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 どれ位そこに立っていたんだろうか。


 大きなため息を震わせながら吐いた。そうして少し顔を上げ、Y川の向こうで茜色に染まりつつある入道雲を仰ぐ。少し涼しくなった川風が脇を吹き抜けていった。後ろのアブラゼミの鳴き声も大分気怠い。


 足腰はとっくに痺れていた。それを(ほぐ)すように大きく伸びをする。そして踵を返した僕は――

 駅に向かって石階段を降りていった。


 何か上手い道が見つかると思っていたわけではない。そしてその通り、見つからなかった。

 ただ来ないよりは良かったと思う。日差しの下に立ちっ放しでいたせいか掻いた汗の分だけ気持ちが軽くなった気がする。だらだらと連ねてきた毎日に新聞紙一枚を差し挟む位の効果はあった。少なくとも、あのもやもやした気持ちのまま飲み会へ行くよりはよっぽど正解だったろう。


 そんな風に考えつつ、さっき通ってきた道を戻っていく。

 それからロータリーの前を過ぎ、駅の階段を登り始めた、時だった。


「カイ君?」


 不意に降ってきた声に僕はドキッとして足を止めた。おずおずと視線を上げていくと四、五段先にショートボブの女性が立っている。ヒールの無いパンプスにジーパン、Tシャツに紺の半袖ジャケットというラフな格好だ。


「……やっぱりカイ君だ。私だよ、ユカだよ。ほらっ、高校の時の」


 飾り気のない、それでいて柔らかな声。温かみのある人懐っこい笑顔。どちらも十年前の面影を多分に残していた。残していたが故に、僕は一言、その名を呼ぶので精一杯だった。


「……ユカ」


 途端に彼女は、ユカは顔を綻ばせる。


「良かったぁ、一瞬思い出してもらえなかったらどうしようって心配したよ」


 忘れるわけがない。


「いきなりだったからちょっと固まってただけだよ」


「そっかそっか。

 でもどうしたの、こんなとこで会うなんて意外。仕事か何か?」


 声を弾ませるユカに対し、僕はまだ少し気後れ気味だった。


「ああ、いや。……ちょっとな。

 ユカは、まだこっちに住んでるのか?」


「ううん。Z駅の方で一人暮らししてる。

 月一位で戻ってきてるんだけどね。カイ君は?」


 Z駅はここから二駅先だ。


「今は実家だよ」


「そっか……でもホントびっくりした。いきなりいるんだもん」


「はは……そうだよな」


 それ以上先の言葉が出ない僕に構う様子もなく彼女はちらちらと周りを見て言った。


「ねえ、時間平気かな? 折角会ったんだしちょっと話さない?」


 勢いに飲まれるような感じで同意した。 


「あ、ああ」


 僕が今さっき土手の方へ行ってきたのだと話すと、彼女はちょっと考えてから『じゃあY橋の方にでも行ってみようか』と提案してきた。歩きたいのだという。

 少し足が重くなっていた上にY橋がどこだか知らなかったものの、僕はそれを受け入れた。


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