18-1 霧ノ香地区です
「と、とにかく! イ草ガリは、わたしも参加できる。しんぱいしてくれて、ありがと」
すると、少しの沈黙があった。
「……え、ちょ、えっ?」
白雨君の口から間の抜けた声が溢れる。
「なに? その反応?」
「いや、何その、さっきまで『魔物300体殺せます』とか言われてた子が、急に……かわい━━」
「惚レタラ殺ス」
藤君がすっごい早口で割り込んできた。て言うか顔怖! ウン十人海に沈めてる佇まいしてる!!
今、ちょっと頬が赤くなった白雨君に癒されかけた所だったのに!
「藤紫……お前なぁ……ちょっとあっち行くぞ」
白雨君は眉間を呆れ気味に揉むと、藤君を引っ張って馬車の後方行こうと……
「分かったよ、触んな」
したけど、なんか冷たく避けられてる。
藤君、空気がいきなり変わった。……どうしたんだろ?
あ、でも普通に内緒話出来るんだ。
へぇ……、あの位置だと聞こえないのね。
「姫様姫様ぁ」
「なに?」
「万……いいえ、億に一つもあり得ないと思うんですけどぉ……姫様的にあの2人は、そう言う対象に見れますか?」
メイシー、あのね……その質問、私が転生者だから答えられるけど、普通は4歳児にする質問じゃ無いんだよ。
「ヨメにってこと?」
「おかしいなぁ……『婿』のはずなのに」
「ヨメもムコもおなじでしょ? 最期までまもりきる、デキアイたいしょう」
「4歳の姫様がカッコ良すぎてその辺の男がマジ雑草に見える件」
メイシーが感嘆しながら額に手を当てて、軽くのけ反る。完全に崇拝のポーズ。
「じゃあ、どっちか選べって言われたら?」
「えー……どっちも、すぐ(物理的に)ころがるから、えらびにくい」
「評価の方向性が『戦場での生存率』になってるのおかしくないですかぁ?」
その時だった。
後方から2人が戻ってきた。
「お待たせ」
何となく空気が穏やか。どうやら話し合いは上手くいったようだ。
「ころしあいには、ならなかったんだね」
「なってたまるか。……で、そっちは何の話してたの?」
「しゅうしょくさきの きゅうよたいせいについて」
君達を嫁にするか否かについて、なんて馬鹿正直には言えない。
「嘘吐くの雑!?」
うーん、ハートマーク手で作って「な・い・しょ♡」の方が良かったかな? 大きくなってするなら本当に可愛く無いとイラつくけど、幼児がやるなら普通に可愛い。
「━━あ、そろそろ見えてきましたよぉ。霧ノ香地区ですぅ」
メイシーの声で、窓から身を乗り出す。
馬車の先に、白くけぶる森がゆっくりと迫ってきていた。
「わぁ……なまえどおりのばしょ」
「はい! 油断したらぁバラッバラにされるらしいのでぇ、気を引き締めていきましょうね♡ あ、そこの野郎供は、引き締めなくて良いですぅ。バラバラになぁれ♡」
「あのメイド悪意高く無い?」
「殺意も高いよ。今回狩るイ草と良い勝負するよ」
「……草って、そういうジャンルじゃ無いはずなのに」
白雨君がんば。
***
━━ずいずいずっころばし 影の壺……。
***
(三人称)
七夜月達よりも先に霧ノ香地区、厳密には地区を治める狛犬の屋敷前まで来ていた麦穂は、その異様さに顔を顰めた。
霧ノ香地区は、その名の通り霧が多い。だが狛犬の屋敷周辺は、妖精達の尽力で霧が無いのだ。
通常であれば。
━━霧に覆われている。ソレに、気配が無い。
屋敷に続く、鳥居を模した入り口。門の外にあるそれは、染みついた気配から本来妖精達の遊び場であると推測できるが、何故か1匹も居ない。
「御免下さいませ!」
鳥居を超えて、門が見えた故に声をかけても、屋敷はシンと静まり返っていた。常人からしたら大層不気味だろう。
だが麦穂は更に進んで行った。門が空いていないなら跳び超えれば良いのだ。
門から少し離れた彼女は、助走をつけて跳んだ。クルリと軽い身のこなしで、難なく跳び越えた先は、やはり無人であった。




