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23-1 兎と天才です

(三人称)


 ここでそろそろ、『番』について語ろう。

 妖の中には、『運命の番』という唯一無二の添い遂げる相手を感知する種族が居る。

 明け透けに言えば、恋愛はおろか利害関係もすっ飛ばして『運命』が相手を決めてくるパターンに振り回される者達だ。


 一生に一度、出会えない例も中には居るが、妖は基本長命種ばかりのため、どちらかと言えば高い確率で出会う。『運命の番』は、もし出会った後で番を失った場合は『気がふれる』というデメリットがあるが、番を当主が得た一族は、繁栄増加を約束されるため、例え相手が番を感知出来ない種で「いえ、コイツ無理です」と拒否しようとも、あの手この手を使い一族総出で囲い込みに来る。


 狛犬はこの『番』を感知する種の一つという訳だが、今回の社 誠志郎の場合は、『番』を感知しているとは到底言えない。

『運命の番』は恋愛や利害関係は無視するが、繁栄増加という効果がある。これは一族全体に様々な祝福を呼び込む事だが、子孫の繁栄も含んでいる。つまり血縁関係を無視して血を濃くするなど有り得ない。それを『番』というのは、もう本人の汚い欲望である。


『昼顔は日和(ひより)の生まれ変わりだ! 私の番で間違い無い!』

「ひより?」

『番だ。他の男と結ばれた愚かで可愛い私の番だ』


 その時、麦穂の中で、一つの仮説が立った。


「━━その女性は、最初の生贄の方ですね? 貴方と交際していた、従姉妹の方」

『おや……知っていたのか。その通りだ。私の番だったのに……私が家の決めた娘と政略結婚などしたばかりに、他の男の元に嫁がされた哀れな女だ』

「違いますね」


 麦穂の声は、冷え切っていた。


「|貴方達のような()()()()()()種は、番を見つけたその瞬間から、番以外と子を作る事が出来なくなる。けれども、貴方には子孫が居る」


 もし日和が本当に彼の番だったのなら、一族は政略結婚など抑も勧めない。そして政略結婚後、社 誠志郎に子が出来る訳が無い。

 つまり日和という女も、社 誠志郎の番では無かったのだ。


『違う!! 日和の子だ!! 私の子孫は、日和が産んだ子だ!! だから━━』

「必死に、そう思い込んだ訳ですか……糞気色悪い。日和さんにももう家庭があったというのに……」

『違う!!』


 赤獅子の前足の爪が、麦穂の体を飛ばし、近くの岩に縫い付ける。

 コプリ、と。口から血を吐き出す麦穂は、それでも冷ややかな視線を逸らさず、赤獅子を睨んでいた。


『日和に私以外との家庭など無い!! 妻の悪巧みも出し抜いて二人で暮らせるようにした!!』

「わ……る、巧み……?」


 血を流し過ぎたのか、麦穂の視界は霞みそうだった。だが、麦穂の仮説をより裏付けるような単語に、彼女の意識は何とか保たれる。


『あぁ、本当に都合の良い事をやってくれたよ!』


 どこに自慢するような要素が有るのかまるで分からないが、愉しそうに社 誠志郎は語り出す。


 曰く、今麦穂を押さえつけている赤獅子は、数百年前にこの地区で暴れた妖精を食う魔物の死骸だった。

 魔物を喚んだのは、社 誠志郎が政略結婚した妻である。余りにも自分を蔑ろにする夫が許せず、儀式について調べ上げ手を出したそうだ。幸い魔物はすぐ精霊に打たれたが、その時彼は天啓を得た。


 ━━精霊が、魔物を始末した事を知っているのは自分だけだ。上手く利用すれば、日和をあの男から引き離せる。

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