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episode64 月着陸船と船外活動服

 


 ヘリオス宇宙船のテストが終わり、全てのテストで良好の結果が得られた。


 たったの四時間程度の飛行だったが、帰ってきた飛行士達に話を聞いたら――



「あれはやばい!! アルカイムってホントに美しい惑星(ほし)です!!」


「想像を絶する美しさってああいうのをいうんだって実感しました!」


「あれは人生観変わりますよ!!」



 と興奮して語ってくれた。


 ……悔しくなんかないぞ。俺も行くんだからな。


 君らよりも高いとこにな!!



 ――


 ――


 ――



 さて、そんな悔しい……いや、悔しくない報告を受けた後、格納庫には一隻の船が搬入された。


 残す最後のピース……月着陸船である。



「……ちっちゃいね」


「なんというか、独特な表情をしてるね」


「つり目なのに口をあんぐり開けてる」


「ちょっ……やめてよ! もうそれにしか見えなくなっちゃうじゃない!」



 シャーリーが月着陸船の前面を見て、フロントガラスと前面ハッチを顔に見立て真似をする。


 それをティアが見て笑うという微笑ましい状況になっていた。



「下の部分はほとんどサーマルブランケットなんだね?」


「ええ、エンジンくらいしか載せてないから。結構中スカスカよ?」


「じゃあ、今後は何か積めそうですね。実験器具とか」


「いっそ自動車積んじゃわない?」


「「ないない」」



 他にもカレンとエレナ、シンシアも来ている。


 にしてもカレンは先進的だな。車積もうとしてるぞ。


 ……ちなみにレイとマティルデもいるが、会話に参加しない。


 従者としてプロフェッショナルを貫いている。



「ずいぶん愛らしい顔になったな。流線形ではないが大丈夫なのか?」


「大丈夫。月じゃ大気がないから問題ない」


「なるほど」



 見学に来ていたエリオットの質問に答える。


 月着陸船は左右非対称で角張った形をしているが、これに至るまで前世では色々と試行錯誤が必要だった。


 司令船の形は再突入する関係上、円錐形にするしかない。


 あの形が一番熱を逃しやすいからだ。


 だから司令船の形状で悩むことはないが、問題は月へと降りる着陸船の方だった。


 当初は搭乗部は丸い形状にして、内部には搭乗員が座る為の椅子を用意していた。


 前面部分は視界を確保するためにほぼガラス張りにして、着陸脚は安定性を確保するために五本用意していた。


 が、そんな形にしたら重量が嵩んでしまい、ロケットの打ち上げ能力では持ち上げられなかった。


 そこでどうやって重量を減らすかと技術者達が頭を悩ませた。


 その時、ある一人の技術者が言った。



 ――月って重力1/6なんだから椅子必要なくね?



 そこからは芋づる式にアイデアが引き出されていった。



 じゃあ、搭乗員は立ってベルトとかで身体を固定する方法にしよう。→じゃあ、ガラスも前面全体に張らなくね良くね? 搭乗員の前だけに張ろう。→待てよ? 窓って着陸する為のものだよな。じゃあ、斜め下を見るように取り付けたらガラスの大きさ小さくできんじゃね? →そもそも空気ねぇんだから流線形にしなくてもいいじゃん。



 などなどの意見が統合され、着陸脚も五本から四本に減らされるなどして月着陸船は完成した。


 今世じゃあ、完成形が見えてたからそういった苦労はなかったけど、骨組み作りからパネルの溶接などで慣れが必要で、そこに時間がかかった。


 特に着陸脚の内部構造は蜂の巣と同じハニカム構造だから、それを作るのに時間を要した。


 まぁ、それは司令船の耐熱シールドも同じだったが。



「ねぇ! これって中入れないの?」


「どうだろ? 聞いてみる」



 シャーリーから月着陸船の中を見たいと言われた俺は、作業長に話をした。


 するとOKをもらえたので、入らせてもらうことになった。


 中に埃などを持ち込まないように白いクリーン服とキャップを被り、中に入る。


 まずはシャーリーとティアからだ。



「へぇ……思ったより広いわね」


「そうね。視界も広いし、着陸地点の様子を見るには十分そう」


「操縦桿の位置も最適。操縦しやすそうでいいわ」



 パイロットだなぁと思う会話をするシャーリーとティア。


 普通、女性なら操縦系より先に中の居住性に目を向けると思うんだけど? 偏見かな?



「やっぱりパイロットだね。私なんか思ったより広くて寝やすそうとか思っちゃった」


「私も。あとなんか秘密基地っぽくない?」


「確かにそうだね。子供の頃に作った秘密基地っぽい」



 次に入ったエレナも俺と同じことを思ったようだ。


 カレンとシンシアは子供の頃を思い出して秘密基地っぽいと評価したが、次に入った俺もそう思った。



「カレンと同じ思考回路持ってんのかぁ……俺」


「えっ? なに? 心外なんだけど?」



 前面ハッチから覗き込みように見てきたカレンがジト目で見てきた。


 聞こえてたのか……



「しかし……ここで男女が寝泊まりするというのは、その……」



 一緒に入ったエリオットが少し顔を赤らめて言う。



「何も起きねぇよ。起こすわけねぇだろ、仕事だぞ」


「そ、そうだな! 仕事だものな!」



 良からぬことを考えていたことがバレたからなのか、慌てた様子だ。


 一体誰とここで一夜を過ごす想像をしたのだろうか。(棒


 エリオットも男の子ってわけだ。



「……なにも起こさないんだ」



 シャーリーがなんかつぶやいた気がするが、全く聞こえなかった。










 ◆










 ということで早速、完成した月着陸船とのドッキングテスト……とはいかず、最初はS-ⅣBにドッキングポートを取り付けてドッキングが可能かどうかを確認する為のテストフライトが実施された。


 今回も低軌道だからサターン1Bでのミッションで、俺とシャーリー、ティアとで見学に来ていた。


 で、今はそのドッキング前なんだが――



「全セクション、テレメトリーを注視。些細な異常も見逃すな」



 フライトディレクターであるエリオットが注意を促す。


 ミッションコントロールには緊張した空気が漂っている。


 それもそのはず、今ドッキングをする前なのだが、これは二回目の挑戦だ。


 一応、ドッキングの際にはゆっくりと動くよう伝えたし、そのように訓練もしたのだが、どうも上手くいかなかったようだ。


 というのも、宇宙で宇宙船同士を近づける行為はかなり難しい。


 軌道力学というものがあり、速度を上げると高度が上がるのは知っての通りだが、高度が上がるということは惑星の周回円も大きくなる。


 すると周回時間も伸びるのだ。


 逆に速度を落とすと高度も下がるが、今度は周回時間が早くなる。


 周回円が小さくなるからだ。


 速度を増したのに周回時間が伸びる。速度を落としたのに周回時間が早くなるという、地上では考えられない状況になるのが宇宙なのだ。


 じゃあ二つの宇宙船をくっつけるにはどうすればいいのか?


 答えは至極簡単。二つの周回円に接点を作ればいい。


 ようは二つの宇宙船がもっとも近づく点を導き出せばいいのだ。


 が、これが難しい。


 接点を作っても、近づいていられる時間は短い。


 そのあとは徐々に離れていってしまうからだ。


 そうなると今度はまたタイミングを合わせてあげなければならないわけで、そのためには燃料を消費する。


 もし燃料を使い切ったら、地上に降りる為の減速ができなくなるから自然に落ちるのを待つしかなくなってしまう。


 自然に落ちるのを待っていたら何十年もかかってしまうから落ちるに任せるのは現実的じゃない。


 燃料は無駄にはできない……これが宇宙飛行の難しさだ。



『目標視認』


「接近してください。その後ドッキングを」


『了解』



 通信係であるCAPCOMが宇宙船クルーと話をしている。


 ドッキングシークエンスに入り、ミッションコントロールの空気がもう一段張り詰めた。


 ドッキングに費やせる燃料は残りわずか。


 失敗は許されない。


 さぁ、無事ドッキングできるか……


 そう考えていたら、横にいたティアが――



「あっ、もう大丈夫ですね」



 と声を漏らした。



「……はぇ?」


捕獲(キャプチャ)成功! ドッキング完了!!』



 俺が驚いている間にミッションコントロールセンターで歓声が沸いた。


 それを横目にティアに問いかける。



「ティア、なんで大丈夫だと思ったんだ?」


「えっ? 映像を見ていて近づき方からなんとなく……ですね」


「……」



 つまり、映像で相対速度を感じ取ったと?


 えっ? ヤバない?



「さすがよね。ティアは航空機の操縦も上手だし」


「ブラックバードもティアが操縦してたんだもんな。なるほどなぁ」


「いえいえそんな……でも、私昔から魔道具を使うの上手だったんですよ?」


「そっか、それもあるのか」



 今世の機械は全て魔道具だからな。


 何かしらの魔力を感じ取って無意識に動かしているのかもな、ティアは。


 まぁ、なんにせよ、ドッキングに成功してよかった。


 さぁ、次は月着陸船とのドッキングと動作テスト。


 それが認可されたら俺も乗れる!!











 ◆










 っということでドッキングテストの後、月着陸船のテストが先日終了し、無事俺も乗って良いと許可が下りた。


 めっちゃ端折ってるけどこれには理由がある。


 それは月着陸船のテストが失敗に終わろうとも、月着陸ミッションを行う俺とシャーリーとティアとで訓練に入らないと間に合わないとエリオットに進言して、月着陸船のテスト中も訓練に励んでいて忙しかったのだ。


 で、その訓練の成果なんだけども――



捕獲(キャプチャ)


捕獲(キャプチャ)確認(コンファーム)、ロック」


「十二点、ロック確認。ドッキング完了」


『ドッキングシミュレーション終了。お疲れ様でした』



 難なく行われている。


 司令船パイロットに選定されたティアの腕前は大したもので、一番最初に行ったシミュレーションでもドッキングに成功している。


 ……末恐ろしくもあるけど。



「さっきRCSの一部の動作、切ってたでしょ?」


「えへへ……実は。突然のトラブルにも対応してもらわないと」


「やっぱり。でもさすがよね。ティアはそれでも動じずにドッキングさせてたわ」



 シャーリーが管制役の子と話をしている。


 どうもストレス試験がされていたようだった。


 管制官がコントロールルームで意図的に一部の機器に動作不良などを起こさせて、飛行士に負荷をかける訓練である。


 いわば抜き打ちテストだ。



「あれくらいならなんとかできますよ」


「RCS一部切られてんのにあれくらい……」



 ティアの発言に驚愕する。


 あれぇ……俺が航空機の操縦教えたのにとんでもねぇくらい引き離されてない?


 まぁ、とはいえど、俺もシャーリーもドッキングシミュレーションは一通りできる。


 本職のティアと違ってシミュレーション訓練の時間は短いが、俺達三人はかなり能力が高いと思う。


 まさに精鋭って感じだ。自分で言うのもなんだけど。



 ――


 ――


 ――



 訓練終了後、宇宙飛行士訓練センターの一室に俺達は足を踏み入れた。


 そこにはマティルデの他に二人の宇宙飛行士が居て、ある装備のチェックをしていた。


 いよいよ、船外活動服が次の飛行でテストされる。


 なんでマティルデが居るのか? 無論、彼女がテストするからだ。


 ひと足先に宇宙に行きやがって。



「わぁ! すごい!!」


「これで私やアーサーは月を歩くのね」


「ずいぶんスタイリッシュになったな」



 宇宙服を見てティアは瞳を輝かせ、シャーリーは感慨深くそれを見ていた。


 スタイリッシュ……と言ったのはそのままの意味だ。


 今、マティルデ達が着用している宇宙船は前世の宇宙服とは全く異なる。


 例えていえば、SFアニメによく出てくるタイプの宇宙服に酷似している。


 もっといえば某機動戦士のパイロットスーツだ。


 前世で一番近いのはスペースX社のスターマンスーツになるのか。


 というかなぜこんな近代的なデザインになったのかというと、宇宙服に使われている素材が関係する。


 前世の宇宙服は外は空気が無く、服の中には空気があるという関係上、服が膨らんでしまう。


 そのためできるだけ気圧差を少なくするために宇宙服内は0.3気圧にしていたがこれでも服が膨らんで身動きが取りづらくなってしまう。


 特に関節部分が曲がらない状態に陥ってしまうことから、肩や肘、膝などの部分に加圧してもスムーズに動かせるジョイント機構を取り付けていた。


 その結果、前世の宇宙服は着膨れしたシルエットをしていたのだ。


 で、今世ではそれをどうしたのかというと、気圧差を無くすという構造になった。


 そうすれば服が膨らむことはない……のだが、これが難しい。


 所謂ピッチリスーツとするにはスーツ自体に伸縮性がないといけないが、体を動かす関係上、汗や温度を逃す必要がある。


 そうなるとラバースーツは不適切だ。


 前世でも気圧差を無くすことで着膨れしない船外活動服を作ろうとしていたが、この問題でつまづいていた。


 が、この世界ではあるものがあった。


 魔物素材である。


 スライム液で作ったインナーの上に、間引きで討伐されたドラゴンの革を使用した外装を纏う。


 バックパックには酸素供給や装着者に水を提供する為の魔石などが設置された生命維持装置や通信機器を取り付けた。


 ドラゴンの革だったら微小隕石を難なく防ぐし、伸縮性もあるしで船外活動服の素材として最適だった。



「すごくかっこいいじゃない! ドラゴンの革の赤がすごくいいわ!」


「こちらの開発には私も携わりましたので、そう言われると嬉しく思います」



 シャーリーは大層お気に召したようで、興奮気味にマティルデに話しかけていた。


 マティルデも本当に嬉しそうに答えている。



「ねぇねぇ、中はどうなってるの?」


「ご覧になりますか? ……」



 シャーリーにインナーを見たいと言われたマティルデが俺の方をチラリと見た。


 そうだな、確かに俺はいない方がいいな。



「じゃ、俺は退室しようかな」


「えっ? 見ればいいじゃない? あなたも着るのよ?」


「そうですよ。一緒に見ましょう?」



 シャーリーとティアに引き留められるが、それはインナーを見てからもう一度言ってみてほしい。


 そう思ったから、二人に言ってみた。



「インナー見て、同じセリフ言えたら一緒に見てやるよ」


「えっ? うん……」



 俺の言葉に少し不安そうな声でシャーリーが答えたのを聞き、俺は退室した。


 さて……どんな反応するかな?



「――嘘っ!? こんなにピッタリくっつくの!?」


「――か、形丸わかり……えっ? マティルデ、これって下着は?」


「――これが下着ですが?」


「「――ええっ!?」」



 ……先程、スライム液で生成したインナーと言ったのを覚えているだろうか?


 そう、船外活動服のインナーはピッチリスーツなのだ!!

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