番外編~Magnolia~
番外編なのにボリュームたっぷり!まるでマックバリューセットのLポテト!
あたしはこの血塗れの少女を見たとき、どうしても、自分が医療の技能を始めたきっかけを思い出さざるを得なかった。
あれは五年ほど前……”教会”の訓練学校を卒業したての頃だった。
階級は”大天使”、下から二番目のいわゆる雑兵だ。その日は同期の面々と共に”能天使”に率いられて、とある村をまるごと壊滅させた魔物を討伐しに行くところだった。
あたしは6歳の時に、自分が半神であると知って、その力をもっと活かすべく”中央教会”まで行って訓練学校に入った。何もない田舎町で腐るよりはそれはずっといい選択肢だったし、何よりあたしが楽しかった。
視野の狭いガキだったんだ、あたしは。自分の力に酔いしれて、ただ好きなように魔物を倒して、人に感謝される、そんな単純な世界しか見ていなかった。
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「各員!散開しろ!報告より巨大だ――――」
ゴキャア!
目の前で人間が消失した。それは一瞬で遠くの木まで吹き飛ばされ、めり込むようにして動かなくなった。
何が起きたのかわからなかった。今までどんな相手にも勝ってきた。勝利こそ常識という認識の外の出来事。ただ、あたしにわかったのは、今のあたしたちの最高戦力戦闘不能になったということ。
「避けろ!食らったら終わりだ!」
とっさに叫んだ直後、耳がキーンとして、遅れた頃に身体の痛みが伝わってくる。
あたしはふっとばされた勢いのままごろごろと転がり、距離を取った。
魔物の名はゴーレム。宝物が収められたダンジョンや、王の墓の守護者として知られる存在だ。基本的には墓を荒らしたり、宝を盗まなければ脅威となる存在ではない。彫像としてそこに鎮座しているだけだ。
ゴーレムに向かって果敢に立ち向かう男が一人いた。ヨハン・オクトーバーだ。ティタン神族の血を引く彼は極めて頑丈かつ馬鹿力だ。そして自信があり、他のメンバーが距離を取って対峙しているのに対し、ヨハンは大上段にツーハンデッドソードを構えて突撃を繰り出していた。
「ハァァァアアア!ウェェェェェエエエイ!!!」
独特の掛け声と共に、跳躍し、ゴーレムの頭部に一撃を食らわせる。さすがはヨハンといったところか。ゴーレムの頭部は大きく陥没し、大きくよろめいた。
しかし、ただそれだけだ。ヨハンが着地した瞬間、ゴーレムが予想外の素早さで脚を振りかぶり、彼を蹴り飛ばしたのだ。
金属音にしか聞こえない衝突音。ヨハンはあたしのすぐ横に吹っ飛び、どでかいクレーターを作った。
「……いってぇ…あの野郎…!」
ヨハンが胸のあたりを抑えつつ立ち上がる。平気そうだがこれはあたしらにとっては絶望にも近い。
今までヨハンはありとあらゆる攻撃を寄せ付けなかった。銃で撃たれようが刺されようが、魔法を付与された武器で斬られようが、服が裂けるだけでダメージは受けていなかった。その圧倒的な防御力を誇るヨハンですら痛みを訴える相手。
あたしは生唾を飲まざるを得なかった。
「オードリー!どうすりゃいい!」
コウ·イースター―――あたしの同期だ―――が銃を連射してゴーレムの気をそらしている。
「こん中で一番頭いいのはマグノリア·オードリー、お前だけだ!何か策はあるか!?」
コウはゴーレムの振りかぶりを目にした瞬間に飛び退き、事なきを得る。
「くそっ……ヨハン、あいつを殴った時の手触りはどうだった?」
あたしは半ば恐怖に支配されつつもなんとか頭を動かす。
「えっと……鋼鉄みたいだった」
「鉄…なら、溶かせれば……レナ!出番だ!」
コウと一緒に銃を撃っていた金髪の少女―――レナ·カベルネ―――が「無理よ!」と叫んだ。
「わたしの炎じゃこいつはいけない!近づくほど温度は上がるけど、わたしはヨハンほど頑丈じゃない!近づく前にミンチになっちゃう!」
「俺がカバーするからやってみろ!」
ヨハンが地面を殴って立ち上がり、剣を掲げるようにして防御姿勢のままゴーレムに突っ込んでいく。
それを見たコウとレナは銃を撃って牽制しつつ、手榴弾をゴーレムの後方に投擲し、背中を向けてゴーレムから距離を取った。
ゴーレムは乱打をやめ、二人を追いかけようと走る、だがその瞬間、ドン!と大きな爆発が起き、ゴーレムがバランスを崩した。
「こっちを向けぇえええええええ!」
あたしは持っていた長銃をゴーレムの頭めがけて連射した。
やつがこっちを振り向いた瞬間、ゴーレムの脚に、ヨハンが強烈なタックルを見舞った。
自身の三倍はある巨大なゴーレムが大地を揺らして倒れる。
ヨハンはゴーレムの腕を抑えようとしたが流石に体重差のためかやすやすと吹き飛ばされた。
バキャアッ!と木を何本も巻き添えにしてヨハンが森に消えていく。
「あの馬鹿ッ……!」
前衛がいなくなると戦線崩壊だ。あたしらはゴーレムの一発で即死してしまう。誰かが奴の注意を引かないと……。
「おい!ウスノロ!あたしを見ろ!」
しつこく頭部の陥没口を狙う。あたしの使うライフルはkar98。それを教会でカスタマイズし、魔力で弾を撃ち出すようにした威力強化型だ。だが……この金属ダルマには効果は薄い。
ゴーレムがあたしを振り向いた。背筋が凍る。
「ッ!」
地面を蹴り、闘牛の牛よろしく両腕を前に突き出してあたしに突進してくる!
あたしはすぐさま横に飛び退こうとしたが怯えが動きを鈍らせた。避けられない。覚悟を決めてあたしは前に出る!
「こんのォオオオ!クソがァァァァアア!」
腰に吊るしたショートソードを引き抜き、片手打ちのライフルを反動でコッキングして乱射、眼前にゴーレムの拳が迫り、あたしは目を閉じた。
しかし、あたしが死ぬことはなく、代わりに木が勢い良く倒れるような音がした。
「オードリー!」
突然、コウに引き倒された拍子に目を開けると頭上を大木が旋回していく瞬間だった。
「ウェイ!ウェイ!!ウェェェェエエエエ!」
ヨハンがとんでもない太さと長さの大木をぶん回していた。大質量の殴打はゴーレムにも効き目はあるらしく、大きく旋回した一撃をもらうと卒倒していた。
ダウンしたゴーレムをヨハンは容赦なく追撃する。
ドン!ドン!ドドン!
四撃目を叩き込もうとした時、ゴーレムは勢い良く拳を繰り出し、大木を破砕した。
ヨハンはたたらを踏んだが持ちこたえ、立ち上がりつつあるゴーレムに再度スイングを放った。
しかし、とっくにゴーレムは対応しており、予備動作に合わせて大木をどんどん拳で破壊していった。
切り株みたいになった大木を投げ捨て、ヨハンは真正面からゴーレムと殴り合った。互いのストレートが激突し、爆風かと思うぐらいの衝撃波が飛散する。
ゴーレムはこぶしを引こうとしたがヨハンがとっさにつかんで離さない。ゴーレムは左腕を振りかぶり、ヨハンに叩きつけた。
次の瞬間、あたしは目を疑った。ヨハンは腕を上げ、脇腹の防御を外したのだ。何考えてる、と叫ぶまもなくゴーレムの攻撃が命中する。
「ぐっ……!」
大木が切り倒されるような嫌な音がした。ヨハンは歪な痛みに耐え、ゴーレムの腕の勢いがなくなった瞬間、それを真下に押さえつけた。
ゴーレムは振りほどこうとするが、さすがはヨハンの馬鹿力、ゴーレムの両腕を抑えて離さない。
チャンスだった。
「コウ!アンカーを出せ!こいつを拘束する!」
「おう!」
あたしはバックパックに吊り下げていた装備の封を解いた。中から現れたのは全てを貫きそうな輝きを放つ錨と、高い剛性を持つ鋼糸。下級天使の標準装備だが、その汎用性と性能は非常に高い。
あたしとコウは太目の木に向かってアンカーを放ち、しっかり食い込んだことを確認するとゴーレムの足の周りをぐるぐる回ってがんじがらめに固めた。
腕はヨハンが押さえており、ゴーレムは動けない。
「行け!レナ!」
「りょーかい!」
開かれた道をレナが駆ける。その手は次第に赤光を伴い、雪のような炎を散らし、流れ星と見まがう程の光を放った。
「いっけぇええええええええええええええええええええええええ!」
レナがゴーレムの頭部に取り付いた瞬間、すさまじい熱が周囲を覆った。同時にゴーレムが苦しみ始め、早くも拘束が解けそうになる。
「踏ん張れ、皆!レナを全力で援護するのよ!」
「うぉおおおおおおおおおおおおお!」
「ウェェェェェェェェッェエエエエエエエ!!」
「溶けろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
全員、死力を尽くし、魂の叫びを上げている。うまく、いくはずだ。根拠の無い自信が体をめぐる。怯えは払拭され、眼前に勝利から注ぐ光が見えるような気がした。
「へっ…見ろよオードリー。あのゴーレム、美女に抱きつかれて顔が真っ赤だぜ。経験が無いに違いない」
「……あら、あんたにしては面白い事言うじゃない…っ!」
「そいつはどうもっ…!」
今にも吹き飛ばされそうになりながら鋼糸を握る。レナの炎は効果覿面のようだった。ゴーレムは激しく暴れているがその頭部は赤熱化し、一部がボタボタと液体になって地面を焼いている。
と、その時、レナの炎の勢いが弱まった。すぐにレナは出力を強めるが火は一向に弱くなるだけだ。
「レナ!どうした!?」
「…ごめん、魔力切れ…かも…!」
レナは判断を迷った。このまま焼き続けるか、離れるか。魔力切れ、それはすなわち自身の身を火から守る障壁の形成が消失するということだ。しかし、クリームが溶けるようにゴーレムの頭部は液状化している。離れていいのか。
その迷いが仇となり、レナは魔力の障壁が薄くなったために、猛烈な熱を食らって飛びのいてしまった。
「やばっ…!」
数メートルもある高さから不意の落下。受身もうまく取れなかったレナは衝突の痛みで悶絶した。
「レナ!っうわっ!」
ヨハンが驚いて力を緩めた拍子にゴーレムが抑えつけを破った。あたしとコウがカバーにはいる時間も無く、ゴーレムは拘束から脱出し、自分に向かってくるヨハンを殴って吹き飛ばす。あたしは銃を頭部に向かって撃とうとしたが、キーンと耳鳴りがして、気づいたころには体中に激痛を感じて倒れていた。
殴られて生きている…それよりも、レナの安否が一番だった。
混濁する意識の中、あたしはゴーレムの槍のような人差し指がレナの無防備な体に突き刺さろうとする瞬間を見た。
「やめろぉおおおッッ!」
そして、コウが死にものぐるいで走り、
レナを蹴り飛ばし、
自らが、
貫かれた。
真っ赤な液体が、飛ぶ。
生命の雫が、大地に滴り落ちる。
何が起きたか認識したくなかった。
嫌だ。
目を背けたい。
こんなものは嘘だって、
誰か……誰か…!
「オォォォアアアアアアアッッ!ぜってぇぇぇええええ!許さねぇぇぇぇぇええええッッッ!!!!!!!」
ヨハンが激昂した。
激情に任せ、大地を踏みつけると、大量の土砂が噴出し、即座にゴーレムが大地に叩き伏せられる。
触れてもいないのに、ゴーレムが全く動けていない。何が起こっているのか?
通例として、半神は、極限まで感情が高ぶると、未だ発揮したこともない、強力な力を得ることがある。
これはヨハンが重力を始めて操った瞬間。最も、気づいたのはすべてが終わってからだったが。
ヨハンは剣を引き抜き、正眼の構えを取り、自身の顔の側面に掲げる。
剣は眩い白銀の光を放ち、やがて地下深くから上り詰める灼熱のマグマの如き紅蓮へと転じた。
「ハァァァァァァァァッァァァアアアアアアアッッッッ!!!」
剣を振り上げると同時に剣の動きに引きずられるようにして、風景が歪んだ。
「ウェェェェェェェェェェエエエエエエイイッッッ!!!!」
限界まで溜め込んだ一撃。
鼓膜が認識できないほどの轟音、
視界を消失させるほどの砂土嵐、
平衡など存在しないとばかりの大地震、
触覚も機能せず、常に空中にいるかのような不安定が延々と、延々と、延々と続いて、続いて――――――――
ふとした瞬間にすべてが終わっていた。
あたしははじめからその姿勢で立っていたかのように、その場で静止し、妙にすっきりした景色を視覚におさめていた。
まるで、ゴーレムも、ここにあった山も、はじめからなかったみたいに。
だが、これは夢ではなかった。
あたしの目の前には腹部にぽっかり穴を開けられたコウと、泣きじゃくるレナと、そして呆然と座り込むヨハンだった。
「ッ!おい!コウ!おい!」
あたしは慌ててコウに駆け寄った。血が、溢れ出ている。
そうだ、止血、止血だ。
上着を脱いで、それを傷口に充てがう。大天使の白い服がみるみるうちに赤く染まっていって、もう助からないということを示唆されているかのようだった。
「なぁ…………ゴーレム、倒せたか…?」
コウがかすれかすれながらも、気さくなトーンで喋る。
「あ…あぁ……倒せたわよ。ヨハンが……山ごと吹っ飛ばした、みたい……」
あたしが答えるとコウは不吉なほど満足げな様子でふっ……と笑った。
「なぁ……?」
「何よ……?」
「俺……かっこよかったか……?」
「…ナメたこと……言ってんじゃないわよ!」
目の前の現実を否定したい。力強く揺さぶれば、虚構になる。でも分かってる。そんなことなんて起こりもしない。でも、起きてくれたっていいじゃないか!
「なぁ!いるんだろ!神様!主よ!人が、…人間が、貴方達の作り給うたものならば、その一つぐらい救ってくれたっていいでしょ!ねぇ!ねぇってば!」
いや、もう一人もいない。そんなのは分かってる。
祈りを捧げても、もう行き場がないなんて、とっくにあたしは知ってる。でも、もう、奇跡にすがるしかない…!
「オードリー……おれは…もういい」
「ふざけんじゃないわよ!あんたは…!仲間の事を諦めろって言うの!?」
コウの手は冷たかった。体中の暖かさはこぼれ落ちて、間もなく死に覆われようとしている。あたしはそこからコウを引きずり出したくて、手を、強く握った。
「へっ……オードリー…レナ…ヨハン…楽しかった…ぜ」
今際の言葉にしか聞こえないかすれ声にレナが半狂乱で喚いた。
「いやっ…!嫌だよぉ!コウくん!勝手に行っちゃだめ!イヤ!」
あたしはそっとレナの手を掴んだ。
涙の茫々と垂れた跡のある顔で、レナはあたしを見た。
ゆっくり、首を振る。言葉は出なかった。出せなかった。
この、仲間が死に瀕している時に、何もできない無力。
虚無感だけがあたしの中を歩き回っていた。
ふと。
遠くの方から馬車の音が聞こえてきた。
あたしたちが乗ってきた馬車だ。蹄の音でわかる。
「能天使……サミュエルさんだ。……生きてたの、か」
あたしは緩慢に音の方を振り向いた。能天使は息せき切って馬車を走らせている。何を焦っているのだろうか。もう、全部終わって、コウは、もう助からない――――
馬車が近くに止まった。後ろの車庫から、誰かが降りて歩いてくる。黒い僧衣をまとった長身の人物。
「どきな、ヒヨッコども」
快活な、老女の声だ。絶望しかないというのに底抜けに明るい。
老女はおもむろにとても大きなアタッシュケースを取り出し、それをコウの近くに置いた。
「あんた……何?」
老女はニッと歯を見せて笑った。
「通りすがりの名医だよ」
そこから奇跡が起こった。
老女は結界を貼り、邪気を払ってから、コウの腹部に肉体素と呼ばれる医療用スライムを注ぎ込んだ。そして、あたしらの中からコウ血と混ぜても凝固しない人物を探し、細いチューブで輸血を始めた。
それは戦いだった。
敵を殺す戦いではなく、
命を救う戦いだった。
終始、あたしは見とれていた。スライムを少しずつ錬成し、肉に変えていく行程や、全く震えない、両手の采配。
あたしは、この老女が空から舞い降り、死の沼に沈みこんでいくコウを少しずつ引っ張り上げて行く……そんな幻覚を見さえした。
作業は一晩中続いた。それほど、この戦いは厳しいものだったのだろう。それでも老女は屈さなかった。己の技量と、自信が示すままに、ひたすら生へと引き上げる。
やがて、朝が来た。
皆が一人ずつ眠ってしまう間あたしはずっと、アサド婆の作業を見ていた。
この救世主の戦いを孤独にしてはならないと思ったからだ。
「…………終わったよ」
老女は朝日を背にしながら、うーん、と伸びをした。
あたしはバッと立ち上がって、勢い良くお辞儀をした。
でも、言葉は出なくて、代わりに涙がぽろぽろ落ちてきた。
ああ……不器用だな、あたしは。感謝も言えないのか。
老女はそんなあたしに柔らかく微笑んで、ハンカチで目元の涙を拭ってくれた。
「アンタ、ずっと見ててくれてたね。名前は?」
「……マ゛グノ゛リ゛ア゛·オ゛ードリ゛ー」
「なるほど……マグノリアか」
嗚咽をこらえたせいで変な発音なのに聞き取ってくれていた。
「あたしはアサド·イスマイール。元従軍医だ。…ずっと見ていてくれてありがとうな。心強かったよ」
最期に、老女はあたしの頭をそっと撫でて立ち上がった。
これでお別れにはしたくない。
感情がぐるぐる渦巻いて暴れまわる心を必死に抑え、あたしは、老女に向かって叫んだ!
「お願いです!弟子にしてください!」
足音が止まった。
お辞儀をしたまま、それで反応を待つ。
「……顔上げな」
老女の指示に従って、体を起こす。
アサド·イスマイールはシワがなく、肌がきれいな女性だった。自信たっぷりのあがり眉に、キリッとした黒い目。見た目はあくまで老女だがとてもエネルギッシュな印象を受けた。
彼女はわたしを真剣な眼差しで見つめた。メスのように切り込んでくる視線。
「どうしてアタシなんかの弟子に?」
あたしは、自らの心にある言葉を発した。
「助けたいから。多くの人を」
「別にこんなもの学ばなくたって助けられるじゃないか?」
「そんなことは……」
「あるさ。敵をやっつけて後は後援にぽい。そっちのが楽だと思うけどね」
「違う!」
その叫びは何に対してのものか。
あたしは一歩踏み出して、本当の心の声を伝えた。
「仲間一人も守れなくて、誰を守れるの!誰を救えるっていうのよ!ただ自己満足のためにしか戦えないなら…それは天使じゃない……」
ふふっ、と老女は笑った。
「いい啖呵だ。気に入った。あんたにアタシの技を全部、教えてやるよ、マグノリア……いや、マギー」
そう。
これが、あたしの、アサド婆との出会い。
そして、今のマギーとしての原点。
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目の前の少女の止血、再生処置をテキパキと勧めていく。師匠譲りの結界の中、血まみれの体を少しずつ清め、治癒のルーンが刻まれた包帯を巻く。
誰も死なせない。
あの時とは違う。
もう、あたしは無力なんかじゃない。
誰であろうと、あたしの前では、絶対に死なせたりなんかさせない。




