見えない絆
翌日技の習得の為に酷使した喉は痛みはあるのもも話せるぐらいには回復をしていた、それならばとまずはラミアスさんに言われた指示された様に防具を買う為に職人通りにあるあの店、カマウりさんの店に赴く事にする、なんせ壁役である自分がまともに防具を揃えれていないのは流石に不味いだろうと思うのだ、まずはそこをなんとかしようと店の近くに到着すると、はじめて町に来た時と同じ様に店の前で腕を組み、仁王立ちする店主が目に入る。
「おーいカマウリさん、おはよう! ちょっと相談があって来たんだけど~」
「ん? あぁコウか! おはよう、どうした? って立ち話もなんだな、入れよ!」
そう招かれた店内は以前剣を買いに来た時と同じで、店内に飾り付けられている武器や防具がその存在感を主張するかの様に磨き上げられて淡い光を輝かせていた。
「おーいコウ、見惚れるのは構わねぇが相談があんだろ?」
「そうだった! 実は安めの防具が欲しいんだ、予算は銀貨3枚なんだけど」
「ん~その額だと本当にまともな物はないぞ? しかも部分的、胸当てや腕だけとかそんな感じになっちまうぞ?」
タンクとしての防具は全身を包んでこそ意味が出て来る、それが二か所だけしかないとなると直接体にダメージを受ける事にもなり下手をすれば致命傷になる、今の自分の何も無い状態よりかは勿論いいには変わりないが安物であれば全身の防具を買えるかもという期待は、そんなに現実は甘くないと思い知らされるようだ。
しかしそうなってくると問題になるのはどの部位を買うかになる、手や足を買うと胴体がガラ空きになり、胴体や頭の部位を買うと逆に手や足が無防備になる、選ぶにしてもどれが正解なのか解らない。
「はぁ~、ちょっと待ってろ」
選択肢に悩む俺を見ていたカマウリさんはため息をつきながら店の奥へと入って行き、何かを探しているかの様にゴソゴソと音を立て、木箱を抱えながら戻って来た。
「普段はこんな事しねぇんだがな……まぁいい、これならコウが言う予算、銀貨3枚でいいぜ」
ドンという音を鳴らしながら地面に置かれた木箱の中身は少し汚れてはいるが各部位の防具が詰め込まれていて、その造りも何処かが曲がっているという事もなく、しっかりとした物の様に見えた。
「カマウリさんこれは……?」
「これはな、俺が半人前の頃に初めて作った防具だ、記念にと取っておいたんだがいつまでも仕舞い込んで抱えてても仕方がねぇ、これでいいなら持って行け! あ、持って行けとは言ったがもちろん金はもらうぞ!」
「ありがとう、カマウリさん! 大切にするよ」
「おう! それでどうする? 持ち歩くにしちゃ~嵩張るだろ、着けていくか?」
「そうだね、それじゃぁ……」
銀貨三枚を手渡し、一つ一つの部位を店の中で付けていきもう一度お礼を言ってから店を出る。
カマウリさんの恩情もあって目的の一つである鎧の用意はなんとかなった、次の目的はやっぱり技の習得だが喉の痛みは……大丈夫だ、少し程度の痛みなら耐えられる、でもそれをするには一番の問題であるお金が足りない事をなんとかしないとならない、鍛錬所が無料なのは初回の一度だけで今日行くとお金がかかる、その点も踏まえて頼りっきりになってしまうがラミアスさんに相談に行ってみよう。
「マジェとカッチェはどうしてるかな~……」
店からギルドへと歩きながら離れて行動する二人の事を思い浮かべて少し心配になって来る。
「おい聞いたかよ! 新種の魔物が表れたってよ!」
「なんだと! どんな奴なんだ?」
「不思議な事にケツに矢をぶっ刺したままで走り回るウルフだってよ!」
「はぁ!? ケツに弓矢だと!? なんだそりゃぁ!?」
ざわつく町通りで聞こえて来た新種の魔物、その情報が耳に入ると何故か心配していた事が馬鹿馬鹿しく思えてきて考えるのを辞めた。
通りを抜けてギルドに着くとラミアスさんは……と探すといつもの様にカウンターで受付をしているのを見つけて、幸い人は全然いない状態だったのでそのまま彼女に話しかける為に近づく。
「ラミアスさん、こんにちは!」
「あら、コウさん、鎧手にはいったんですね! というかその鎧……それなりにいい物のようですけどお金大丈夫だったのですか?」
「いえ、格安で譲ってもらったんですが、もう手持ちが全くなくなっちゃいました……それでご相談に来たんです、それに技に関してもハウルを習得することはまだできてないんです」
俺の説明を聞き、なんとな~く察してくれたようだ。
「あら、そうでしたか、ですがハウルに関しては初めの声を出す事を鍛える、ということさえ分かっていればあとは自主訓練で覚えることができますよ! それに……教えてくれた方がよかったみたいですね、以前とは気質が全く違います」
そんな事を言われたが自分では全くわからない、とういうかこの人はそんなこともわかるのか?
「そうですかね? 何か変わった感じはしないんですけど……、それでですね、相談の件なのですが、防具もそろえることが出来たのですが手持ちが無くて次に鍛錬所に行くのにどれぐらいの費用がかかるのかわかりますか?」
「えっと、ちょっと待ってくださいね、たしかこの辺りに……」
そう言いながら彼女は座っている場所のすぐに下の辺りをゴソボソと物をあさり、一枚の資料を出し、開いて中を見る。
「あ、これですね、2回目の費用ですが銅貨3枚ですね! 回数や技の内容しだいで値段が変わる仕組みですが、コウさんはまだハウルまでとの事ですし、3枚で大丈夫だと思いますよ?」
銅貨三枚、今の俺にとっては大金だ、使えば宿すら止まれなくなるのだ。
隠しててもしかたがない、と俺はラミアスさんに話した。
「実はですね……」
「お金がないんでしょ?」
「そうなんで………え??」
「わかってますよ、今の状態を推薦したのは私ですしそれぐらいは考えてますよ!」
あ、そうなんですね、すべてお見通しでしたか。
「これをどうぞ」
そういい差し出した彼女の手には銀貨が乗せられていた。
「え? どうゆうことですか?」
「これはお二人からコウさん、貴方へと託された物です、マジェさんとカッチェさんがクエストでモンスターを倒した時に星石を手にいれ、売却した一部で、お二人からの伝言と共にお預かりしていたものです、伝言をお伝えいたしますね」
(たまたま見つけた物だから気にするな、本当に気にしてくれるなら早く迎えにこい)
「だそうですよ、どうします? 受け取らない場合はお二人に返却いたしますよ? ですが彼等の気持ちを考えると受け取るべきだとは思います、お二人の望みはあなたと同じ、共に歩むことです、その為に進む手段を彼等はくれたのです、さぁ、貴方は……どうしますか……?」
まったく、あの二人はどこまでこっちの事を考え動いているんだ? 普通こんなことする奴なんていないぞ……ありがとう。
「受け取ります、あの二人がそれを望んでくれているなら、待ってくれているなら、進みたいと思います」
「そうですか、ではどうぞ、お二人に伝言などがあれば承りますよ?」
そう言うラミアスさんの顔は優しく、うれしいことがあったようなそんな笑顔だった。
「あの二人に伝えてください、必ず迎えに行くと」
俺は銀貨を受け取り、ギルドを後にしてそのまま鍛錬所へと向かう、少しでも早く戻る為に、待ってくれている二人のために。
駆け出した俺の足取りは速く、北にあるあの場所へ向かいその姿は人ごみに紛れ見えなくなる、そんな俺の姿を微笑みながら見守り、見送る二人がいた。




