表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
五話:ツグミの夏声
49/60

49

あれから三日が過ぎて、いつも通りの教室が戻ってきた。

二月最後の日の教室は今日も寒い。

学校のインフルエンザも終結して、空席のない今日はいつも通りに授業が行われていた。

いつもどおり脇坂が淡々と授業を行っていた。


僕とハシブトは授業を終えて部活も終えて、いつも通り帰ることにした。

夕方、コートを着て寒そうにする僕は手を温めていた。

ハシブトもまた幾重にも防寒具に身をまとい、寒さに耐えて歩いて帰っていた。

こういう時ほど、バス通学が羨ましいと思えた。

僕とハシブトは、帰り道の高級住宅街に来ていた。


「本当に冷えるな……今日」

「うむ、朝は雪が降っていたからな」

「うわ~、本当に?」

ハシブトの見上げた空はどんよりと曇っていた。

いつ雨や雪が降ってもおかしくない空模様。


「でも、もう今日は二月最後だし、少しずつ春を感じられる季節だな」

「そうだな、彼にも春が来た」


ハシブトの言う彼は、脇坂先生のことだ。

ハシブトに癒された後、脇坂先生は全てを受け入れることにした。

娘の死、ひき逃げ事故、自分が一人になったこと、孤独。

最後の家族を失って、葬式もようやく執り行った。

死んだという事実を受け入れることで、脇坂先生の前の景色も明るくなったと言いたいのだろう。

だけど僕は未だにどうしても釈然としなかった。


「ハシブトが癒した孤独で、先生は助かった。

死を受け入れることで、前に進める。先生は元に戻った……」

「そうだな、癒すことができた」

「それでも、ハシブトがやっていたことは洗脳じゃないのか?」

僕は、立ち止まって険しい顔を見せた。


「あの力か、幻覚を見せて彼に孤独の恐怖を知らせる事か」

「洗脳して癒すのは、癒しじゃない!単なる、押しつけだ!」

「そうだろう。だけどこのままいけば、喜久よ」

「ハシブトは『孤独を癒すカラス』なんだろ」

「わしには、本来そんな力がない。そうありたいと願う希望だけしかない」


落ち込んだハシブトは、ため息をついた。

疲れた表情で、そばにある枯れ木を見ては咳き込んでいた。


「じゃあ、なんでみんな、ハシブトに癒されるんだ?

美野里も、生徒会長も、僕も安志も?ハシブトの胸に飛び込んで、心が落ち着いて……」

「所詮はまやかしだ。結局私は騙しているだけなのだ」

「騙している?」

「それも呪術。呪術とはそういうものだ。わしは所詮カラスということだ。

カラスという生き物は、頭がよく狡猾だ。騙すのさえ、なんとも思わぬ」

「なんだよ、それ……」

悪態をつく僕はハシブトから目を逸らした。

見られなかった、ハシブトに騙されていることを信じたくなかった。


「じゃあ、僕にチョコを渡したのも、雪山で探したのも騙しているのか?」

「それは……」

ハシブトから言葉が途切れた、次の瞬間僕の肩に重いものが寄りかかってきた。


「ハシブト?」

「どうやら、インフルエンザだ……」

ハシブトは顔が少しだけ赤くなっていた。

声も急に弱弱しくなっていた。僕に寄りかかったハシブトは、激しい呼吸をしていた。


「い、インフルエンザは一回かかると面識出来るんだぞ!」

「そうか、なら……違うな」

無理矢理笑顔を作ろうとしたハシブトだけど、そのまま目を閉じていた。

力が抜けたハシブトを、僕はまた受け止めた。

僕は、いきなり気を失ったハシブトを抱きかかえて心配になっていた。

それは、何かとても嫌な予感がしたからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ