第16話『主街道のカフェで……』
宇宙の九月祈束の九日、日曜日。
メーテスの主街道のカフェに、ポールとトゥーラの姿があった。
二人とも本を読んでいる。
ポールが読んでいたのは『かたばみ形見』という女性作家のエッセイで、トゥーラが貸してくれたものだった。
一方、トゥーラが読んでいたのは『ルーンに聞け』という男性作家の歴史小説だった。こちらもポールが貸してくれたもので、お互いのイチオシ本を交換して読んでいるのだった。
この二人、朝も早くからカフェにやってきて、詰めっぱなしである。
そうして本を読んでいるのがデートなのだった。
チュー、とポールがストローでブラッドオレンジジュースを吸うと、派手にゴボゴボッと音を立てた。
「……あれ? もうなくなっちゃったよ」
グラスを振ると、氷がカラコロと鳴る。
トゥーラがスッと視線を向ける。
「おかわりする?」
「うーん、いいや。トイレばっかり近くなる」
「そう」
トゥーラが本に視線を戻す。ポールがちょっと聞いてみる。
「どう? 面白い、その本」
「ええ、クエタガイナ戦乱のことをよく調べてあるし、登場人物も猛者揃いで、見応えのある歴史小説だと思うわ」
「あんまりトゥーラ向けではないかとは思ったんだけどさ。俺のイチオシはやっぱりこれなんだよね。創世の女王、カプリチオ・エスペラード亡き後の、西の大地の覇権をめぐる男たちの戦記。束の間の平和で、忘れていた男たちの闘争本能が目を覚ますんだ。力と力のぶつかり合い、巡らされる策謀、押し流されていく人々の運命。まさに男の血をたぎらせる内容なんだよね」
力説するポールに、トゥーラはクスリと笑う。
「そんなにポールに向いている小説とも思えないけど?」
「もっぱら闘争本能の方は、日々の労働にすり替えられてるからね。けど、男の世界にはやっぱり憧れるよ。俺が筋肉ムキムキマンだったら、迷わず最前線に飛び込むと思うし」
「ちょっと想像しにくいわね。どちらかというと、ポールは平和の扇動者向きなんじゃないかしら」
「シュプレヒコールを叫ぶってこと? うーん、反戦活動家か。それも悪くないなぁ」
「ほらね、そのくらいの気持ちなのだったら、最前線に飛び込むなんてありえないわ」




