蠢く者
「なんなのよあいつ~!!!」
そう言いながら怒っているカッチェの怒りはどうやら先ほどすれ違い、俺達を追い抜く形で去って行った人達に向けられているものだ、確かにろくな挨拶もなしに先に来ている俺達を追い抜いて行ったことはあんまりいい気分ではないが、そこまで怒らなくてもいいんじゃん。
「カッチェ、そんなに怒んなよ、ある意味安全な状態で探索できるんだしいいんじゃないか?」
「そうだけど、そうだけど! なんかなっとくできないの!」
しかたない、そっとしておこう。
「それはそうとやっぱり他のパーティーもここに振り分けられてたんだな、さすがに俺達だけってことはないか」
ここに入る前に考えたこと、他の人達が来るのかという疑問がここに来て解決する形になった。
「それで? 俺達はどうするよ?」
そうマジェが言うのだが、今回の探索は一様クエストと同じ扱いだと考えていいだろう、報酬も出るわけだしな、それなら無意味かもしれないが最深部までは行って帰ることはした方がいいだろうな。
「先に進もう、先に向こうが最深部につくのは間違いないだろうけど、別に早い者勝ちってことではないしな、それなら俺達は俺達で気にせず行こう」
俺の提案にみんなは黙ってうなずき先に進む事を了承した、カッチェだけはまだ機嫌が悪そうだだったが、世の中いろんな人がいるのだ、その度に気にしていたらきりがない。
倒したゴブリンの死体をそのまま放置し、先に進んで行くと先に行ったパーティーが倒したであろうゴブリンの死体が転がっている、ダンジョンの中が一匹だけなはずはないだろうが、他にもやっぱりいるよな。
そのまま先に進もうと先頭を歩いていた俺の袖を誰かが引っ張る感じがして足を止め、振り返ってみると、ハミィが引っ張っているのが見えた。
「コウ、少しいいかな?」
袖を引っ張っていた理由を聞こうと思っていたし、何かに気づいたのかもしれない。
「どうした? なんか見つけた?」
「そうじゃないんだけど、ちょっとおかしいなって思って」
「ん? おかしいって何が? 先に行った人達が見えないとかそうゆう事?」
いくら広くないといっても最深部まで行って戻ってくるならもう少しかかるのではないだろうか?
「そうじゃないの、前に来た時の話になるんだけどもっとゴブリンがいたのよ、ここまで進んで来るまでに結構倒したはずなのに、なんかおかしいなって思って」
「それは先に進んだ奴らが倒してるからじゃないか?」
ハミィの気になっている事にマジェが答え、俺もマジェと同じ意見でそうなんじゃないの? と思っているのだが。
「そうだとしてもおかしいと思わない?」
そうハミィが言うので少し考えると確かにおかしくはあった。
「死体がない……倒しているにしてはその死体がないんだな?」
俺が言った言葉は正解だった様で、うなずくハミィなのだが、おかしいのはわかるがその原因がわからないのが問題だ、このままなんか少しおかしい気がしたから帰ってきました~などと報告が出来るわけがない、その異常を調べる為の調査なんだから。
「ここで戻ることはできないし気をつけて行くしかないだろう、ヤバイと判断したらすぐにその段階で引き返す、それでいいかな?」
自分一人でなら勝手に決める事も出来るのだが、皆で行動する以上了承は必要である為声をかけるとそれでいいと皆が言ってくれた事により俺達はゆっくりと先に進んで行く。
しばらく歩き、一様警戒しながら進んではいたのだが、俺達が出会った一匹以外に出会う事もなく、死体もない、そんな状態の中ついに俺達は敵に会うこともなく、先に進んだ人にも合わずに最深部のすぐ近くにまで来てしまっていた。
以前来たことがあるハミィにもうすぐそこだと言われたのだが、最深部に近ずくにつれよくわからない臭いが漂ってくる、なにかが腐っているようなものと鉄のさびた様なもの、他にも甘ったるい感じの臭いが混じりあったなんとも言えない不快な臭いで顔を背けたくなる。
「前に来た時もこんな臭いしてたの?」
うちのパーティーで中の事を知っているのはハミィしかいない、彼女に尋ねるしかないだろうと聞いてみたのだが。
「違う……こんな臭いなんてなかったよ、ここの最深部には水が溜まっている所があるだけで他には何もなかった」
と今の状況と全く違う話が出てくる、明らかに異常事態だ、どうする? もう引き返すか? そう考えた時だった、最深部の方からフラフラと歩く人影が近づいてきた、何かあってもすぐに対応出来るようにと警戒しながらその相手を見ると、その人物は俺達を抜いて先に行く時に声をかけて来たタンクと思われる人であった。
最深部の入り口辺りで立ち止まり、動かなくなったその人に何があったのかと問いかける。
「おい、あんた大丈夫か? 他の仲間は? どこに行ったんだ? 奥にいるのか?」
そう、入口で立つその人以外に他のメンバーが見当たらない、それが何よりの警戒すべきところだろう、何故、彼だけなのか。
「呼んでいる……あぁ、俺を呼んでいる……そうか……わかった、行くよ……今いくよ……あぁぁ……今………今……あぁぁ………」
ぼそぼそと呟いた彼は再び最深部の中へとフラフラ歩いて入って行く。
駄目だ、これ以上はもう駄目だ! 進んでは何が起こるかわからない、せめて彼だけでも連れて帰ろう! このまま見殺しにはできない。
できるならなるべく中には入りたくはなかったがまだ入り口近くにいる彼を連れ帰るぐらいならと俺は走り、彼を捕まえる為に中に入り、動けなくなってしまった……
そんな俺を心配して皆が俺の所にまで来るが、皆もそこで動けなくなる、体が動かないわけではない、俺達が動けなくなってしまった理由、それは最深部の中の光景によるもので、その中の余りにもひどい惨状のせいだ。
「な、なんだ……これ……?」
そう声を出したのが自分であるのかもわからないほどの衝撃。
最深部の中に飛び散っている肉の塊の様なもの、何かの臓物の様な物、人の手足にも見える何か、地面一面に広がるどす黒い液体。
血の色に染まり切った赤い水溜まり、冒険者の持ち物であろう武器や、鎧、その残骸。
それらが俺達の足を止めた。
無理だ……、逃げろ………逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ。
逃げろ!
そう皆に言い、体を、声を出そうとするが、動けない……声が出ない………そして、それはやって来た。
奥に入った彼が俺達に振り返ると、その顔や腹は異常なほどに膨れ上がり、眼球が飛び出すのではないかと思うほどに目を見開き俺達を見た後。
パン!
濡れたものが破裂するような音が響き渡り、破裂したであろう腹や裂けてしまった顔の中からウジがはい出て貪る用に体をおおい隠した。
そして声が聞こえた、聞こえた気がした、枯れたような声が。
耳にではなく、頭の中に直接響くような声が聞こえた。
「さぁ……おいで……次はお………まえだ……きも……ち、いいよ……さ……ぁ………さぁ……さぁ…………さぁ、オイデ」
彼を包み隠す程のウジが集まり、黒いモヤで覆い隠され形が出来上がる、手が、足が、体が形創られ、頭部が出来上がり、現れた。
壊し、貪り、蠢き食らう者が




