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ユカに並び、今度はロータリーを真っ直ぐに歩いていく。
ユカは今日こっちへ遊びに来ていた友達を見送ってきたとこだったらしい。その友達というのは高校時代のクラスメイトであり、当然に僕も知っている子だった。もう結婚して一人子供もいるらしく中々会えずにいたものの、やっと予定が合ってこっちで会ったのだそうだ。
「カイ君は? そういう話はどうなの」
「ああ、全然だよ。ユカは?」
「私もそっちの話題はパス。ご祝儀取られてばっかりなんだから」
苦笑いしてみせる彼女に僕も力無く笑い返した。
「この前も同期の子がね……って。ああ、私幼稚園の先生してるのよ」
「へえ、ユカが幼稚園の先生か。なんか和むな」
素直な感想だった。何となく救いのある話に思えたのだ。いや、手前勝手なふざけた解釈だとは分かっている。
事実彼女はとんでもない、と首を強く振った。
「この時期なんかメイクは汗で崩れちゃうし、園児達は髪の毛とか引っ張ってきて大変なんだから。
それに小学校とかの先生みたいに中々覚えていてもらえるわけでもないし。
どうなのかなあって思う時も結構あるよ」
「そっか……」
「カイ君は? 仕事何してるの?」
「ああ、工作機械の設計だよ」
僕はなるべく感情を込めずに答えたつもりだった。だから。
「そうだったんだ。忙しいんだろうね。
体壊したりしてない?」
その気遣いはちょっと不意打ちで、
「……道、こっち?」
そう返すのがやっとだった。
頷いた彼女は三叉路を右側へ進んでいく。僕も再び横に並んだ。
今二人が歩いている歩道は狭いながらも車道より一段高くなっている。ただその二車線の車道は車で走ったらすれ違う時にちょっとひやりとしそうな幅だ。反対側の歩道は白線で仕切られているだけ。道沿いに並ぶ建物は背が低い。殆どは普通の住宅で、たまに和菓子屋、花屋、床屋、お好み焼き屋なんてのが紛れていた。
「ここら辺ってユカが高校生だった時からずっとこんな感じなのか?」
「うん。……あ、田舎って思ったでしょ」
「ああ、いや。
そういやユカん家は一度も行ったことなかったよな」
「そうだね。来てくれて良かったのに」
「いや、流石にそれはハードル高かったんだろ」
「そういうもんかな。
タダシ君の家には皆で勉強しに行ったじゃない」
「ああ、そうそう。行った行った」
あいつも今どうしているんだろう。
「皆でテーブルで一緒にやってたのに、誰かさんだけ『俺は一人のが集中出来るんだ』とか言って勉強机の方にかじりついてたわね」
ユカが悪戯っぽい目で僕を見てくる。誰かさんというのは僕のことらしい。
「あれ、そうだっけ」
「そうよ。だったら一人で家でやってるのと変わらないのに」
「そこはあれだろ、人恋しかったんだよ。察してくれ」
まだどこか調子の外れている僕が真面目に説明したら、ユカは吹きだした。
しかし何となく思い出してきた。
「ああ……。それでテスト明けに打ち上げだって言ってカラオケ行ったのか」
「あー、そうそう。行った行った」
そこでユカは腕を組んで考え込んだ後に、またニヤリとこっちを見てきた。
「カイ君、凄い下手だった」
言われてみてふと余計なことまで思い出す。
「ソウイチの奴、人が歌ってたら演奏停止ボタン押しやがってさ」
「あははは、あったあった」
ユカは腹を抱えながら尋ねてきた。
「……二回歌い直した?」
「三回だよ、有り得なくね? ちょっとあれはやっちゃダメだろ。マジで帰ろうかと思った、あの時は」
「懲りずに予約し直してたもんね。
……でもホントに」
そこで申し訳なさそうに僕を見て続ける。
「……ひどかった」
そしてまた可笑しくて仕方ないという風に笑っている。
しょうがないので僕も結局笑った。そうしながら、あの頃の僕はこんな感じで取るに足らない話をユカと重ねて、友達のつもりで笑い合っているうちに気付いたら惹かれていたんだなあ、なんてことを思い出していた。
それから学校の校庭に忍び込んでロケット花火で遊んでいたら、誰々のTシャツに当たって焦げて穴が開いたとか、学校の廊下でトイレ掃除に使った箒を振り回していたら前を歩いていた鬼教頭のつるっとした後頭部に水が跳ねて、立ち止まった本人がそこを押さえてしきりと首を傾げるものだから笑いを堪えるのに苦労したとか、すっかり忘れていた筈の記憶が芋づる式に引っ張り出されてきた。
いつしか通り沿いの家屋はまばらになっていた。歩道の左脇には手摺りが途切れがちに並び始め、その向こう側には水田が広がっていた。夕闇に頭を埋めかけた稲穂達がそよ風になびいている。空は彼方の山間に沈もうとする陽の残照に淡い薄紅を滲ませ、そこにヒグラシのか細い鳴き声が響き渡っていた。




