第16話『キーツの新曲』
「ストリートライブの帰り?」
トゥーラが本に栞を挟んで閉じながら尋ねる。照れるキーツ。
「うん、今朝降りてきたバラードを一曲弾き語りしてきた。結構好評でさ、見てこれ」
キーツはニット帽を逆さにした中身を見せてくれた。小銭と紙幣で5千Eは入っていた。
「すごいじゃん! 一曲でこれ?」
ポールが色めき立つ。
「そうなんだ、僕的にもかつてないことでさ」
「へぇーっ!」
「是非聞いてみたいわ、どんな曲?」
「じゃあ、上往こうよ」
キーツが言うと、ポールが待ったをかけた。
「ここがいいな。ちょっと話をつけてくる」
パッと立ち上がって、店員を捕まえるポール。
「すみません、お願いがあるんですが」
「はい、なんでしょうか?」
男性ウエイターがニコニコして応対する。
「実は友人がストリートミュージシャンをしていて、新曲を引っ提げて来店してるんです。できる限りボリュームは下げるんで、演奏してもらってもいいですか?」
「あ、はい。店長に確認いたしますのでお待ちください」
一方、キーツはその様子を見てハラハラしていた。
「いいのかなぁ……?」
「大丈夫よ。私たち、日曜日の度にここに通ってる常連だから、話は通ると思うわ」
トゥーラは確信を持っていった。
すると、ポールが戻ってきて、親指をぐっと立てた。
「OKだって。ちょっと待ってくれる? 店長さんが聴いてみたいんだってさ」
「えーっ?」
「いいじゃん、聴衆は多い方が。実力、思う存分見せたれ!」
「そうよ、張り切っていきましょう」
「参ったなぁ」
キーツはぼやいたが、そう言いつつ、クラッシックギターをケースから引っ張り出した。
そのうち店長が――180センチ以上の長身で、浅黒い肌で額に皺を刻んだ鼻の高い濃い顔の40代の男性——がやってきて頭を下げた。
「初めまして、店長のドミンゴ・ボアと申します。常連のお客様にミュージシャンの方をご紹介いただけて大変光栄です。私、音楽に目がないんです。ジャズ、ロック、フュージョン、ポップス、何でも大好物です。是非、心置きなく当店で演奏なさってください」
「ありがとうございます。キーツ・エグランティーンです。アマチュアミュージシャンですが、よろしくお願いします」
こうしてキーツは、ポールとトゥーラ、カフェの店長に、興味深そうな客たちの好奇の視線に囲まれて、演奏することになった。
クラッシックギターの軽妙な弦が、キーツの細い指で緩やかに弾かれる。
遠い記憶の中で 確かに僕は宇宙を愛していた
どこまでも続く宇宙に 思いを届けようとしていた
輝く天体に憧れ 恋して願いをかけた
世界は窮屈だったけど 魂は空を自在に翔けた
Glorious heaven 宇宙は何を思う
Precious time 時はいつか満ちる
やがて訪れる試練でも
Harvest moon 必ずやってくる
有限の世界ではこの思いはくすぶってばかりだ
誰もが魂が飛翔する時があるんだろう
その最後の瞬間まで 奇跡は起き続ける
だから小さなことも大きなことも 実は価値があるんだ
僕は逆風の中を 肩で風を切って歩く
Believe grow 宇宙は待ってる
I need you 僕の夢の完成を
やがて土に還ったとしても
World memory 僕を覚えてる
たとえば世界中の人がそっぽを向いたとしても
僕はこの思いを投げ出さない
たった一つの自由を代償にしてほしいものはない
それが誰にも譲れない希望になる
Glorious heaven 宇宙は何を思う
Precious time 時はいつか満ちる
やがて訪れる試練でも
Eternal sky 僕は宇宙をゆく




