきガルドの丘にて殿下が初陣を飾ると言うのは、誠に感慨深い事でございます。どうぞ油断なさらずに、殿下のご武運をお祈り致します。」

(ヒツジグモが言った通り、アケボノ殿にとっても都合が良いと言うことか。それにしてもアケボノ殿の懐の深さには、まだまだ到底及ぶ所ではないな。とにかく俺を信頼してくれるのはありがたい)

ラオはアケボノの手紙を謙虚な気持ちで読むことで、素直な感謝の気持ちを持つ事が出来た。

 

 朝食の後、早速これからの作戦が話し合われた。

「多分、先頭はかき集められた農民達になるのでしょうな。」

 オニヤンマがが地図を見ながら、敵の様子を説明し始めた。

「ヒキガエルとは何度か会ったことがあります。粗野で気分屋なところがありますが、基本的には臆病ですな。いざとなればすぐ逃げられる様に、自分は後ろから兵士たちを脅すように指揮する事は想像に難く無い。奴らは農民のことを、使い捨てだと思ってますから。

 トルガからここまでは細い一本道で後は深い森に囲まれています。迎え討つだけなら簡単ですが、殿下の心配通りに農民は全滅する恐れがありますな。」

 説明を聞きながら、ラオはふと疑問に思った。。

「密林を行くのはそんなに難しいのか?」

 ラオが聞くと、「少人数ならいけないことはありません。」とオニヤンマは答えた。

「ならば少人数の精鋭で密林を行き、後ろにいるであろうヒキガエルに奇襲をかけるのはどうだろう?」

 ラオはそう提案してみた。

「なるほど、軍事専門の兵士はヒキガエルと、彼の部下が何人かがいるだけでしょうから、それで行けそうですな。」

 オニヤンマは何度も首を縦に振りながら、その作戦に乗り気になった様だ。


「俺もそこに参加する。」

 ラオがそう言ったが、オニヤンマは反対した。「俺は大丈夫だ。」と言ったが、そう言うことではないらしい。

「先頭に立つ農民を傷つけたくないと言うのなら、殿下と私はここに残る事に意味があります。」

 オニヤンマがそう言うと、カジキも大きく頷いて補足の説明をした。

「二人揃って農民の前に立ち、農民達の安全を保障しながら降伏を促すのです。」

 ラオは最初、自分の役割がよく分からず、「俺の説得で、農民は本当に降伏するものなのか?」と本気で聞いた。

 ヒツジグモが小さくため息を吐きながら、ラオに自分の立場を改めて説明して来た。

「殿下は生まれながらに王者として育てられて来ました。気付いてない様ですが、殿下には風格というものがあるのです。それこそ農民達が逆立ちしても敵わない様な風格がです。そしてその風格によって安全が保証され、降伏後の心配も無くなり、安心してこちらへ降ることが出来るのです。」

 危険を省みず、兵士と共に戦ってこそ自分の価値が上がると思っていたので、ヒツジグモの説明にどうも納得いかないラオであったが、全員が同じことを言ってくるので、皆に従う事にした。


 密林からの奇襲には、砦の兵士が10名とニシカゼが参加する事になった。

「ニシカゼ殿の噂は私の耳にも届いております。南大陸の蛮族による略奪から何度も隊商を守り抜き、ミカヅキ殿から絶大なる信頼を受けていると聞いています。此度の奇襲も安心して任せられますな。」

 オニヤンマはニシカゼを褒め称える。

 ラオは、後宮で全体を見渡し、無駄なく戦うニシカゼの姿を思い出した。確かに戦いにおいて、こんなに頼もしい人材は他にいないだろう。しかし、ふと気になってヒツジグモに聞いてみた。

「そなたも、戦術は相当に強そうだが?」

 ヒツジグモは大袈裟に手を振り、「とんでもない。」と言った。謙遜でもないらしい。

「ニシカゼの強さは別格です。俺は奴以上の強者を見たことが無い。しかも情に熱く忠義心も強い。味方ならこんなに頼もしい男はいないですが、絶対に敵にしたく無い相手です。」

 ヒツジグモにそこまで言わせるとは、ニシカゼは本当に大した奴なんだろう。ラオの支援にあれだけ消極的に見えたミカヅキが、自分の一番信頼のおける者をラオに付けてくれていたのだ。感謝の気持ちの反面、一筋縄ではいかないミカヅキを味方に出来て良かったと、ホッと胸を撫で下ろすラオであった。

「視界の開けた所なら誰にも負けませんが、密林での戦いは殆ど経験がありません。オニヤンマ殿の期待に応えらるかどうか・・・。しかし、密林からすぐに道に出れば、ここの兵士は厳しく訓練していそうですし・・・、そうですね30人ぐらいまでなら大丈夫でしょう。」

 ニシカゼは冷静に自分の力を分析出来ているようだ。

「それは頼もしい。では奇襲部隊の方の指揮はお任せします。」

 オニヤンマは満足そうにそう言って笑った。



 

 




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