106-2 密かに、然れど苛烈な羽化です
「みゃ、みゃごみゃあああご……」
……あれ? この重厚なモフモフ、知ってるぞ?
顔を上げて確認してみたら、見知った巨大なマヌルネコだった。
「ぷ……プイプイだぁぁ」
わー、わー……すっごい安心したぁ。
何で此処居るのか分かんないけど……。
まだ春鳥と魔族、拘束出来てないけど……。
母親の様子、全然見に行けなかったけど……。
━━━━ぽふん。
「みゃごっ、みゃごみゃ!?」
完全に脱力です。さり気なくお触りしまくります。モフモフの毛並み、最の高!
「みゃごみゃみゃごみゃみゃ!?」
疲れちゃったの…………。
「ぐー」
「みゃごみゃごみゃあ!」
ぐーぐー……。
ドドドドドドドドドド━━━━!!
「姫様ああぁぁああああ!!」
んんんー……地鳴りみたいな音と、メイシーっぽい声聞こえる……うるさいぃ。
「みゃうっ! みゃみゃみゃごみゃごごぉ!!」
「超特急でヘルプに来ました貴女の愛しいメイシーちゃんですよぉ!! って、また現れたか謎の毛玉ァ!」
「みゃごみゃごみゃ〜! みゃご、みゃごみゃごみゃごみゃごみゃごみゃあみゃあああ〜〜!」
んんぅ〜、なんか揺れる〜。
「何言ってるのか分からん!! 第一誰の許可得てうちの姫様のベッドになっとんじゃ変われェ!!」
「みゃみゃごみゃごみゃあごみゃみゃ〜!」
うるさいよぉ……。
寝るのなんて絶望的に思われた現状は、1分くらいで多分走ってきた水沫君が、メイシーに飛び蹴りか何かしてやっと終わった。ハッキリしないのは、もう私の瞼ってばお眠で開く気無いから、音だけでしか判断出来ないのだ。
「馬鹿野郎ぉぉおおお!!」
「ちょっ! 痛いんですけどぉ!?」
「お前そのネコっぽい特大毛玉誰だか分かってる!? その方は━━━━」
すやすや……。
***
(???視点)
嗚呼、長かった。
いや、短かった?
どちらでも構わない。
ようやく、この下らない茶番を終わらせられる。
眠たくて……。重たい瞼を開けて、覚束ない視界と、枝のように細くなってしまった白い脚で、フラフラと歩き始める。
唇が薄く綻ぶ。
裸足の裏から感じる━━砂利や硝子片による痛みが、心地良い。
今この瞬間が夢では無いと、私に教えてくれるから。
***
(三人称)
「は……! 寝てしもたわ」
「んん……10分も!? 2分目を閉じただけだと思ったのに!?」
藤紫が是是に霊薬を飲ませて、水晶窟にした穴から引っ張り上げたところで、電池切れを起こし眠ってしまった2人。
まだ百足の魔物が出てくる可能性が高いのに余りにも無防備だと、双方、とても恥じている。
だがそれは、芝生に転がしていた是是の体が無くなっている事により掻き消された。
「意識は無かった……よな?」
「はい」
是是は重体だった。
いくら回復するとはいえ、意識して霊力を回さなければ10分そこらで歩ける程にはならないレベルの。
「探してくるわ! 藤君休んでて!」
「俺も探しますよ!」
「自分あの仕込み刀で心臓辺りガッツリ刺されとったやろ? 無茶し━━━━は?」
夜凪は勢い良く、近くの気に藤紫の背を押し付けると、正面からTシャツをたくし上げた。
「若様!? 俺、初めては姫様の処女って決めてますから!」
「ちゃっかり七ちゃんの貞操狙ってる度し難い件について、後で拳で語り合うとして……自分、アイツの普段錫杖になってる刀で刺されたよな?」
パッと見れば夜凪が藤紫を襲っているよう見えかねない体勢なのだが、夜凪は気にしていられなかった。
「傷が……無い?」
是是の錫杖の仕込み刀は、妖の治癒を無効化する効果がある。
ソレは、七夜月の件で藤紫もよく知っていた。
━━そういや……戦ってる時気ィ付かへんかったけど……、不自然な点がポロポロ有ったな……。
「━━━━奥様ッ!!」
その叫び声は庭の奥、林のようになっている辺りから響き渡った。
プイプイはペット枠なので、仕事じゃ無くても墨香の室に出入り自由な爺様。尚、本人は気付いてないし、なんなら本来は普通の男性立ち入り禁止の場所だという事を忘れている。
女性人口多いな? 何でかな? まいっか!
……と、深く考えません。




