なにカノEX 呪われた彼女
「みんなの将来の夢は何?」
昔の事だけど、村で一緒に育った男の子達にそう聞いた事があった、小さい村の中で育ち、外の世界を知らない私は他の人がどんな事を考えているか知りたかった。
「俺は冒険者になるぜ!」
「僕もアレスと同じ! 冒険者になる!」
「俺も同じだ、この村を出て冒険者になり、有名になってやる!」
幼なじみであるアレス、少し内気なレイ、いつも皆を引っ張っていたトウ、小さい村というのもあり私を含めた四人でいつも一緒にいたのを思い出す。
「そういうハミィはどうなんだ? 何かやりたい事でもあるのか?」
トウにそう聞かれた私の思いは……皆と一緒にいること、このままずっと仲良く過ごす事、それだけを望んでいて。
「私も皆と一緒に、冒険者になるよ」
ずっと共にある事を選んだ。
そして成長した私達は夢を叶える為に村を出て始まりの町、トリーアに移動した、あの頃の事を考えると何も解らないくせに浮き足立ってただその時々を楽しむ、その事だけしか考えて無かった、冒険者として登録した後も変わりなく、クエストに行き、報酬をもらい、その日々を楽しむ、そんな生活を続けていた。
「今日のクエストも楽だったな!」
「報酬は安いけど生活出来れば問題ないし何より楽しい!」
「そ、そうだね! ぼ、僕もそう思うよ」
軽くお酒を飲みながらみんなが話だした雑談は、毎晩ほとんど同じ内容で、今の生活が楽しいと、自分にそう言い聞かせている用だった、そうしなければ今の自分達の状況が幼い頃に思い描いた夢とかけ離れ過ぎて耐え難い物となってしまっても、おかしくは無い。
クエストをこなしているとは言っても駆け出しが受けているもので、その内容などは薬草集めや町の近くにいるモンスターの討伐、それらを日に何度も受る事で全員の生活は苦しいものでは無かったが、冒険者になり、有名になる、そうあの頃に思い描いた夢からはかけ離れたものだ。
「みんなあまり飲み過ぎないでね!」
「なんだよハミィ、もう寝ちまうのか?」
皆で一つのテーブルを囲んで座る中、立ち上がり店を出ようとする私に付き合いが悪いといたげな声がかかる。
「ごめんね、先に休ませてもらうね! 皆おやすみ!」
「あ、僕、送って……」
「ううん、大丈夫! まだ真っ暗になってないから一人でいいよ! 楽しんでね!」
手を振り、そのまま店を出てこの町に来てから泊まっている宿屋へと歩きながら、ちょっと悪いことしたなと考えていた。
しかし送ってもらう訳にはいかない、最近の彼等が私を見る目は仲間を見るものとは別に異性として、女として見ている用に感じていた、いや、実際にそう見られていた、それに視線だけではなく、飲んでいる時の接触の仕方が今までとは異なる用に感じとってしまっていた、それ以外にも理由はある。
皆の事は好きだけど、誰かと一人と付き合う気はその時はなかった、誰かとそういう関係になってしまうと四人で一緒に過ごせてる今の生活が壊れてしまいそうで怖かったのが一番の理由だけど、単純に誰かと付き合う気がないというのも理由かな。
トリーアの夜の町を一人で歩きながらこれから先の事も考えているが具体的な案が何か出るわけもなく、一日が過ぎて行こうとしている。
「ハ、ハミィ! ちょっとだけ……いいかな?」
手を後ろに回して組、真っ暗になる前の空を見ながら考え事をして歩く、そんな私の後ろからは聞きなれた声が聞こえて、自分の名前を呼ばれた事で振り返り。
「レイどうしたの? 何かあった?」
振り返った先には走って来たのか少し息を切らせて立っている彼が私を見つめていた。
「そ、その! 話たい事が……あるんだ」
「うん」
「ぼ、僕と付き合って欲しい!」
なんとなく察していた事ではあった、レイだけではなく、アレスとトウからも数日前、同じ内容を告げられていて、もしかするとレイも同じ気持ちなのかもと、考えていたからこそ送ってくれると言う言葉を断り、二人きりにならない用にしていたのだ。
「えっと、理由を聞かせてもらってもいい?」
「す……好きだから、ハミィの長くて綺麗な髪が、二重で大きい目が、小顔で綺麗な、き……君が好きだから!」
「そっか……レイ、私今は誰かと付き合う気はないの、今は四人で一緒にいられるこの時間を楽しみたい、だから……ごめんなさい」
「そ……うなんだ、わかった、今は待つよ! だからその気になったら教えて」
「わかった、その時がくればちゃんと考えるね」
「うん! そ、それじゃあおやすみ!」
勢いよく走り出した彼は、そのまま来た道を引き返して夜の町へと戻っていき、その後ろ姿を見えなくなるまで私は見続ける。
その後宿屋に戻り、割り当てられた殺風景な部屋に置かれているベットに寝転がりながら三人の事を考えていた、一番早く思いを伝えてくれたトウは俺のものになれといい、二番目のアレスは私が欲しいと言い切った、そして三番目、レイは好きだという気持ちを伝えてくれて、誰とも付き合わないと決めてはいるが、考えない様にするのはとてもではないが無理な事で、モンモンとした時間だけが過ぎていく。
「はぁ……」
滅多にしないため息は今の心情を現しているかの様に自然と出たもので、どうしてこうなったのかと思いを抱きながら体を丸める様に眠りについた。
翌日普段の待ち合わせ場所にしているギルドの中に入ると一枚の紙を持ちながら話し合う三人を見つける。
「おはよう、みんな何を見ているの?」
「よう! クエストだよ、次に受けるやつを見ていたんだ」
「おっす! ハミィが来るまで良いのがないか見てて良さそうなのを見つけたんだよ!」
「そうなんだ、どんなクエストなの?」
「ここから北に少し行った場所にあるダンジョンの探索だ、難しい所じゃないらしいから俺らでも行けるってよ!」
「そうなんだ、これからすぐに行く感じかな?」
「ああ、ハミィも来しこれから向かうぞ!」
「よっしゃ、任せとけ!」
自信満々にギルドから出ていく二人を見ながら本当にいつも元気だな~と感心してしまう。
「お、おはよう! あの! き、昨日の事なんだけど、僕、本気だから!」
「おはよう、うん……解ってるよ」
「そ、そっか、それじゃあ先に行くね!」
顔を真っ赤にしながら昨日の事に触れ、自分の気持ちを再び伝えたレイの後ろ姿を見送り、皆の後を追ってダンジョンに向かう。
ダンジョン間での道程は平和なものでモンスターに襲われる事もなく順調に進み、朝方町を出て昼前には目的の場所につく事ができた。
「ここがその場所か?」
「ああ、聞いた通りの場所だしあってるはずだぜ?」
「そうなんだ、クエストの内容は探索って聞いたけど具体的にはどうすればいいの?」
「か、簡単だよ、奥までい、行って、帰るだけ」
「え? それだけなの?」
「ああ、初心者用のダンジョンの奥まで行って帰ってくるだけ、ただそれだけだ」
「そうなんだ」
ダンジョンの探索と聞いていた事もあって、中で何かをするのか手に入れるのかと思っていたけど、そうではなく、ただ奥まで行って帰って報告する、あまりに簡単過ぎるのではないかとも思えてくる。
「それじゃ行こうぜ! さっさと終わらせて帰ろう!」
そう言いながらダンジョンと呼ばれる建物の中へと進み出したトウの後に続きアレス、レイが中へ入っていく。
「え!? 私が一番後ろなの!?」
一人遅れて入口に入る私の口からは隊列も組まずに入って行く皆への抗議の言葉が出ていた。
三人の後を追い、建物の中へ入った私の目には不気味で薄暗い中の様子が映っていて先に行く皆の後ろ姿が微かに見える。
「待ってよ、置いていかないで!」
見えなくなりそうな後ろ姿に声を掛けて走り寄るが、先を歩く皆は振り返る事もなく古めかしい建物の奥を進んで行く。
「しかし古い建物だな」
先頭を歩くトウが辺りの壁や床を見ながら進んで行くのだが、途中にある部屋などには目もくれず、真っ直ぐに奥だけを見据えている、ここがダンジョンだという事を考えれば安全の為に一つ一つ部屋を確認して行くべきだと思う。
「ねぇ、みんなちゃんと確認して進まない? 敵がいるかもしれないんだよ?」
「びくびくしてても仕方ないだろ? 出てきたら倒せば良いだけだ」
「そうだな、大丈夫だろ」
一度も立ち止まる事もなく、進んで行く彼等の後を付いていく事しか出来ず、せめて後ろだけでもと思い警戒をしておく。
「それにもう奥に着いたみたいだぜ」
通路を進んだ先に扉が開かれたままになっている部屋をトウが見つけ、中へと入る。
「結局何もなく奥に来ちまったな」
建物自体は大きい訳でもないのだが、ダンジョンという事も考えれば敵に会わないなんて事があり得るのだろうか?
「まぁ目的さえ達成出来れば問題ないだろ」
「そ、そうだね、僕もそう思うよ、で、でも……何もないね」
最深部と思われる部屋の中には瓦礫や朽ちた物が散乱しているだけで見た所何もなかった、ただ不気味な雰囲気だけが漂う用に部屋を支配している。
「でもこれでクエスト完了だ、さっさと帰ろうぜ!」
「そ、そうだね! 皆でかえ――」
『あら? もう帰ってしまうのかしら? せっかく来たのだし楽しんで行きなさいな』
不意に部屋の中に響き渡る様な幼い声が聞こえ、敵への警戒を怠っていた三人は武器を構えて部屋の中を見渡す。
「誰だ! 出てこい!!」
『出てこいと言われても、あなた達がこの部屋に入って来る前から私は居るし、今も目の前にいるのだけど……まぁ魔法で見えない様にしているから仕方ないかしらね、いいわ! 見えるようにして上げる』
そう声が聞こえた後、部屋の奥、私達の正面にあった朽ちた家具の上にうっすらと人の姿が表れ、徐々にその姿を現した。
燃える様な赤い髪に真っ黒な瞳にドレスを着た少女が座っていて、その少女の額には四本の黒く輝く角がその存在感を引き立てている。
「あんた何者なんだ!? 姿を消す魔法なんて聞いたこともないぞ! それに……その角は……」
「フフ……私の角を見てもまだ正体が解らないなんてね、上級と呼ばれている人達以外はこんなものかしら?」
「質問しているのはこっちだ! 答えろ!!」
少女の態度に腹を立てたのか、正面に立つトウは怒声を浴びせ、後ろに控えた私達はその状況を見守り続けた。
「はぁ……坊やにここまで偉そうな態度を取られると流石に私も苛立つわね、まぁいいわ、私は四の王、ルイータというの、これから死ぬあなた達に名乗っても仕方ないと思うけど、せめて名前ぐらいは覚えて逝きなさい」
誰もがおとぎ話で聞いた事のある十人の魔族の王達、その一人だという少女の言葉がどこか信じられず、呆然としてしまう、実際に見るのは初めてな上に、その容姿は伝わっていない、額に角があるという事以外は。
「王だと? あの昔話の王があんただっていうのか? 確かに角はあるがどう見ても子供にしか見えないぜ?」
「あなた、言ってはならない事を言ったわね、今すぐ惨たらしく死になさい」
ルイータと名乗ったその王は、赤い髪を揺らしながらただ右手を前に伸ばし、向かい合うトウへと向けてみせた。
「なんだ? 何もおきないぞ??」
武器を構えながら何が来てもいい様にと備えていたトウの表情からは、何もおきない事に対して拍子抜けした様子を表している、しかし変化は既に表れていた。
誰もが動かず、息ずかいだけが聞こえる部屋の中で別の雑音が混じりあうように微かに響き渡る、まるで水滴が地面に落ちる様な微かな音を頼りに発生源を辿っていくとトウの腕から滴り落ちる赤い液体が床をも赤く染め上げて行く。
「あ……あぁ……ぐあぁぁあ!!」
突然上がったトウの悲鳴、その原因である腕に目をやると右腕の手首から先が無くなり、切断された断面からはおびただしい血が吹き出して辺り一面に広がっていた。
「トウ!? 待ってて! 今ヒールをかけるから!」
最後尾からトウの元に駆け寄り、傷口を押さえて魔法を掛けていく、吹き出す血で真っ白だった服は赤く染め上がって行き、鉄の様な匂いが辺りに立ち込める。
「無駄よ、ヒールでは治せないわ、それにもう全部斬り終わってる」
後ろから聞こえてくる声の意味が解らず、構わず魔法を掛け続け、傷口からは出血が治まっていく、その状態に安堵し傷口の更なる治療の為に腕を掴もうとした時、掴もうとした腕が地面に落ちた。
意味が解らずトウの腕に目をやると、肘の部分には切断された痕があり、その傷は腕から体全体へと広がり、ボトボトと地面に落ちていく。
「な……にこれ!? どうなって……」
「言ったでしょ? もう全て切り終わってるって、つまりこういう事よ」
背後から指を鳴らす音が部屋に響き渡るとトウの体には無数の傷が表れ、血を撒き散らしながら地面に崩れ去っていき、ぶつ切りにされた肉の塊へと変わり果ててしまう。
「……いや、いやぁぁぁ!!」
「な、な、なんだよこれ!?」
「ひ……ぁぁあああ!!!」
「逃がさないわよ」
立ち尽くすアレスの後ろで悲鳴を上げながら逃げ出したレイは部屋の出口に差し掛かった所で動きを止め、自らの喉を掻きむしり、口から血を吐きながら苦しみの表情で地面に倒れ付した。
「そ……んな……」
「言ったでしょ? 逃がさないって」
「くっそがぁぁぁ!!」
怒声を上げながら持っていた剣を振りかぶり、座ったままのルイータへと斬りかかったアレスの攻撃は届く事がなく、手前で見えない壁に当たったかの様に弾かれ、反動で手から出血し、血を滴らせる。
「何なんだよこれは!? 何で当たらねぇんだよ!!」
「フフ……それを教えてあげるほど私は優しくはないわよ? さぁ、貴方も二人の所に逝きなさい」
人差し指をアレスに向け、聞き取れない程の小さな声で何かを呟いて、笑みを浮かべながら再び指を鳴らすと、アレスの体は出血した手から徐々に塵となって崩れて行き、声を発する事もなく全身が崩れ去っていった。
「あ……あぁ……」
「いいわ、いいわよあなた! その絶望に染まった瞳、ゾクゾクするわ! さぁ、次は貴方の順番なんだけど、幸か不幸か、私もここに来る前の戦闘で魔力を使いすぎちゃってね、これ以上使うと追手が来た場合逃げれなくなっちゃうの、あの青い鎧のタンク、本当面倒なやつだわ、まぁそういう事だから、貴女にはこれを上げるわ」
座り込み、愕然とする私に向かって手の中に作り出した漆黒の球体を投げこみ、体に触れるのを見届けた後、速足で部屋を出て何処かへと行ってしまった。
そうしている間にも漆黒の球体は触れた場所から体の内部へ侵入し、強い動悸が体を襲い始め、同時に体の内側から臓物を掻き回されている様な痛みが全身を支配しいく。
「あぁぁ……ぐ、あぁぁぁあ!!」
たまらず叫び声を上げ、体が引き裂かれていくような痛みを自分自身の腕で体を抱きしめながら必死に耐え、いつ終わるかも解らないこの状態に涙を流してふと気づいたのは自分の体の異変だった。
顔は内側から蠢き形を変え、人並みぐらいにあった胸は萎んでいき、股からは感じた事もない違和感が生まれ、別の何かへと変わってしまう恐怖と痛みから私はそこで意識を手放してしまう。
そして次に目を覚ました時、私はどこかのベットの上で横になっていて、事後処理も含めて全てが終わった……四日後だった。
ベットの上で呆然とする私にギルドの職員が告げたのは、王を追って来た冒険者が私を見つけて町に連れ帰り、事態の報告をしてくれた事と仲間の遺体はレイ以外回収する事が出来なかった事、そして埋葬も町の東の墓地にされたという事後報告。
それと、私の……体の事。
私の体は呪いにより性別が変化してる上に服装は女物しか着れないというよく解らない状態になっていて、この事は前例が有り、同じ症状だという事で判明したが、前例者であるその人はその後精神的に耐えきれなくなり自ら命を絶ったようだ。
聞かされた話をどこか他人事の様に感じながらも変わっしまった自分の体に触れて愕然とし、ただただ泣き続ける、そんな日々を繰り返して涙も枯れた後、三人の眠る墓地に赴いた。
無数にある墓石の中からたった一つを探し出すにはそれなりの時間がかかるかもしれないと思っていたが意外と早く見つける事が出来てしまう、その理由としては真新しいと言うのもあるが、墓地の隅の方で日の当たる場所にあったのも理由かもしれない。
彼らが眠る墓石の前で膝を付き、そこに刻まれている名前にそっと指を触れさせてなぞって行く。
不思議なものであれだけ泣いて涸れ果てたと思っていた涙が自然と溢れて視界を歪めて行き、頬を伝い地面を濡らしていた。
「一緒だって……言ったのに……ずっと一緒だって! 言ったじゃない!! 何でよ、私を置いて行かないでよ!」
理不尽にも思える怒りを口にしながらも、自分自身での頭では分かってはいた、あれはどうしようもなかったと、自分達に力がなかった事もあるがそれ以上にあれほどの存在に出くわすなんて思いもしていなかったのだから。
しかしそれでもと抱え込む思いは途切れる事はない。
「嫌だよ……こんなの、私一人でどうしたらいいの? 今のこんな私が、どうすれば……いいの……」
触れさせていた手を少し移動させて両手で墓石を抱きしめながら、泣き続けた。
その後はただ何もせずに一日が終わって行く、そんな生活をしていたが当然だけどその間にもお金は減って行く、生きて行く為にはクエストを受けて稼がなければ生活も出来ない、いっそ村に戻ろうかとも考えたが今の自分が戻った所で迷惑になるだけだ、呪いを受けた事が理由で家族まで被害が及んでしまう事を考えると戻るわけにはいかない、それならせめて人と会わない様にと混雑する時間をさけてギルドへ行き、クエストをこなして宿の部屋へと戻って行き、そして薄暗い部屋の中で一人膝を抱えて閉じこもる。
「誰か……助けてよ……お願いだから……私を一人にしないで……一人は耐えられない……」
誰にも聞こえない様に、しかし誰かに聞こえて欲しいという思いを静かに口にして……涙が頬を濡らしていた。




