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産毛

戦いの余韻に浸りながら投げだした四肢から力を抜き、浅い呼吸を繰り返して信じられないほどに早くなった鼓動をを抑えていく。


 「怪我は!? 大丈夫なの!?」


 オーガとの戦闘が終わる直前に駆け寄って来ていたハミィが大の字になりながら余韻に浸る俺の傍に駆け寄り怪我の具合を調べながら心配そうに声を掛ける。


 「怪我はしてるけど大丈夫だよ、動くぐらいは出来るから! でももう少し休ませて……」


 「もぅ……あんまり心配……させないでね」


 すぐ隣で膝を曲げて座り込み、少しうつむきながら手を鎧に触れさせる彼女温かさが溜まらなく愛おしく、我慢が出来ずに触れていた手を握りって指の間に自分の指を絡める様に握りしめて彼女の手の感触を感じ取る。


 「え!?……あ、あの……コ、コウ……?」


 呟く彼女の声を聴きながら伝わって来た手の感触がゴツゴツした何とも言えないものであった事で理性を取り戻しながらゆっくりと手を離す。


 「ごめん! なんか……ちょっと触ってみたくなって……ほんとごめん」


 「う、ううん……大丈夫、いいよ……」


 顔を耳まで真っ赤にしながら肯定してくれた彼女の返事に戸惑いながら何となくその姿に目が奪われる。



 握られた手を包み込む様に胸の前で両手を合わせ、いつもは気を使っている身形を少しだらけさせて地面に接触している下半身からは、スカートと長めの靴下でさえも隠すことが出来ていない地肌が露出しており、吸い込まれるように視線がそこに行き、釘付けにされる事で足に生える産毛が見える。


 「ねぇ……どこを見てるの……?」



 オーガと対峙した時よりも強い寒気が突如全身を包み込み、冷め切った声の主を見ない様に首を反対側に向けて何もなかった事にしようと試みる。


 「ん? 何のこと? ちょっとわからないわ!」


 「見てたよね? 私ちゃんとコウの顔見てたから解ってるんだよ? 今足見てたよね……?」


 言い逃れは難しいかもしれないと考えて、次なる言い訳を模索するがこの場合何を言っても藪蛇にしかならない気がして、素直になった方がいいだろうと判断する。


 「ごめんなさい、見てました、その……なんというか男にとってはどうしようもない事なんだよ、すぐ隣に見えそうなスカートがあれば自然と目が行ってしまうものなんだよ」


 俺の言葉を聞き、すぐさま両手でスカートを抑えて露出していた足を隠そうとしながら真っ赤になった顔で睨まれた。


 「どこまで……? どこまで見えたの!? 正直に言って!!」


 投げ掛ける言葉に圧力を感じ、これは良くない方向に進んでいる気になるが正直に言えと言われれば……いうしかないだろう……


 「毛まで見えた……」


 「は!? 毛………?」


 「そう、足の産毛までみえ――ぐっは!!」


 見えたと報告する寸前で握りこぶしを作って腹部へと殴り付けて来たハミィは、肩で荒い息ずかいを繰り返しながら突き刺した拳をプルプルと震わせてなおも奥へと押し込んで来る。


 「ここで今すぐに忘れるか、記憶が飛ぶぐらいの事をされるのとどっちがいいか選びなさい……」


 ゆっくりと時間をかけながら腹部に押し込んで来る拳は女性ならば恐らく耐えることなどたやすいだろうが、男の姿になっている今の彼女のその拳はかなりの力が込められていて、どれほど本気であるのかが伝わってくる、その結果実質俺に選択肢などはなかったのだ。


 「忘れます!! 今すぐ忘れますからやめて下さい! お願いします!」


 腹部に突き刺した拳を震わせながらゆっくりと引き抜いて行き、顔を真っ赤にさせながら背中を見せる様に後ろを向いて身形を整えて行く。


 「見るのはまぁいいかって思うけど、なんで毛なんて見てるのよ! 普通見るならスカートの中とかじゃないの!?」


 確かに言われてみれば普通は中を見ようとするはずなのだが、何故かその手前の毛に目が行ったのだ、しかし仮に中を見てしまった場合、色々と言葉にするのも憚られる事になり、それを正直に言えと言われてもこちらとしても本当に困る事態になってしまうだろう。


 そしてこの場合はどうすればいいのだろうか? 後ろを向いてしまった彼女に何か言葉をかけるべきなのか、そっとしておく事が正解なのかが解らない、何かを言うとした場合、足綺麗だったよ……などと言った所でろくな事にならない気がするし、言わないにしてもこの微妙な空気を味わいながらまったりする事など不可能だ。


 色々と考えながらも後ろを向いてしまったハミィの背中に視線を向けて、結局自然体が一番いいのではないかと思い至り、向けている背中にゆっくりと手の平を触れさせて、少し驚いた様にびくりとした彼女に向けて口を開く。


 「……ありがとう」


 「それどうゆう意味なの!?」


 再び振り返りながら大声を上げて詰め寄り、言葉の意味を聞かせろと怒っているハミィと怒られている俺、その様子に腹を抱えて笑い転げている二人は楽しそうに事態が終わるのをただただ見ていた。

 

「お二人さんそろそろいいか?」


 地面に大の字になったままでハミィからの追求をなんとかかわして、なんとも言えない微妙な空気が二人の間に立ち込めてているのを感じ取りながらハミィの機嫌を治す方法はないかと考えるが、今まで女の子の機嫌取りなどしたこともなく、どうすればいいかなど解るはずもない、自然体で接しようとも考えてはみたものの、その自然体で発した一言で事態を悪化させたようなもので、何も考えずに再び接するのはなるべく避けた方がいいだろう、しかしそうなってくるとどうすればいいのだろうか? などと自問自答を繰り返す俺にいつの間にか横にまで来ていたマジェが見下ろしながらに声を掛ける。


 「ようマジェ、お疲れ様! さっきは助かったよ」


 オーガとの戦闘でとどめの一撃となった弓矢を自分の意図を汲み取って放ってくれたマジェに感謝をしながら、労いの言葉をかけて地面に寝ころんでいた体を起こしてハミィの事も気にしながら話を進めていく。


 「気にすんな、一番しんどかったのはコウだし、ちゃんと倒せてよかったわ! それはそうと、そろそろお宝を拝んでみないか? あれだけ苦労したんだ、それなりにいい物が入ってくれているとうれしいんだけどな」


 確かにこのラビの主であるオーガは来る時に倒した敵と比べると強さが段違いだった、そのことも考えると箱の中身を自然と期待してしまうのは仕方がない事だろう。


 「ハミィ……中身見にいかない……?」


 隣にいるものの、背中を向けてまだ怒ってそうな彼女に立ち上がりながら恐る恐る声を掛けてその様子を窺い、反応を待つ。


 「行くけど……」


 そう一言だけ発した彼女は自分の左腕を上に上げて軽く手を開いて何かを待っているような感じを伝えてくる、しかしその意図が汲み取れずに首を傾げる俺にマジェは軽く肘で脇腹を突き、小声で語り掛ける。


 「手握って起こしてやれよ、察しろ!!」


 マジェから言われた言葉で彼女の望む行動を理解して、手を伸ばしながら本当に自分のこの行動が間違いではないのかと思いながら彼女の横顔に目をやると、目を瞑りながら頬を少し膨らませ、耳まで真っ赤になっていて、マジェの小声が聞こえていたのかと思うのだがそれでも手を上げたままである事からその行為自体は彼女なりに必要なものであるのが伺える。


 ゆっくりと上げられた手に触れて行き、触れた所で出来るだけ優しく撫でる様に手を握り、徐々に力を入れて引き起こし、自分の方へと手繰り寄せた彼女はふらつきながら立ち上がって俺の胸に手を当てながら額をゆっくりと胸に当てる。


 「これでゆるしてあげる……」


 顔を隠す様に胸元に埋めて小声で呟き、目を合わせない様に少しうつむきながらお互いの距離を離していく。


 「なんだよこの空気!! 絵ずらが微妙だけどとりあえず二人共帰ってからやりやがれ!!」


 俺達二人の行動をすぐそばで見ていたマジェの口からは抗議の声が上がってきて、自分達の自制心が吹っ飛んでしまっている事を認識してお互いに背中を向けて顔を背ける。


 「悪かったよ、それじゃ箱開けようか!」


 自分の顔が熱くなっているのを感じ取ながらも気を取り直して全員で箱の前へと移動をし、この部屋に来るまでもそうであったように、開ける行為をマジェに任せてゆっくりと開かれた箱の中身に顔を覗きこませていく皆を少し下がった所で見守り、辺りの警戒をし続ける。


 「おぉ~! なんか色々入ってるぞ!」


 「本当だ~! なんだか見た事もないのが何個か入ってるね!」


 箱を開ける時は皆に任せて自分は警戒をしておく、それは自分で決めた事ではあるのだが、そんな声を上げられると気になって仕方がない。


 「とりあえず全部出してみようぜ、コウ! 敵もいないし万が一来たとしてもすぐに解るからそんなに警戒しなくてもいいと思うぜ? というかこっちに来てくれないと分けれないしな」


 マジェから言われた言葉通りにここの部屋はそれなりに広さがあり、箱を開ける俺達は奥の方へといる為、敵が来たとしてもすぐに解る、それに中身が気になって仕方がない。


 「わかったよ、それじゃ何が入ってるか出していってくれ」


 少し開いていた距離を歩いて詰めて行き、その間にマジェは箱の中から一つずつ取り出して床に出す。


 「魔結晶が結構入ってるな、これは後で分けるとして他のをだして行くぜ」


 そういいながら箱から一つずつ手に持ち、出して床に置いていく姿を見守り、出し終わった所でそれらの物を見て行くが確かに見た事もない物ばかりでよくわからないというのが率直な感想だ。



 「なぁ、誰かこれの使い道とか価値って解るか?」


 「わかんな~い」


 「私もわからないかな」


 「俺もわからんよ?」


 「そうだよな~、見た感じ石? みたいだし鍛冶系の物かなってぐらいしかわからねぇよな」


 箱から出されて床に並べられた物はそのほとんどが丸い石の様な物で普通の石との違いはその表面になにやら文字の様に見えるのが刻まれているだけで、現状これがなんであるかは見当もつかない。


 「確か鑑定屋? だったっけ? そこに行けば解るんだよな?」


 「うん、使い道のわからない物だったり、その効果が解らない時に持って行くと教えてくれるよ」


 「ならそこに持っていくしかないんじゃないかな? 使い道が解ってから欲しい人に渡して行けばそれでいいと思うよ?」


 使い道も効果もわからない物をここで適当に分けてしまっては後々交換したりする可能性が高い、そうであるなら初めから調べた上で分配した方がいいだろう。


 「そうだな、そんじゃ魔結晶だけここで分配でいいか?」


 「いいんじゃないかな? ハミィとカッチェもそれでいい?」


 「「いいよ/うん!」」


 「よっし、うんじゃ分けるけどこれキッチリ分けるの難しいな……」


 「大体でいいよ、そこまでがめつくないし、細かいことは言わないから適当に分けてくれ」


 「わかった、そんじゃ本当に大雑把に分けて行くからちょっと待っててくれ」


 箱の中に入ったままの魔結晶を順番に取り出して四人分に分けて行く姿をなんとなく見ているといつの間にか隣にいたハミィは腕の裾を軽く何度か引っ張って俺を呼んでいた。


 「コウ、私あまり物を入れておく袋が大きくないから、入らない分はコウが持っててくれる?」


 ヒーラはあまり物が持てないとそういえば言っていたのを思い出して彼女の腰にぶら下げている袋を見ると確かに小さめの袋で、分配された物が全て入り切るかはわからないという程だ。


 「いいよ、入らない分は預かっておくから後で渡すね」


 「ありがとう」


 そしてしばらく三人で見守っていたマジェの分配作業が終わり、自分の分を受け取った後でハミィの持てない分を受け取り、四人で出口から脱出してそのまま鑑定屋へと向かう事になった。

 

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