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あの日から三日はあっという間だった、ハシブトのことを何とかしたい。
あの夢の続きを見たくても、いつも同じところで途切れてしまう。
もどかしい僕は不安といら立ちが募っていた。
でも、どうすることもできなかった。
その日からハシブトの部屋に行っては、カラスにならないように常に見張っていた。
いつどこでカラスになっても後悔しないように僕は常に彼女のそばにいた。
部屋でうたたねして、眠っていしまっても彼女が人間でいるとホッとしていた。
そんな寝不足な僕は、部室に来ていた。
僕にとってこの部活は、最後の砦。
そして手狭な部室に、ハシブト以外で代わりに美野里が入った四人が集まっていた。
「で、喜久。ハシブトさんは本当にカラスなんだな?」
「うん……騙すようでごめん」
僕は全てを話した。
ハシブトがカラスであることも。
それからハシブトがカラスに近々戻ることも。
目が赤くなっていることも。
「ハシブトさんが、カラスだなんて俺は信じられないぞ」
「僕だって……そうだよ。でも事実なんだ」
安志は納得できないけれど、美野里が説得してくれた。
「そうか、だから少し生臭い匂いがしたんだな」
「そういえばそんなのありましたね」
部長の指摘に僕は苦笑いしていた。そして早速議題にうつることにした。
「ハシブトは、近いうちにカラスに戻るんだ。なんとかしたい」
「でも……どうする?」
安志は難しい顔を見せていた。考え込んで腕を組んでいた。
「どうするって……」
「お前はハシブトさんのことが好きなんだろ」
「うん、まあ好きだけど……フラれて」
「なんで諦めるんだ?」
すると僕に詰め寄ったのが安志だ。僕は安志の反応に困惑していた。
「でも安志は……」
「俺は諦めたさ、でもお前は諦める必要はない。おまえの初恋の相手だろ」
「まあ、そうだけど……」
「だったら俺は協力する、部長もだろ」
「ああ、だけどどうすればいいんだ?ハシブトさんが本当に呪術でカラスから人に変わっているなら……」
「部長!」
安志が叫んだが、部長は落ち着いていた。
「これはどうにもならない、そんな気がするんだ」
「そんな部長……」
「でも、呪術の心得とかあるのか?」
「それは……ない」
僕はつぶやくしかなかった。
始めて見たのが脇坂先生に使ったあの呪術。
だから、僕は呪術なんてそんな魔法みたいなことは知らない。
ハシブトが孤独を癒せたのは呪術のせいであるのも分かっていた。
そんな時、意外な人物が口を開いた。
「あたし、呪術使えるわよ」美野里だ。
「美野里?」
「あたしは使えるの。呪術、ハシブトさんのためなら」
いきなり言ってきた美野里は、僕が呼んでいた。美野里の顔がこわばって赤い。
「どういうことだよ?」
「呪術って、人を惑わせるんでしょ。快楽の夢を見せるんでしょ。
だったら、ハシブトさんに快楽を、夢を見せてあげよ」
「何言っているんだよ、いきなり。ハシブトさんの夢って……」
「ハシブトさんは孤独になりたくないんだと思う」
美野里の鋭い指摘に、僕たち三人はざわめいた。
「ハシブトが孤独?」
「ハシブトさんは兄さんが孤独になるのを心配していたんでしょ。
それって、ハシブトさんの事でもあると思うの。
もし、ハシブトさんがカラスに戻ったらきっと孤独だよ。
ずっと人間でカラスの知り合いとかもいないんじゃないかって……」
「そうか、そうだったんだ!」
僕はいきり立っていた。そこには気づかなかった。
気づかなかった自分を責めていた。
でも責めてもしょうがない、できることはない。ならば、
「ありがとう美野里、ありがとうみんな!」
そう言いながら僕は駈け出していた。
安志が立ち上がろうとしたけれど、すぐに部長が制してくれた。
「ああ、行け。俺たちはお前を支持する」
部長の言葉が僕の背中を押してくれた。




