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孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
三話:白い海のオオハクチョウ
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長い間、眠気と戦っていた。

どれぐらい、時間が立ったのかわからない。

雪山は寒くて、体を丸めて痛みと寒さに耐えていた。

穴の外から見える雪山の吹雪は、ほぼ落ち着いて小雪がパラパラとなっていた。


目蓋が重い。

体がとてもだるい。

全身が寒さで痛い。

僕は、『死』を覚悟していた。


(このまま、僕はここで終わるのだろうか?)

ぼんやりする頭の中、そんな僕にいろんなことが頭をよぎった。

そうすると、最初によぎってきたのが美野里の顔。

運動音痴で、強がりの僕の妹が相変わらずのすまし顔が見えた。


(美野里のスキー、面倒見てやれなかったな……

美野里は、これからも父さんとうまくやっていけるのだろうか?)

元気になった美野里、強がる美野里、ハシブトを好きな美野里。

いろんな美野里の顔が出てきた。


でも最後に出てきた美野里は、病室にいた『かごの中の小鳥』の美野里。

寂しくて、僕だけをずっと求めてくれた美野里。

浮気と離婚でバラバラになった家族で、一緒に戦ってくれた仲間の美野里。

「美野里……ごめん。スキーを、もう見てやれそうにない」

弱弱しい声でふがいなく謝った。


次に出てきたのが安志と部長だった。

(安志、部長……今探しているのかな?)

外の吹雪が強い、穴の先から見えていた。

足を踏み外して彼らとはぐれてしまった、迷惑をかけたことに罪悪感があった。


安志と部長、大丈夫かな。

もしかして、僕を探して逆に遭難していたりしないだろうか。

いろんなことを考えては迷っていた。

迷っていた僕に優しい声をかけてきた、小太りの部長。


その部長を助けてくれた、良き友の安志。

でも、僕の死で無くなってしまうかもしれない。

そう考えると、泣きたくなるが泣くほどの元気も残っていない。

「二人には、元気でいてほしい。この部活は、無くならないでほしい」

そう願わずにはいられなかった。


次に出てきたのが母親。

能天気で浮気性の母親、そんな性格がずっと嫌いだった。

でも、僕を生んでくれた母親。僕がこの世から居なくなったら美野里も気にしてほしい。

美野里が一人になったら、とてもかわいそうだ。

「僕はあなたが嫌いだった、でもわがままだけど美野里だけはお願いします」


そして、黒髪のハシブト。

ハシブトかぁ、僕が助けたカラスだったな。

あいつには、とても悪いことしたな。

あんなに寒がりなら、スキー合宿に連れて行かなければよかった。

今頃は、暖かいところでゆっくりしているのだろうか。それがいいカラスは雪が苦手なんだ。


僕は、穏やかな顔になって雪穴の中で丸くなっていた。

外から見える吹雪は、いつしかやんでいた。


「寒い……孤独ってこんなに寒いのか……」

僕は、とうとう孤独になってしまった。

雪山で一人遭難、僕の周りには誰もいない。


(ここで寝たら、終わり……かな)

目蓋が重い、体がだるい、そしてものすごく眠かった。

感じられる寒さによる痛覚も、徐々に感じなくなっていく。

いよいよ、僕が天に召される時が近づいたことか。


(人間の最後って、あっけないものだな)

僕の目蓋が、閉じた。抵抗もすることもないまま。

前に広がる闇、あとは意識が無くなれば二度と起きることはない。

段々と五感で感じられるものが鈍くなっていく。


そんな時、かすかに声が聞こえた。

「喜久……そんな……」

小さな声がする、僕が夢で呼び出した女性の凛とした声。


(名前を……呼ばれた……気が……)

たどたどしく聞こえた僕の意識は、声なのか風なのかよくわからなかった。

だけど、目蓋を開くだけの力は残っていなかった。


「喜久、起きるのだ」

だけど、最後の一言は僕にはっきりと聞こえていた。

その声の主は、ハシブトのものだと分かった。

それは一瞬だけのぬくもり、温かさ。かすかに感じるぬくもりを枕に僕は完全に意識を失った。


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