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あの日から、あたしは最愛の人と離れ離れになった。
大人とは、どれだけ自分勝手なのだろう。
まだ小学生だったあたしは、赤いランドセルを背負っていた。
夕暮れに、大好きだった男の子とあたしはバイバイした。
一生懸命手を降った、あの日は寒かったのをあたしは覚えていた。
手袋をつけ、ふかふかの帽子をつけて手をいっぱいふったから。
だけど、あたしの想いは届かない。
そのあと、あたしは一個の嘘をついた。
その嘘は、あたしはもう引くに引けなかった。
どこにでもある住宅街の路地は、冬の寒さが身に染みた。
夕方でも日は沈みかけていて、暗くなった道を学校で大きな失敗をした僕は歩いていた。
僕の名は『扇 喜久』。取井出市の高校に通う、普通の学生。
くたびれた顔で、僕は住宅街を歩いていた。
そこは、町の汚いものが集められる場所。住宅のそばにあるゴミ捨て場。
生ごみの臭いにおいが、僕の鼻を刺激していた。
(ゴミを、まだ回収していなんだな)
苦い顔で僕はゴミ捨て場を見ていると、そこには一羽のカラスがいた。
黒い物体が、コミ袋の上でいる様は威圧しているようにも見えた。
(カラスか……なんか、嫌な気分だ)
僕はゴミ袋のカラスが、何となく気になっていた。
カバンを持ったまま、僕は立ち止まっていた。
人を見るとカラスは頭がいいから、飛び上がるはず。案の定、カラスは立ち上がっていた。
そんな僕は、カラスの視線が妙に気になっていた。
(なんだよ、何見ているんだよ)
僕はそこを通り過ぎようとしたとき、良心の呵責に苦しんだ。
必死に立ち上がって、僕の方から視線を前に向けていたカラス。
(所詮カラスだろう、なんで……)
周りに人はいない。夕暮れのゴミ捨て場、いるのは僕とカラスだけ。
薄暗いゴミ捨て場は、静まり返っていて誰もいない。
「ああっ、もう……今日はツイていないな!」
吐き捨てるように言った僕は、カラスのいるゴミ袋の上に近づいた。
カラスは、必死に飛び立とうとしていた。しっかり立って羽を、大きく振っていた。
だけど、体は宙に浮かない。
理由は、見てわかった。僕はすぐさま、カラスのいるビニール袋そばに近づく。
一生懸命羽を振りあげるカラスの羽の骨が、折れていたのだから。
(なんだよ、立ち上がるなよ。無理なんかするな……)
可哀そうになった僕は、カラスの頭を優しく撫でた。
こうすることで、ある程度警戒を解くことができるから。
元々カラス自体、人間に警戒心抱く。
頭がよく、人間自体を避けていくのが得意だ。
前のカラスは、つぶらな瞳で僕の顔を写した。
こうしてみると人間の外敵のような言われ方をしているカラスも、かわいく見えてしまう。
(痛々しい姿で、頑張るなよ。まるで、僕みたいじゃないか)
そう思えると、僕はハンカチを取り出した。
そのまま丁寧に傷ついたカラスを、ハンカチで包み込む。
「ちょっとの間だけ、我慢してくれよ。
家に帰れば、道具があるから。僕は、ちゃんと治せるから」
僕は、言葉の伝わらないカラスにそう言い聞かせていた。
カラスは、声に反応してか首を振ってすぐに大人しくなった。
この日、一羽のカラスと出会った。
その出会いは、これからの僕を変えていくことになったのだから。




