第27話『ハルニレ、髪を切る』
集会所の広間の入り口近くでは、名物三人娘に囲まれて、髪をショートボブにしたハルニレを中心に盛り上がっていた。
「ハルニレちゃん、ずいぶん思い切ったねぇ」
「すっごく似合ってますよ!」
「ありがとう」
キャイキャイ言いながら、楽しそうに会話する。
「やっぱりルイスさんを意識してヘアカットしたんでしょ?」
メグの言葉に二度頷くハルニレ。
「はい、ツインテールは……ちょっと子どもっぽいかなって」
「三歳くらい大人びて見えるわよ」
「大胆にイメージチェンジできて羨ましいです」
パティもミルラも賛辞を惜しまない。
「メグ、金髪に似合うメイクをアドバイスしたら?」
「そうねぇ……金髪の人って肌が薄いから、ナチュラルメイクが基本よね。ハルニレちゃんはかわいいキャラクターだから、ルージュはピンク系がお薦め。あとアイメイクはモーヴが映えるよ。だから、服装は背伸びしてもオフィスカジュアルぐらいにしておくと、しっくりくるかな」
「わぁ、ありがとうございます」
メグは知る人ぞ知るメイクマニアなのだった。
晴れやかに笑うハルニレを、近くで見守っているのはルイスである。
ランスと話していたが、つい視線がそちらにいってしまう。
「……ドキドキしますね」
「えっ?」
「ハルニレさん、イメージチェンジ大成功じゃないですか」
「そ、そうですね! 心境の変化でもあったのかな?」
ランスに指摘されて、慌てて話を合わせるルイス。
「ルイスさんに合わせて、大人っぽい装いをするなんて、いじらしいじゃないですか」
「いえいえ、あちらのご家庭は万全のバックアップでハルニレさんを応援してますから、おばあちゃんかお母さんにアドバイスをもらったのかもしれませんし……」
「そうでしょうか? 女性が髪を切るというのは、昔から特別な意味があると言いますよ。ハルニレさんもここぞという時は自分で決めると思いますけどね」
ドキドキドキドキ。
ルイスは胸の鼓動が早鐘を打ったまま止まらなかった。
「それで? 《《大人の》》ハルニレさんを聖人降誕祭にエスコートして差し上げるんでしょう」
「は、はい。父の伝手でメーテス宮殿のパーティーに招待されてて……」
「ここが正念場です。頑張ってくださいね」
「はいっ!」
今からカチコチになっているルイスだった。
レピア湖パスクア村——。
ランスが牧師をしている教区では、アヤを中心に『ブルーブリーズブランド』の仕事が本格化していた。
パスクア織という有形文化財を担う、高齢の男女の工房が、神話の里から輸送された綿糸をそれぞれ織布する、という作業を行っていた。
職人たちのプロの技で、二、三日くらいで一反仕上がるというハイペースは、現地の神話の里の位階者——素人集団の約三倍である。
それがアヤの事務処理能力を得て、格段の納期前仕上げになって、納品先の降霊界チャイトヤの担当者を驚愕させていた。
それを実行可能にするのもアヤの手腕だった。
この日もある工房から、こんなアイディアが持ち込まれた。
「アヤさん、ご相談があるんですけどね」
「はい、なんなりと」
打てば響く返事をして、アヤが高齢の女性職人に向き合った。
「……現地の人々は、民族衣装として一枚の布を身体に巻いて使っているでしょう? だからね、カピトリヌスの織り方はわからなくても、パスクア織で用意してもいいんじゃないかしらねぇ」
「なるほど! 名案ですね」
そう、何も判で押したように洋服でなくても、着慣れた物を着てもらうのも選択肢にあっていい。
「そうすると、前準備に何が必要でしょう?」
「染色された綿糸が必要ですよ。それからね、綿だけじゃなくて絹や麻なんかの素材を混ぜて使う手法もあるんですよ。裂織と言ってね、布地を丈夫にする方法だったのよ」
「わかりました、取引先に交渉してみます。少しお時間をいただきますがよろしいですか」
女性職人は物分かりよく頷いた。
「四月から必要になるなら、夏物も視野に入れなくてはね。そのつもりで進めてくださいな」
「畏まりました」
アヤは腕が鳴る仕事に身震いした。




