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孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
四話:カワセミの里
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一人で僕は、お風呂に入っていた。

湯気立つ湯船で、体を疲らせた僕はいろいろ考えていた。

いろいろ起きたことを整理するには、一人になれる風呂が一番だ。

僕は家の中で最もここが落ち着く。


放課後に生徒会長、いや嵯毅に告白された。

安志がハシブトを告白した。本当にハシブトは、安志の孤独だけを癒しただけ。

結局ハシブトは、安志に想いを伝えなかった。


嵯毅は、なんで僕を好きになったのだろう。

ハシブトは、何故あそこで逃げたのだろう。

そして、部屋の机に置かれたいびつなハートのチョコレート。

それは、僕への気持ちなんだ。


いろいろな感情が現れて、僕は戸惑っていた。

(僕は、ハシブトの何を知っているのだ?ハシブトは何者なんだ?)

風呂から上がって、僕は浴室を出たときにバスタオル姿のハシブトが立っていた。

つややかな肌のハシブトは、ちょっとだけ顔が赤い。

おっとりした目で、僕を見てきた。

なぜか僕は恥ずかしくなってすぐさま風呂場に逃げ込んだ。


「は、ハシブト?」

「喜久……すまないことをした」

風呂のドア越しにハシブトは、僕に素直に謝っていた。

背中越しに僕はハシブトに言っていた。うつむいた僕の裸は、水がしたたり落ちていた。

のぼせたのもあって、顔はすぐに赤くなっているし。


「喜久は、安志のことを知っていたのか?」

「知らなかった。安志があんな奴だなんて、アイツとちゃんと話さないから」

「人は、知らない世界を持つ。だから魅力的なのだろうな」

ハシブトの言葉に、僕は頷いていた。


「知らない世界……か」

「そうだ、わしも喜久のことをもっと知りたいのだ」

「だから、あのチョコレートか?」

「喜久には、最後の最後に渡したかったのだ。だがうまく渡せなかった」

僕の部屋には、置かれていたいびつなハートのチョコレート。それはとても、不恰好なものだった。

だけど、ハシブトの努力の成果がにじみ出ていた。


「そうまでしてなぜ、ハシブトは孤独を癒したいんだ?」

「わしは、そういう孤独な人を出さないようにする役目を担っているのだ」

「ちゃんと話してくれよ。僕は、ハシブトのことをよくわからない」

自分の持っていた疑問を、ハシブトにストレートにぶつけた。


「そうだな、わしはそれを話していいか考えていたのだ」

「ならば、話してくれよ。僕は……」

「今日までは、それを話すことを怖いと思わなかった。

だが亜美姉さんを見て、わしも考え直すことにした」

背を向けたままのハシブトの声は、少し震えていた。


「亜美姉さんか……いい人だったんだろうな」

「そうだな、安志は亜美姉さんのアレが見えたのだろう」

「アレって?」

「アレじゃよ」

「なんだよ、分からないよ」僕はなんだかはぐらかされた気分で、むすっとした。


「喜久も、すでに体験しておるぞ」

「そっか、なんかいい事なんだな」

「いい事ではないかもしれぬな、だが必要なものだ。生きていくのにはな」

うつむいたハシブトの顔が、脱衣所のガラス戸からぼんやりシルエットで見えた。

そのあとハシブトは、奥の方に二歩ほど歩いていた。


「そんなことより喜久よ、わしのチョコを食べるのだ。

わしのチョコは、とても美味いぞ。美食家のわしがいうのだから、間違いないのだ」

「そうだな、いただくよ。ホワイトデー、期待していろよ」

「ホワイトデーは、三月か……わかったぞ。期待しておるからな」

それだけ言うと、ハシブトの姿が浴室から見えなくなっていた。


僕は、脱衣所をただ眺めていた。

だけどある感情が、湧き上がっていた。

胸が苦しくて、どうしようもない想いが、とうとう抑えられなくなっていた。


(ハシブトを好きなんだ。ならば……)

ある決意をした、僕は急いで風呂から上がった。

そして、真っ直ぐにバスタオル姿のまま、ハシブトの方に向かった。



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