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煙に包まれた教室は、あっという間に晴れていた。
晴れた教室、そこには僕とハシブトが起きていた。
机に座った脇坂は眠っていて、僕のそばの安志もまた眠っていた。
目をこすった僕は、前に立つハシブトを見ていた。
赤い目をしたハシブトは、持っていた数珠を落としていた。
煙を出していたキャットフードの中身は、燃えカスが黒く残っていた。
僕は、ハシブトに近づいていた。顔を強張らせながら。
「どういうことだ、何をしたんだ?」
「『呪術』だ。安心しろ、かけた相手は脇坂だけだ。安志は、ただ眠っているだけにすぎん」
呪術という言葉に、僕は聞き覚えがあった。
ハシブトとイエイヌができたきっかけの呪術、詳しい類は分からないが魔法のようなものらしい。
「わしはとても酷いことをした」
「なんだよ……それ?」
「今、脇坂先生が見ている夢は悪夢だ。この呪術は、死をリアルに投影した悪夢を見せるものだ。
脇坂は、死というものを感じているのだろう」
赤い目のハシブトが言うとおり、顔を歪めて苦しそうな顔をしていた脇坂。
「なんで、そんなことを?」
「脇坂先生は死を受け入れていない」
ハシブトは唇をかみしめて、眠っている脇坂を見ていた。
「あんなに言っていて、脇坂の孤独を癒せないで……こんな手段を使って……」
「死を受け入れるには、一つしかない。死を感じてもらうのだ、強い悲しみを消すには恐怖だ」
ハシブトの言葉に、僕は矛盾を覚えた。
そのための悪夢の幻影、僕は到底理解できなかった。
「どうしてそんなことを?」
「わしの話は、聞いてもらえぬならば、最終手段だ」
「それって……」
「わしにはこれしかないんだ。どうしても、救わないといけない。
でなければ、選ぶ道は一つしかないのだ」
ハシブトは、落ち込んだ顔で見ていた。
その一方で、脇坂先生の恐怖におののく声が聞こえてきた。
「そんな……自分の力不足を、悪夢で何とかしようというのかよ!」
「そうだ!最後の選択だ」
「ハシブトは、もっと僕みたいに向き合ってくれると思っていたのに……」
「そうなのだ、わしは狡猾で愚かなカラスだ」
ハシブトはふいに僕に抱きついてきた。弱弱しく、か弱いハシブトは震えていた。
顔を僕の胸に押しつけて、泣いていた。
まるで僕が逆にハシブトを癒しているみたいじゃないか。
「なんだよ、ハシブト、泣き落としか?」
「わしに、そのような感情はない」
「じゃあ、なんだよ。あんまり弱そうにするなよ」
「喜久……ごめん」ハシブトは、初めて謝った。
「でも、どうしても救いたかったのだ。
時代で理不尽に殺された娘、その父の孤独を。
急に家族を失うということは、とてつもなく辛いものなのだ」
「……あっ」
僕にも思い当たる節があった、家族を失うこと。
まるで僕の家にも当てはまるじゃないか。
大事な家族が離れ離れになって、孤独になって、それを癒す方法なんてないんだということ。
本人と時間だけが解決してくれること、それができなければ人は愚かなことをすること。
あるべき周りを敬遠したり、憎んだり、逃げようとしたり。
「ん、ん……」そんな時、脇坂先生は怖い夢から目を覚ましていた。
うつろな脇坂先生は、ぼんやりと僕たちを見ていた。
「起きたようだな」
そして起きた脇坂先生は、ハシブトを見ていた。
泣き出しそうで体が震えていた。
「私は……」
「気づいたか、人は生きるときも死ぬ時も孤独なのだ。
わしは、そのことを伝えかったのだ」
「そうか、そうだったのか」
脇坂先生は、ハシブトに近づいてきた。
そして両手を広げたハシブトの胸に脇坂が収まった。
抱きしめたハシブトは、優しく脇坂先生をなだめていた。
僕はそれでも釈然とはしなかった。




