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暴君ラオ  作者: あーる
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タージルハンの乱6

「奇襲の方はニシカゼ殿に任せるとして、我々は砦での戦術を考えましょう。こちらは下手に戦う訳にもいかないので、より繊細な作戦が必要だと思われます。」

 オニヤンマが、農民達をどう戦線離脱させるかと意見を聞いてきた。そしてその後、バツが悪そうに頭をかきながら、「殿下には、ここで農民達の投降を促すべきだと偉そうに言いましたが、実は兄とは違い私は戦い専門だったから、農民相手に何を言えばよく分かってないのですよ。ここの連中も見ての通り、人との交渉を出来る者はいない。」と告白してきた。

 初対面でも気兼ねなく話せる人だと思っていたので、ラオは驚いた。

「そんな風には見えないが・・・。どちらかと言えば人懐っこい方だと思っていた。」

「殿下とは信頼関係を気付きたいと、素直な気持ちで話す事が出来ましたが、そうですね、相手の様子を伺いながらの駆け引きめいた事は、苦手と言うかまるで出来ないのですよ。」

 オニヤンマは本当にクワガタとは正反対の性格なのだ。そう思うとずいぶん年上なはずなのに、オニヤンマの事がが何だか可愛く見えてきた。

「では、交渉はアカホシに任せる事にしよう。彼は主人の右腕として、何度も交渉の場で腕を振るってきたから、こう言う事は得意なはずだ。」

 ラオはそう言ってニコリと笑った。

「殿下と軍団長は農民を傷つけたくないと、助けになりたいから降伏しろと正直なお気持ちを言えば良いのです。お二人の声と言葉には、誠実さを感じる響きがあります。ですから、心に思った通りのことを言えば十分伝わると思いますよ。」

 アカホシにそう言われて、ラオとオニヤンマは思わず顔を見合わせた。そしてなぜか照れ臭く感じて赤面してしまう。

 アカホシは続けて言う。

「その後の交渉はそうですね、私が責任持って農民達を納得させましょう。」

 彼は戦闘よりも、相手との駆け引きでリュウセイの補佐をしてきたと聞いた。そう考えると、マーマタンの族長御三家の人達が如何に均衡の取れた人材を付けてくれたのかがよく分かる。

(本当にありがたいことだ。)

 ラオは彼らが味方に付いたことで、必ずテムチカンを奪還できると確信した。


 次の日の朝、眠っているラオの所に、トルガの軍勢がこちらに向かい始めたと兵士が伝えに来た。まだ夜明け前なのか、空が薄暗い。

「いよいよ始まるな。」

 ラオは緊張と興奮で一気に目が覚める。

「ニシカゼ殿は早くも出発して、王宮からの先兵隊も到着しております。」

 起こしに来た兵士がそう教えてくれた。

 急いで井戸水で顔を洗い、オニヤンマの元へ行く。もう、みんなが集まっていた。

「ニシカゼ殿との連絡はかなり密に出来そうです。王宮へも伝令を走らせておきましたので、残りの正規軍も、こちらに向かい始めた頃だと思われます。」

 オニヤンマが今の状況を教えてくれた。続けて、ラオに作戦の確認をして来た。

「では作戦通りにここでヒキガエル軍を撃破した後、アカホシ殿に農民との交渉を任せ、私たちはそのままの勢いでトルガを落としにかかると言う事でよろしいですかな?」

「うむ。では西側の櫓で敵の様子を見る事にしよう。」

 ラオは表情を引き締めて頷き、作戦の許可を与えた。

 昨日の夜、ラオが総大将の自覚を持つ様にと、オニヤンマは率先して臣下の礼をしてくれた。砦の兵士達もオニヤンマに続けとばかりに皆が臣下になる事を了承した。会ったばかりのラオに対して、ここまで信頼してくれることがありがたい。

 

 朝日が昇り、砦の背後が輝き出した。

 ラオは、櫓の上からトルガの方向を睨みつける。森の中はまだ日光が届かないのか、真っ暗でどこに道があるのかよく見えない。

 やがて、小さな灯りがポツポツと見え出した。敵の兵士が持つ松明だ。光がゆらゆらと揺れて見えるだけで、距離感がまだ掴めない。ここに辿り着くのにはまだ少し時間がかかりそうである。

「後、小一時間と言うところかな。敵が来たぞ!」

 オニヤンマも敵の明かりに気が付いたのか、下の連中に注意を促した。流石に軍団長である。この小さな灯で敵との距離がわかるのだ。ラオが感心していると「何事も経験ですよ。」と笑った。

 ニシカゼにも同じ様なことを言われたのを思い出し、今は全てを吸収する時なのだと強く感じた。

 

 あっという間に辺り一面が明るくなり、遠くにトルガの町がぼんやりと見えてきた。森には細く切れ目を入れたような一本道があり、こちらに進軍してくる敵兵の姿もはっきり確認する事が出来た。もうかなり近付いている。

 こちらの兵士達も持ち場に着いて、命令があればいつでも矢を撃てる様に準備は出来ている。砦を囲む城壁の前にも、大きな盾を持った歩兵達が陣取った。

 やがて先頭の兵士達が砦の前まで辿り着き、歩兵達と睨み合う様な形となる。

 ラオは櫓の上から敵兵達の表情を見た。兵士達の顔は強張り、誰も恐怖心を隠そうとはして無かった。中には自分の理不尽な運命を呪っているのか、憤怒の表情でこちらを睨みつけてくる者もいる。いずれにせよ、皆が自分の置かれた立場に絶望を感じているのは間違いなさそうだった。

(訳も分からず戦場に駆り出されて、本当に迷惑極まりない話だな。)

 ラオは心の底から農民達に同情した。


 ニシカゼから、いつでも飛び出せると連絡が来た。

 隊列の後ろを見れば少し道が広くなっている所で、騎乗した5人ほどの男達が横に並んで陣取っている。どうもわざと横並び出来る所を選んでいる様である。

「真ん中にいるのがヒキガエルです。横に並んでこちらを威嚇するつもりなんでしょう。しかし少しでも広い方が、ニシカゼ殿も動きやすい。こちらには好都合ですな。」

 オニヤンマが不敵に笑う。

「急ごしらえで軍を作るから、作戦も何もあったもんじゃないと言う訳か?」

 戦が初めてのラオでも、敵の軍隊のあまりにもお粗末な隊列に呆れてしまった。

「ヒキガエルは所詮用心棒止まりの男です。軍を率いるようなタマじゃない。カマキリもよくこれで戦えると思ったものだ。」

 オニヤンマも呆れた様にそう言った。


「お前ら!突撃だー!!」

 ヒキガエルの怒号の様な号令が聞こえた。しかし、先頭の兵士達から呼応する声は聞こえない。粗末な剣を持たされているが、訓練もしていないのでどう構えていいのかも分からず、ただノロノロとこちらに向かってくるだけだった。

「お前ら、何してる走らんか!!」

 様子を見ていたヒキガエルが、イライラしたように怒鳴りつけた。オニヤンマがラオに目で合図した。ラオは静かに頷き、大きく息を吸った。


 ラオは声高々に農民達に語りかけた。

「我はテムチカンの王ロジュンの息子、ラオである!其方らが大人しくこちらに降れば悪いようにはしない。其方らが戦う必要はない!降伏すれば其方らは私が守る!」

 ラオの言葉に農民達は立ち尽くして動かなくなった。続けてオニヤンマも叫ぶ。

「私はタージルハン宰相のクワガタの弟にして、このガルド砦の軍団長オニヤンマである。其方たちはタージルハンに謀反を起こすと言うのか?いや違うはずだ!逆賊カマキリに脅されて仕方なく従っているだけであろう?

 このまま降伏するのであれば、其方たちの罪は不問とする。いや、カマキリから其方の家族も絶対に守ってみせる。其方たちはタージルハンに無くてはならぬ者達なのだ!どうか、ここにおられるラオ殿下と私を信じて欲しい!」

 農民達は明らかに動揺している。元々戦意の乏しい彼らは、その場から動けなくなってしまった。

「何を言う!俺の命令に背くと言うのか!!お前達の家族がどうなってもいいと言うのか!!」

 ヒキガエルが声をひっくり返しながら農民達に怒鳴りつけた。

「俺が守ると言っているのだ!俺を信じて付いてくれば、俺は絶対其方達を裏切らない!!」

 ヒキガエルに反論する様に、ラオは吠えた。


 その時、大きな叫び声と共に密林から10人ばかりの屈強な男達が飛び出した。ニシカゼ率いる奇襲隊である。

 完全に油断していたであろうヒキガエルは、驚き暴れる馬を制御出来ずに落馬した。ニシカゼがその隙を見逃す筈も無く、ヒキガエルに剣を突き刺した。ヒキガエルの断末魔の叫び声がラオの居る櫓まで聞こえてきた。

 初めて人が殺される瞬間に立ち会い、ラオの足は震えた。オニヤンマがそれに気付き、少し後ろに下がりラオの体が崩れぬ様にと、背中を支えた。

「すまない、大丈夫だ。」

 オニヤンマの気遣いに気付いたラオは、オニヤンマに小さく礼を言い足に力を込めて仁王立ちになる。

 ヒキガエルと一緒にいた連中もあっという間に奇襲隊に制圧され、農民に指示出来る者は誰も居なくなった。彼らは皆途方に暮れている。このまま投降しても良いものか迷っている様だった。

「我々が其方たちと戦う理由は何も無い。訳も分からずこんな所に来させられ、気の毒にさえ思っている。決して悪いようにはしないから、どうか武器を捨てて投降して欲しい。」

 ラオは彼らの助けになりたいと、本気で思っている。そしてその心のままに農民たちに訴えた。


 呆然として、しばらく動けなかった農民の中から、一人声を上げる者がいた。

「俺達の家族がカマキリ様の人質に取られてるんだ。あんた達に負けたとなるとみんな殺されてしまう!」

 ラオは憤った。「カマキリの卑劣さを許せない」と、思わず大声で叫んでしまった。

「ラオ殿下の言う通り、とても許せるものではない!我らはこのままトルガまで攻め込もうと思っていたが、其方達の家族を先に救出する。其方達の家族がどこにいるのか教えてくれ!」

 ラオはオニヤンマの声に大きく頷いた。そして農民に向かい高らかに宣言する。

「俺を信じろ!俺は絶対に其方達の家族も助けてみせる!」


 ラオの言葉が通じたのか、農民達は一人また一人と投降し始めた。ラオは急いで櫓を降り、農民達を迎える。ラオの前に集まった農民達が、「お願いします。家族を助けてください。」と平伏した。

「命を賭けても、其方達を守ってみせる。安心しろ!」

 ラオは優しく笑いそう言い切ると、安心出来たのか農民達はラオに全てを委ねることに同意した。


 






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