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週末の日曜日、来週に迫ったスキー合宿のためにスポーツ用品店に来ていた。
ここは、学校指定のスポーツ店でいろいろ割引が聞く。
僕の母親はハシブトのスキーを了承してくれたな、自由参加なのに。
合宿代、費用も高いのによく出してくれるよ。ただの居候だけど。
それとも、僕に離婚して罪悪感の気持ちがあるのだと思うが、何でも受け入れる母親の性格が羨ましくもあった。
ジャンパーにズボン姿の僕はハシブトと一緒に、スキー合宿のための用意をしていた。
スキー板やストックなどスキー用品は向こうにあった。
だから必要なのは、スキーウェアやスキーブーツとか、ゴーグルとかを探せばいい。
ちなみに僕は、去年買ってあるのがあって新調する必要はないが。
ハシブトって背は高いし、足も大きいんだよな。
スキーブーツ、ゴーグルを買い揃えて僕はハシブトのスキーウェアを買っていた。
「ハシブト、スキー用品これなんかどうだ?」
「わしは、白い服が好きだ。『アルビノ』みたいで、いいではないか」
「『アルビノ』?ああ、変色種のカラスか。
でも意外だな、ハシブトは白が好きとは。じゃあこれはどうだ?」
僕は持っていた、白っぽいスキーウェアをハシブトに当ててみた。
「かわいいな、これもいい」
「ハシブトは、モデル体型だからな。なかなかあうのが無くてな」
「わしは、この体が好きではないのだ」
「前にも言っていたな、人間の体が不憫だとか」
「そうだ、この体は特殊なのだ。喜久はどうなのだ?」
すると、ハシブトが僕に対して胸を前に突き出してきた。
上目遣いのハシブトは、縛った黒髪もあいまって彼女は可憐に見えた。
妖艶で、美しい、まさに絶世の美女だ。男を魅了し、虜にする体としては十分すぎるほどセクシーだ。
「え、えと……好きだ……」
「あれ、扇君?ここにいたのですか?」
どこかで聞いたことある声が後ろから聞こえた。
現実に引き戻された僕は、後ろを振り返った。
そこにはワンピース姿で、ミディアムヘアーのお嬢様が姿勢よく立っていた。
「扇君も、スキー用品選びに来たのですね」
「ああ、生徒会長か。ってそれはなんですか?」
「イエイヌですよ。前に話しませんでしたか?」
生徒会長は、なぜか『イエイヌ』といわれた狼を、当り前に犬の様に店に連れてきていた。
ここ、スポーツ用品店だよな。
生徒会長の狼は、ワンワンとハシブトに吠えていた。
「ぬしも来ていたのか、イエイヌ」
「ワンワンワン」とイエイヌは狼の時は、犬のふりをしていた。
ハシブトは、優しい顔でイエイヌの頭を撫でてあげた。
それにしても見た目は狼だぞ。店内に連れてきて大丈夫なのか。
「私は、イエイヌが常にそばにいないと落ち着かないのです」
「そうだった……ですね、はははっ」
生徒会長の寂しそうな顔、僕は追求できなかった。
「生徒会長は、スキー合宿の用意です?」
「ええ、今年は参加しようと思います」
「そうかぁ。生徒会長は去年、いませんでしたもんね」
「ええ、不参加でした。イエイヌがどうしても気になって……」
生徒会長の言葉、イエイヌはとても大事な存在らしい。前に家で全て話してくれた。
生徒会長は、スキーのポスターをじーっと眺めていた。
「去年はイエイヌがね、熱を出してしまったのです」
「イエイヌって、狼なのに?」
「そうです。だから私も休みました」
「そんなに好きなんだ」
「私にとってイエイヌは全てです。イエイヌがない生活は、考えられません。
私の心は張り裂けて、死んでしまうでしょう」
大げさだなぁ、と思うも生徒会長の真剣な表情に圧倒されてしまった。
「そうか、ぬしも貢献しているのだな」
ハシブトは、イエイヌの頭を撫でていた。
イエイヌは、気持ちよさそうにハシブトになついていた。
こうしてみると犬だけど、本当は狼なんだよな。そう考えると、ゾッとした。
「生徒会長。それより、イエイヌも合宿に行くのですか?」
「何を言うのですか、いつもイエイヌとは一緒です」
「は?」僕は驚いた顔を見せた。
生徒会長は、堂々と胸を張っていたが少し気まずそうな顔に変わった。
「私はちゃんと学校にも、連れて行っています。
カバンにしっかり詰めにして、風紀委員に見つかりそうになりますが五島に任せています」
「えええっ!」
素直に僕は驚くしかなかった。
驚くと周りのスポーツ店の客の視線が、僕に突き刺さっていた。




