17-2 道連れです
「そういうのカッコいいと思ってる? 4さいからみてもイタいよ。洞爺 白雨君」
「!」
白雨君の顔から余裕ぶった笑みが消えて、周囲の空気が数度下がった気がする。
あまり舐めて良い相手じゃ無いと、分かってくれたんだろう。
だって私は、まだ名乗られていない彼のフルネームをハッキリと、口にしたのだから。
「……天狗はやっぱ怖いね」
今までに一回でも対峙した事があるような口ぶりだ。不思議。
「そこの金髪を連れ戻しに来たんだよ」
「はぁ!?」
大きな声で反応したのは藤紫君だ。
「お前ねぇ! 僕はお館様と親父殿の正式な取り決めで初雷領に来てんだよ。お前の我儘で帰るとか無し。無し寄りの無し。第一、今も仕事中だし」
「勿論仕事が終わってからだよ。お前盆も正月も全然帰って来ねェんだもん。連絡来たと思ったら矢文だし。毎回内容が『忙しい』だし」
「お前がスマホ持ってねェから仕方なくよ!」
メイシーと顔を見合わせて、頷いた。
「おしごと終わったら、いちじきせいをみとめます」
「姫様!?」
「いやぁ、先輩に問題があるでしょう? 普通の兄弟はぁ、片方がスマホ持ってないからって『矢文射てもうたれ』とはならねぇんですわぁ」
後ろで白雨君が拳を上に上げて勝利のガッツポーズをしている。良かったね。
……でもそっかぁ、何で家で就職してんのか謎だけど、藤君は設定だけ出て来た白雨君のお兄ちゃんだったって訳だ。
「帰りたく無いぃ……」
近くの椅子の背中に顔を埋めて情けない声を出す藤君。往生際悪いなキミ。
呆れていると、白雨君が話しかけて来た。
「ところで、この馬車何処に向かってんの?」
「霧ノ香地区ですよぉ」
「何でまたそんな辺鄙な場所に?」
霧ノ香地区、白雨君も知ってる場所だったんだ。少し以外。
「きになるの?」
「了承無しに連れてかれてるしね。それに、さっさとそこの鬱陶しいの連れて行きたいから、大変そうなら手伝うよ」
「! ……おとこに二言はない?」
「ないけど……え? 急にどうした?」
正直、白雨君が有害であれば霧ノ香地区で始末しようと思ってたし(←推しでも容赦無し)、逆に無害ならバスの中で済む程度の話だろうし、霧ノ香地区でバイバイしようと思っていた。
が、良い事を言ってくれた。
「メイシー、いまのろくおんした?」
「バッチリですぅ!」
ボイスレコーダーを片手にウィンクするその姿は、メイドの鏡である。
「ねぇ待って。本当に君達何しに行くの?」
白雨君の顔が、面倒ごとを察知したソレに変わったが、もう遅い。
「「イ草狩」」
「イ草? お姫様が態々?」
「ん、ハントするの」
「……なんて?」
宇宙猫を背負う白雨君に、メイシーがもう一度ゆっくり言い直す。
「イ草を、狩る。文字通りですぅ」
「……いや、え? イ草って、畳のイ草であってる? 緑で細長くて、踏むと良い匂いの……?」
「あってるよ」
妖精の一部らしいけど、残ってる唯一のイ草を川獺さんにお店で見せてもらった。
アレは、私の記憶にあるイ草と同じだったんだよね。
「……それを、狩る? あの、こう……収穫するとか、刈り取るとかじゃなくて、『狩る』? 『ハンティング』? まさか……」
「ソレもふくめて、いのちがけのやつ」
「4歳児のお姫様連れてっちゃ駄目だろそこ!」
新鮮な反応するなぁ、白雨君。
「オイ、うちの姫様舐めんな。魔物300体は余裕で瞬殺できるからな」
いきなり復活した藤君。
「そうですよぉ。そもそもこの領地で本当の意味での安全地帯は存在しませんからぁ」
そてから何気に怒りマークが見えるメイシー。
2人とも、そこで怒らなくて良いんだよ別に。
「……あのさ、そもそも突っ込みたいのはそこじゃ無いんだよ」
白雨君が若干引き気味に眉をしかめる。
「今の話の流れ、完全に『命がけの戦場に幼女を連れて行くの正気か?』って意味で言ったんだけど……え、怖いとは思ったけど戦闘力あんの? 魔物300体? は? 兵器?」
私が戦える話、白雨君しらないんだね。それはそれとして、前髪を死守すべく遠い所にいた藤君をチョイチョイと手招きして、内緒話を始めた。
「ねぇ、リュウってわたしたちとちがって、ワンリョクにもの言わせないの?」
私、戦うGOサインなら今までいっぱい貰ったけれど、止められた事って無いわ。
「いやぁ、僕が実家に居た頃は『力isパワー』の英才教育でしたけど」
「いや、ていうか次男て長男失敗した時の保険でしょう? 教育時、長男に何も過失無ければ教育レベルが下がるのではぁ? ただでさえ正妻の子じゃ無い訳ですし」
あー、成る程ねぇ。
「……納得しないで?」
内緒話、聞こえてたみたいだ。
うん、当然か。馬車の中ってそんなに広く無いもんね。
「しかも、なんとなく聞こえた『あー、成る程ねぇ』のトーン、ちょっとお経っぽかったし」
「いやぁ、姫様がめちゃくちゃ納得してたんで、私もつい」
「メイシー、ぜんりょくで頷いてたね」
「違うんですよぉ! あれは同意じゃなくてぇ、首のリンパ流すストレッチ♡」
「随分柔らかい首だね?」
白雨君、ツッコミに怒りが滲んできたね。対してメイシーはちょっと面白がって来てる。
「私、こう見えて三流派極めてるんですよ」
「それ関係ある?」
白雨君の綺麗な指から、バキって関節の音聞こえてるよ。
そもそも話が逸れてるし、戻そう戻そう!




