股パンパン
職人通りに店を構えるカマウリさんが言っていた、文字を刻まれた武器を3つ造り、二つは俺と同じ初心者冒険者に売ったと、すぐに会えるかもな~なんて言っていたけど、二人組とだけしか聞いていなかったし、会うことになるとは考えていなかった。
トリーアの人口は3千人ほどだがその中の冒険者の数なんて考えるとかなりの人数になるだろう、さらにその中から文字を刻まれた武器を持つ二人を探すなんてどれだけの時間がかかることか。
そんな事をしているならクエストを受け、稼ぎに行く方がいい、普通はこう思うだろう、そしてそれは俺も同じだ。だが現実は少し違ったようだ、なにせこうやって俺達は出会ったのだから。
「それでどうかな? 一緒にクエストうけてみない?」
武器に視線を向けたままだった俺はカッチェの声を聴き、そういえばそんな話の最中だったなと顔を上げ二人を見る。
二人の視線はまっすぐに俺だけを見ていて、剣しかもっていない俺を必要としてくれているようだ。
本来であれば壁役としての役割を果たすのがタンクであり、その役割の為の防具なども揃えてこそ需要が出て来る、しかし今の自分にはこの剣以外なにもない、それなのにそう言ってくれた二人の言葉が嬉しくてたまらない。
「ありがとう、それじゃぁお言葉に甘えさせてもらうよ、これからよろしく!」
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その後俺達はクエストを張り出している場所に移動し三人でどれを受けるか話し合っていた、人数が増えた事はいいのだが、それゆえの問題も出てきてしまうのだ。
「ねぇ、提案があるんだけどいいかな?」
「ん? どうしたカッチェ?」
「私達って駆け出しでしょ、だから今から受けるクエストも無理はしないで達成できそうな物に限定したいの、怪我だけで済めばいいけどもっと大変な事になる事を考えたら初めのうちは安全に行きたいなって思って~」
「そうだな、それじゃぁその条件で探してみよう」
とは言ったもののしかしどれを選ぶ? となった時考えなければならないのが報酬だ、今までは報酬がすべて自分に入ってきていたが、今度は当然だが三人で分けるのだ、それを考えると安すぎるものは受けれない、どうしようかと俺の右側にいるカッチェと唸りながら考えていると、カッチェの右側、俺の反対側にいたマジェは、おお!と手を叩きながら何かを思いついたようだ。その様子に俺とカッチェは視線を向け聞いてみる。
「ん? マジェどうかしたの? 何か思いついたみたいだけど?」
隣にいたカッチェがマジェの顔を覗き込みながら尋ねている。
「つまりクエストを受けて金も稼げる手段があればいいんだろ? ならクエスト対象以外のモンスターの素材とかを買い取ってもらえないか聞いてみるのは?」
ん~どうだろう? してくれるのかな? などと考えていると、俺達の後ろから「できますよ?」と答えが返ってきた。
自分達以外の所から答えが返ってくるとは思っていなかった俺達は驚きながら振り返ると、そこにはいつの間にかラミアスさんが立っていた、おそらく俺たちの事を気にかけてくれていたのか受付での仕事を終えてから様子を見に来てくれたようだな。
ラミアスさんが言うにはモンスターの討伐証明で持ち帰ってくるものは色々な物の素材として使われる物で、クエスト報酬として冒険者に支払われるお金はギルドが各方面への素材の販売をし、手数料などが差し引かれた額を先に冒険者へと渡しているということだった。
ならクエストなんて受けずにモンスターを狩り続けて素材売ればいいんじゃないの?と疑問が出てくるが、そうはいかないようで、ギルドはクエストを受けた状態でなら他のモンスターの素材の買い取りはするが、受けていない状態での買い取りはしないらしい。
クエストを受けてくれることはギルドへの貢献を表していることであるため、余分な物の買い取りもするが、受けずに素材だけを持って来ても、ギルドが必要としている素材はクエストに出しているし、そんな物頼んでません! とほとんどすることはないらしい、そう説明してくれたラミアスさんに俺達はありがとうございましたとお礼をいい、再度クエストを見て選ぶことにする。
でもあの人いつのまに俺たちの後ろにいたんだろうな……とマジェの言葉を聞き後ろをチラ見するとラミアスさんはもう受付の仕事をするためにカウンターに戻っていた。
あの人実は凄い人なんじゃないかという俺の視線にも気づいていそうな予感がし、俺はクエストへと視線を戻すと、その間にマジェがもうこれでいいんじゃね? とクエストを選んでいたので、それを受け俺達は初めてのパーティー戦をするために外へと移動を開始する。
そしてトリーアから南へ少し進んだ先に俺達は来ていた、道中雑談をしながら来た道は何度も通った道で、日があるうちはモンスターも襲ってこない為、ほとんど警戒もすることなく進み、マジェが適当に選んだクエストであるコーン3匹の討伐をこなす為だ。
ハニービーの時に見た二足歩行で歩くコーンは名前はそのままだったらしく名前を言われてすぐに気づくことが出来た。今回の目的はクエスト対象のコーンを倒しながら近くにいるモンスターを倒し素材を持ち帰ること、対象がいると思われる場所につき、自然と三人が横に並びながら止まり、辺りを見渡すとそこはモンスターだらけの場所だった、コーンはもちろんだが、ハニービーやフラワーと呼ばれる奴などがそこもかしこもウロチョロとしている場所で、町から少ししか離れていないはずなのに全く別のどこかに来た様な気にさせられる。
「めっちゃいるじゃん……」
呆ける俺をよそに隣にいるマジェとカッチェは特に驚いた様すもなくあたりを見ていた、キュウ30匹に追いかけられる経験をした二人には免疫でもできているのだろうか?
「さて、そんじゃやるか!」「そだね、やってみよう!」と俺がそんな事を考えている間に二人はもう戦闘準備に入っていく、遅れないように剣を抜いた俺の様子を二人が確認すると、マジェが弓を構え一匹だけでうろついているコーンへと狙いを付ける。
マジェが今にも矢を射ろうとしている状況で俺はふと疑問に思ったことに頭を悩ませていた。
コーンの見た目は中のツブが人でいう腰辺りまで見えていて、剥けた皮が長細く丸まりまるで腕の様になりプラプラと揺らしながら動いているのだが、あれ………どうやって倒すんだ……?
俺がそんな事を考えているとマジェは限界まで引っ張った弓の弦を離し矢を飛ばす。
狙いは精確でコーンに向かって飛んでいき、数あるツブの一つに突き刺さった。
(え、なに? 弱点そこなの?) と思いながらコーンを見ていると、ゆっくりと歩みを止め、立ち止まり、そして体ごとこちらに向きを変えると……すごい勢いでこっちに走って来る!
その様を見て慌てて二射目をマジェが放つとまたツブに突き刺さるがコーンの勢いは止まることがなく、俺達との距離が縮んでくる。
なんだこれ!? と思いながらも抜いていた剣で俺はコーンに斬りかかる、とはいえ正面からは走って来る勢いで吹っ飛ばされると考え、体を横にずらしすれ違う様にして斬る。
いいことなのか悪いことなのかはわからないが俺の攻撃は体についていたツブをいくつかまとめて切り裂いた様で、コーンは走っていた勢いを殺し、狙いをマジェから俺へと移してきた。剣を構え攻撃に備えると少し離れた所から「コーーウ!」とカッチェの声が聞こえ何かあったのかとそちらを見ると。
足を肩幅まで広げたカッチェが自分の股をパンパンと叩いていた。
「なにしてんだあいつ……」
俺では意味が分からないし付き合いの長そうなマジェの方なら何かわかるのかとそちらを見ると、口を開け呆然としているマジェが見えた。マジェでもわからなかったらしい……。
カッチェの突然の意味不明な行動に気を取られていた俺だがすぐ隣に気配を感じ、今度はそっちを見るとコーンが細長く丸めた腕のようなものを俺の顔面へと振り抜く瞬間だった、そのまま避けることなんて出来なかった俺はコーンの右を食らい尻もちをついてしまった、ダメージ事態は皮を細長くしたものだったのでほぼなかったのだが勢いはかなりあったようだ。
「ブッハ!!」
尻もちをつき唸っていると割と近くから声が聞こえて来たので見ると、マジェがコーンにアッパーを食らっていた。
あれは痛そうだな、などと他人事のような目で見ていた俺にコーンはまた狙いをつけすぐ隣にまで戻ってきた、まだ尻もちをついた体制の俺にコーンは右を高く上げそのまま降り降ろそうとしている。
流石にそれは痛いだろう!と思い立ち上がろうとするがコーンの方が速く、上げていた腕を振り降ろした。
プニっとした感触だったが上からの振り抜きの勢いはすさまじく、そのまま地面に倒されてしまい身動きが取れない、しかし俺をさらに殴ろうと左を上げていたコーンは左を振り抜く事はなく、そのまま横倒しになり動かなくなってしまう。
何があったんだと見ると、コーンが立っていた位置にいつのまにかカッチェがしゃがみ込み、ピースをしている姿が目に映る。
「大丈夫~?」
「あ、うん、大丈夫だよ! 助けてくれたんでしょ? ありがとう!」
しかしいったいどうやって倒してのだろう? 傍にカッチェがいたから多分倒してくれたんだと思うけどその方法が解らないない、俺やマジェの攻撃は致命傷には程遠い様に動き回っていたコーンをいったいどうやって……。
そう考えた疑問の答えは取り合えずカッチェが何をしたのかを見ればわかる事だと倒れたままの状態で放置されているコーンに目を向けると、コーンは体の股の部分、人でいう股間部分をめった刺しにされ、その凶器であろうダガーが刺さったまま倒れている姿があったのだ。




