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ここで私が記述できることは、主観的なものであるため実際に起きた事とは齟齬が起きる場合がある。
ロンドベルクの中で起きた災厄に関して特筆できる所は、不死の力を持つ少年が中心点に居たことだろう。
本来無関係であったはずの彼だが、偶然に女神教会に拾われ、そこで魔術を知るきっかけを作ったのも大きい。
数日前からハイデ町に到着したエレオノーレ・ドラクレシュティが彼と協力した原因についてはまだ調査中である。
事件終結後、エレオノーレとナクラは共にハイデ町から逃亡したため、原因究明の手がかりが不足。
当時、彼が引き出したと思われる闇属性の高度スキルに関してはまだ不透明な部分が多くあった。
両者に関する情報やデータは少なく、エレオノーレが得意とする結界魔法の痕跡は殆ど残って居ない状態にあった。
王庁による監査も進められていたが、当時者である死徒二十七祖の三人の内二人は死亡。
フリードリヒという名の騎士については、恐らく既にダキア公国へ帰国したと思われている。
アルデウスに関しては先日まで不明だったが、町内で発見された魔巧人形から独自調査した結果死亡したと判明。
エッカルトについては、ナクラが自身の力で彼を打倒した状況を魔導士フレイヤが目撃している。
状況としてはかなり混迷とした状況になっており、アレクサンドルの魔力暴走が確認されていた。
かなり危険な状況となった地下祭壇だが、アレクサンドルの魔術回路をエレオノーレが破壊する事で事態は収束。
それ以降、王庁監査による地下祭壇の調査が行われたが、アレクサンドルに関する情報は殆ど得られず。
吸血種による独自思想に基づく暴走として処理されているこの案件について、現状もまた調査中となっている。
フレデリック公爵にとっては大変困惑するような状況になってしまったが、ダキア公国からの協力はある程度得られている模様。
ロンドベルクにおける国境線の諸問題に関しての解決を最大限に優先する事を考える事が必要であると思われる。
特に戦時中に伴う物資の供給源を確保するための政策のためには、ハイデ町の発展は必要不可欠と考えられる。
こうした、他国からの吸血種による思想的な暴徒に関しては、女神教会と共に対策を練る必要もあった。
ある意味、ハイデで行われた戦いは個人的な思想が色濃く、事件以後に模倣する吸血鬼が出る可能性も考えなければいけない。
この戦いで誘発されると思われるダキア公国との確執に関しては十分に慎重な協議が必要と思われた。
事件以降、ハイデ町に不審な結界の情報は発見されていないが、今後とも必要な情報は入手することを極力順守つもりである。
書類を書き終えたシエラは、ただ部屋の中で退屈そうにコーヒーを飲むのだった。
町の中で行われた事件、戦いに関する情報は殆ど散逸しているようなものだ。
当事者であるナクラに関しては既にエレオノーレと公国へ入国しているだろうが、正直内心複雑ではあった。
別に彼が英雄気取りになるわけでもなく、エレオノーレを政争から守るために逃亡した事になっているが・・。
「一瞬意味が分からなくとも、一応それなりにやり遂げたつもりなんだけど」
「どうかされましたか?マスター」
背後に居る魔巧人形。シエラが町の中で見つけた、アルデウスの遺品のようなものだ。
当時、雨に濡れて地面に座り込んでいたのを見た時は驚いたが、こうしてシエラが管理することになってしまった。
「結局、エッカルトに関しては個人的な暴徒として片づけられた意味が分からないって話。
明らかに別の理由があるみたいなんだけど。私じゃ調べられる範囲が限られていて」
「それは困りましたね。でも、我が主からは特に何も教えられていませんから」
実際のところ、アンヌに関しては何も知らない事が多く、演技ではないため情報は何も得られなかった。
そんな魔巧人形がシエラに押し付けられたのはともかく、こうして事件が風化されるのが気に入らなかった。
吸血鬼に関する情報を得るには、さすがに公国まで行くしかないだろう。
エッカルトの個人的な理由、思想に関する情報などこの地ではまず手に入らない。
正直、シエラにとっては聊か不満の大きい事件ではあった。
報酬無しのタダ働きみたいなものだ。ギルド協会からも、この事件に関して多くを語ってくれない。
エルフ中心の議会だからだろうか、吸血鬼に関してはただの害虫程度にしか思っていない。
書類は書き終えたので、それを手紙の封筒に入れてフクロウの使い魔に手渡すのだった。
目的地へ飛び立つフクロウ。ただ、彼女にとってその事件は自分の中でも風化させるしかないだろう。
「もっとも、アルデウスって結局誰に殺されたんでしょうね」
「・・・分かりません」
「あぁ、別に彼が気に入らないわけじゃないんだけど」
さすがに、彼女にとってもショッキングだっただろう。
突然の異常を察知し、自分の居場所まで走って戻れば、既に彼の姿は無かった。
頭部を保存していた筒の中身が消えていた以上、彼は消失したと考えていい。
ただその後、アンヌに直接的な危害が加われることはなかった。それがある意味不気味ではある。
「誰が殺したとしても、彼の魔術回路に直接介入するような行為は普通できません。
あぁ見えても、アルデウスは魔術師として一流ですから。それなのに、結界の侵入すら許すだなんて」
「本当に全て闇の中ね。しかも、世間には広まって居ない事だから余計に」
「アレクサンドルの転生先である少年については、どうなさるつもりなんですか?」
「別に、彼は放っておくだけだもの」
はっきり言えば、ユリウスはもう完全に忘れているフリをしている。
事件どころか、自分がアレクサンドルだという事をだ。
「それだけ公国の王族が嫌いだったかは分からないけれど、無責任なのは事実ね。
でも、私からしてみれば、結局この戦いはエレオノーレを帰国させるためのものだったのに。
ただ少数の思想だけで、目的が殆ど分からなくなって歪んでいく。個人的な理由が優先されるのだから」
「シエラにとっては、やはりいけない事だったのでしょうか」
「別に、事件当時、私もよく分かって居なかったから。
ナクラがあの場所で倒れていたことも、そこまで深く考えていなかった。
そういう意味では複雑な気分になるけれどね」
感情では言い表せない部分はある。ただ、事件の当事者が逃亡したせいでよけいに分からないだけだ。
よく言って国外逃亡。エレオノーレその他中心人物は、ダキア公国へ入国を果たす。
ただ、シエラに関しては殆ど除外されているようなものだ。
事件が遺した魔巧人形に関しても、結局は見て見ぬふりをされている。ある意味杜撰で丁寧すぎる放置だ。
「でも、あれだけ目立つ服装をしているのだから。別に国外逃亡されても見つかるのでは?」
「・・・・だから、完全に無視してるのよ王庁は。全く、何がしたいんだか」
ある意味、物語としてはフェアではない構造になってしまったともいえる。
他の登場人物が黙秘し続けているせいで、結果的に分散しすぎているような状況だった。
シエラ本人としては、もっと分かりやすい命題を求めていたのだが。
暗い室内。そこで行われる、使い魔を利用した念話で、ヨセフは王庁の管理者と連絡を取って居た。
「えぇ、分かって居ます。彼に関してはもう私たちは関与していません。
闇属性の危険段階は確認されていないため、聖堂騎士団による採取は行われないものとみなしています。
分かって居ます、私たちはこれからの政争にとって十分な働きを順次計画しています。
死亡したエッカルトについてですが、彼は自己中心的なエゴイズムによって動いているだけではなく。
魔術理論を駆使した思考に基づき、アレクサンドルを死亡したとみなしていないという考えがありました。
イザベルが入手した情報ですが、彼女が彼から取り出した記憶からだと間違いありません。
彼は本来真祖派という立場でしたが、実際には王族からの命令に基づき、アレクサンドルを魔術実験に利用したかと。
転生先であるユリウスに関してですが、彼の屋敷は既に十分調査されていることはこちらも分かって居ます。
彼は何も問題なく、吸血鬼としての血液依存もなく平穏な日常を送って居ます。彼は、当分放置して問題ないでしょう。
王族同士の問題点についてですが、やはり両国間に存在する親族の血縁関係の情報をこちらに明示できれば・・」
ただ、その後に念話を切られる。
さすがにロンドベルクの王族の中にダキア公国の貴族の血に繋がる親族が居ることは詮索できないようだ。
別にそこでヨセフにとって問題があるわけではないが。あるとすれば王庁の方だ。
背後、そこにはエルフと思われる魔術師の姿があった。
彼もまた、ヨセフと王庁の連絡を間近で聞いていた事になる。
「えぇ、分かって居ますよ。エッカルトに関しては十分に注意が必要だったことについては謝罪します。
ただ、私が女神教会とギルド協会のパイプラインとして機能している事は誰も知りません。
この事件に偶然、闇属性の力を持った少年が居たことについては私のせいではありませんよ。
イザベルが偶然、地面で倒れていたところで見つけた貧乏くさい少年でした。本当にそれだけの事です。
私たちにとっては非常に危険な材料に見えていたかもしれませんが、彼はある意味上手く機能していました。
これを自己修復ともいうのでしょうね。世界にとってのターニングポイントを自動調整する一種の機能。
集合意識に関してはただの眉唾だと思っていましたが、やはり本当にそれがあるのでしょうか。私としては不思議に思いますが。
もし何らかの次の情報が欲しいのであれば、私も協力する次第で・・」
エルフにとっても、ただ彼の言う修復の概念には気がかりなところはあった。
その地域、その場所にとって非常に危険な状況になった際、一定の確率で現れる救世主。
曰く、それを人類史の修復と言うそうだが。それこそデタラメな話としか思われないだろう。
ただ確かにターニングポイントは修正され、エッカルトという異物が排除される。
そして、エレオノーレが自分にとって正しい場所へ戻る事ができた事を意味するが・・。
そんな話をするために、エルフもまたわざわざ教会の薄暗い地下に来たわけではない。
「それでは、これからについてですが。外国勢力に関しての重要な情報は二つほどありまして・・」
次に、ヨセフはロンドベルク周辺国に関する情報を確認し続ける。
ある意味ここからが本題みたいなものだったが、ただそれはナクラが知れば怒りそうな案件も含まれていたのだった。
風が吹く。ダキア公国へ入ると、さすがに寒い場所だと思われた。
山の上に存在する大きな城が、どこか幻想的な風景を思わせる。
ドラクレシュティ家の王城、そこへ到達できたのはいいが問題は山積みだった。
いや、問題をこれから起こすとも言っていいだろう。
エレオノーレに関する問題、婚姻関係が頓挫し、アレクサンドルが死亡していることをどう説明するか。
その問題を解決するために、まずエレオノーレを結婚したものとみなす。
つまり、ナクラとエレオノーレが結婚すればいいどいう暴論に至ったわけだが。正直彼も意味不明に感じていた。
旅の中で決めた事ではあるが。正直ここまでくると何でもありのような気がしていた。
「それにしても大きな城だな・・中はどうなっているんだか」
「もちろん、ナクラが驚く程度だと思うけど。くれぐれもお父様には変な事を言わないでくれる?」
「分かってるって。礼儀正しさに関してはともかく」
だからそこを注意しているのだが、やはりこれから先が本番というところだろうか。
「でも、本当に私なんかでいいの?」
「それはこっちの台詞なんだけど。普通この場合結婚で突然すぎないか?」
「そうでもないわ。他に候補がいないから、私が勝手に決めただけだもの」
そう言う事になるそうだが。やはり、これから先の最大の問題になってしまうだろう。
結婚を果たしてエレオノーレの親族たちが認めるかどうかが重要だが・・。
やはり、寝る場所には気を付けないといけないだろう。王城まで歩くにしても、やはり距離感が遠く感じられるのだった。




