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あれから三日が過ぎて、いつも通りの教室が戻ってきた。
二月最後の日の教室は今日も寒い。
学校のインフルエンザも終結して、空席のない今日はいつも通りに授業が行われていた。
いつもどおり脇坂が淡々と授業を行っていた。
僕とハシブトは授業を終えて部活も終えて、いつも通り帰ることにした。
夕方、コートを着て寒そうにする僕は手を温めていた。
ハシブトもまた幾重にも防寒具に身をまとい、寒さに耐えて歩いて帰っていた。
こういう時ほど、バス通学が羨ましいと思えた。
僕とハシブトは、帰り道の高級住宅街に来ていた。
「本当に冷えるな……今日」
「うむ、朝は雪が降っていたからな」
「うわ~、本当に?」
ハシブトの見上げた空はどんよりと曇っていた。
いつ雨や雪が降ってもおかしくない空模様。
「でも、もう今日は二月最後だし、少しずつ春を感じられる季節だな」
「そうだな、彼にも春が来た」
ハシブトの言う彼は、脇坂先生のことだ。
ハシブトに癒された後、脇坂先生は全てを受け入れることにした。
娘の死、ひき逃げ事故、自分が一人になったこと、孤独。
最後の家族を失って、葬式もようやく執り行った。
死んだという事実を受け入れることで、脇坂先生の前の景色も明るくなったと言いたいのだろう。
だけど僕は未だにどうしても釈然としなかった。
「ハシブトが癒した孤独で、先生は助かった。
死を受け入れることで、前に進める。先生は元に戻った……」
「そうだな、癒すことができた」
「それでも、ハシブトがやっていたことは洗脳じゃないのか?」
僕は、立ち止まって険しい顔を見せた。
「あの力か、幻覚を見せて彼に孤独の恐怖を知らせる事か」
「洗脳して癒すのは、癒しじゃない!単なる、押しつけだ!」
「そうだろう。だけどこのままいけば、喜久よ」
「ハシブトは『孤独を癒すカラス』なんだろ」
「わしには、本来そんな力がない。そうありたいと願う希望だけしかない」
落ち込んだハシブトは、ため息をついた。
疲れた表情で、そばにある枯れ木を見ては咳き込んでいた。
「じゃあ、なんでみんな、ハシブトに癒されるんだ?
美野里も、生徒会長も、僕も安志も?ハシブトの胸に飛び込んで、心が落ち着いて……」
「所詮はまやかしだ。結局私は騙しているだけなのだ」
「騙している?」
「それも呪術。呪術とはそういうものだ。わしは所詮カラスということだ。
カラスという生き物は、頭がよく狡猾だ。騙すのさえ、なんとも思わぬ」
「なんだよ、それ……」
悪態をつく僕はハシブトから目を逸らした。
見られなかった、ハシブトに騙されていることを信じたくなかった。
「じゃあ、僕にチョコを渡したのも、雪山で探したのも騙しているのか?」
「それは……」
ハシブトから言葉が途切れた、次の瞬間僕の肩に重いものが寄りかかってきた。
「ハシブト?」
「どうやら、インフルエンザだ……」
ハシブトは顔が少しだけ赤くなっていた。
声も急に弱弱しくなっていた。僕に寄りかかったハシブトは、激しい呼吸をしていた。
「い、インフルエンザは一回かかると面識出来るんだぞ!」
「そうか、なら……違うな」
無理矢理笑顔を作ろうとしたハシブトだけど、そのまま目を閉じていた。
力が抜けたハシブトを、僕はまた受け止めた。
僕は、いきなり気を失ったハシブトを抱きかかえて心配になっていた。
それは、何かとても嫌な予感がしたからだ。




