22-2 「みぃみ!」です
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━━とっぴんしゃん、とっぴんしゃん。閉じたら開かぬ、影の門。
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(三人称)
妖とは、自然が無ければ生まれない。人が有らねば在り得ない。
『そうある事』が重要なのだ。
森の息吹を胸に抱き、雨の記憶を瞳に映す。火が怒れば共に怒り、花が咲けば共に笑う。神が是とした自然が形を得て生まれる。
『語られること』が必要なのだ。
声に乗り、筆に刻まれ、夢に見られて、ようやく、彼等は形を保てる。
妖は人間よりも形が歪で、精霊よりも魂が不安定だ。
故に妖は、その在り方を否定した時、脅かした時、『妖魔』に堕ちる。
「麦姐さん……妖魔退治の経験は如何程で?」
「3」
「……ですよね! 少ないですよねぇ! あ、俺は0です」
目の前の赤獅子は、文字通り操り人形に過ぎない。
しかし特殊な術を使わずとも、その巨体だけで十分な殺傷力を備えており、決して油断も出来ない。
だと言うのに、攻撃をかわしながら、背後で操っている妖魔を手がかり無しに探し出して最終的に倒す。
それがどれだけ無謀な事なのか、想像に難くない。
『昼顔はどうした?』
赤獅子に、先程水沫が麦穂に語った内容は聞こえていなかったらしい。
「激昂したテメェが消して無ェなら、社邸の地下牢でまだ死んでんだろ」
『死んでいる?』
顔は二人を見たまま。時計回りに、首が真下へと━━在り得ない軌道で曲がる。
『殺したのか? 殺したのはお前か? 私の番をお前が?』
声に、少しずつドス黒い感情が乗る。
一つも修羅場を超えていない妖なら此処で吐いていただろうが、臆す事無く麦穂が口を開いた。
「この儀式は、貴方の『番』となる妖を差し出す儀式なのですか?」
これは、敵を知るチャンスだから。
『最初と今回はそうだ。……なのに曾孫達はその事を忘れておって、こんなゲテモノを……っ』
━━全くもって無関係のウェディングドレス着た野郎を送り込むのは、やはり失策だったという事か。
━━最初から分かりきってましたよね。俺ちゃんと言ってたもん。
二人は、ほんの少しだけ赤獅子を操る妖魔が不憫に思えた。が、麦穂は赤獅子の言葉を拾って、もう一度聞き返す。
「『曾孫』ですか……つまり貴方は、社家の先々代当主様━━社 誠志郎ですか」
「うぇ゛!? それって、あのサイコホラー日記の……ていうか姐さん、何で他所ん家の昔の当主の名前知ってるんですか?」
「貴様が知らない事の方が問題だぞ」
「アッ、鬼軍曹様……」
侍女に有るまじき覇気を出す麦穂に、水沫は縮こまった。
「お前も側近でしょう? 他家とはいえ、領内の名家当主の記録を頭に入れてない? どういう事だ?」
「すみませんッ!!」
ギロリと、射殺さんばかりに鋭い視線が刺さる。
「帰ったら教育だ。
1日で覚えられなければ殺すッ」
「かえるのがこわいお……」
プルプルしていた水沫の頭に、容赦の無い蹴りが炸裂したのは、その直後の事である。
「……った!? 麦姐さん……冗談そこまで通じませんでしたっけ?」
「いえ、死ぬ気で避けなさい。体のコントロールを奪われました」
「涼しい顔で淡々と何言ってんだアンタ!?」
短刀を手に切り掛かってくる麦穂に対して、水沫は咄嗟にヴェールを眼前でツンと真っ直ぐになるよう持ち、受け止めた。
「ヴェールも中々丈夫になるんですね」
「死ぬ気で霊力込めましたからね!」
霊力━━神通力で柔軟性と弾力性が増したヴェールは、淡く光っている。
「だから涼しい顔してないでその状況どうにかして下さい!」
「落ち着きなさい」
短刀を一旦手から離して、ごく至近距離に来た麦穂の体は、水沫の目を潰しにかかっていた。
膝を折って上半身だけ後ろに避けた水沫だが、その瞬間、ライラックの瞳が真上から降ってくる短刀の切先を映す。そして目潰しにかかっていた麦穂の手が短刀の柄を握り、切先を下に向けたまま引き戻した。
「落ち着けるかぁぁああ!!」
顔面から腹まで、縦に引き裂かれる寸前だった水沫の叫びである。
膝を降り、背中を逸らしていた状態だった彼が無事だったのは、右肩を地面に落とすように倒れ込み、体幹でバランスを取りながら右肩を軸に半回転し、地面を横に転がって刃先をかわしたからだ。
「落ち着く前に死ぬわ! アンタ自分が俺より強いって忘れてんで━━おわぁぁあ!?」
今度は後ろから赤獅子の前足が振り下ろされる。
水沫はそれもギリギリで避けた。
「はぁ!? ダボハゼ!! ド畜生!! 姐さんだけでオーバーキルだってのに赤獅子も相変わらず操れるとかバランス詐欺ってんだろ!! こっちヘルモードだろ!!」
「だから落ち着け」
「ぎゃっ」
抉るようなアッパーが決まり、水沫の体は、宙に綺麗な放物線を描いた。
「あ……姐さん? 今操られてたんじゃ無く、素で殴りに来ましたね?」
「ンな些細な事よりも、アレが私を操ってきた事実にまず気がつく事があるでしょう」
「麦姐さんが兎の皮を被ったゴリラって事━━ごめんなさい」
水沫は割とマジで言ったのだが、殺意の起爆スイッチが入る幻聴を聞いた為すぐに謝罪する。
「妖魔の正体ですよ。ドンピシャ━━図星を突かれたから私を操って、まず貴方を亡き者にしようとしてるんです」
「ああ、なるほど〜! ……曾孫が『番』って気が狂い過ぎてて笑えねぇぞ」
思わず、水沫は赤獅子にドン引きの表情を向けた。




