↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
五話:ツグミの夏声
PR
48/60

48

煙に包まれた教室は、あっという間に晴れていた。

晴れた教室、そこには僕とハシブトが起きていた。

机に座った脇坂は眠っていて、僕のそばの安志もまた眠っていた。

目をこすった僕は、前に立つハシブトを見ていた。


赤い目をしたハシブトは、持っていた数珠を落としていた。

煙を出していたキャットフードの中身は、燃えカスが黒く残っていた。

僕は、ハシブトに近づいていた。顔を強張らせながら。


「どういうことだ、何をしたんだ?」

「『呪術』だ。安心しろ、かけた相手は脇坂だけだ。安志は、ただ眠っているだけにすぎん」

呪術という言葉に、僕は聞き覚えがあった。

ハシブトとイエイヌができたきっかけの呪術、詳しい類は分からないが魔法のようなものらしい。


「わしはとても酷いことをした」

「なんだよ……それ?」

「今、脇坂先生が見ている夢は悪夢だ。この呪術は、死をリアルに投影した悪夢を見せるものだ。

脇坂は、死というものを感じているのだろう」

赤い目のハシブトが言うとおり、顔を歪めて苦しそうな顔をしていた脇坂。


「なんで、そんなことを?」

「脇坂先生は死を受け入れていない」

ハシブトは唇をかみしめて、眠っている脇坂を見ていた。


「あんなに言っていて、脇坂の孤独を癒せないで……こんな手段を使って……」

「死を受け入れるには、一つしかない。死を感じてもらうのだ、強い悲しみを消すには恐怖だ」

ハシブトの言葉に、僕は矛盾を覚えた。

そのための悪夢の幻影、僕は到底理解できなかった。


「どうしてそんなことを?」

「わしの話は、聞いてもらえぬならば、最終手段だ」

「それって……」

「わしにはこれしかないんだ。どうしても、救わないといけない。

でなければ、選ぶ道は一つしかないのだ」

ハシブトは、落ち込んだ顔で見ていた。

その一方で、脇坂先生の恐怖におののく声が聞こえてきた。


「そんな……自分の力不足を、悪夢で何とかしようというのかよ!」

「そうだ!最後の選択だ」

「ハシブトは、もっと僕みたいに向き合ってくれると思っていたのに……」

「そうなのだ、わしは狡猾で愚かなカラスだ」

ハシブトはふいに僕に抱きついてきた。弱弱しく、か弱いハシブトは震えていた。

顔を僕の胸に押しつけて、泣いていた。

まるで僕が逆にハシブトを癒しているみたいじゃないか。


「なんだよ、ハシブト、泣き落としか?」

「わしに、そのような感情はない」

「じゃあ、なんだよ。あんまり弱そうにするなよ」

「喜久……ごめん」ハシブトは、初めて謝った。


「でも、どうしても救いたかったのだ。

時代で理不尽に殺された娘、その父の孤独を。

急に家族を失うということは、とてつもなく辛いものなのだ」

「……あっ」


僕にも思い当たる節があった、家族を失うこと。

まるで僕の家にも当てはまるじゃないか。

大事な家族が離れ離れになって、孤独になって、それを癒す方法なんてないんだということ。

本人と時間だけが解決してくれること、それができなければ人は愚かなことをすること。

あるべき周りを敬遠したり、憎んだり、逃げようとしたり。


「ん、ん……」そんな時、脇坂先生は怖い夢から目を覚ましていた。

うつろな脇坂先生は、ぼんやりと僕たちを見ていた。


「起きたようだな」

そして起きた脇坂先生は、ハシブトを見ていた。

泣き出しそうで体が震えていた。


「私は……」

「気づいたか、人は生きるときも死ぬ時も孤独なのだ。

わしは、そのことを伝えかったのだ」

「そうか、そうだったのか」

脇坂先生は、ハシブトに近づいてきた。

そして両手を広げたハシブトの胸に脇坂が収まった。


抱きしめたハシブトは、優しく脇坂先生をなだめていた。

僕はそれでも釈然とはしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。