34話 水の音
また独りになってしまった。
少年は思った。
―違う。
独りではない。今は一人かもしれないけど
心には皆の想いが詰まってる。
ラフィンさん、リウス、ソロンさん、ヴィアさん
そしてセルザス。
独りじゃないんだ。
もう少しで、僕の願い、叶うよ
+ + +
天界の果てのように暗く、枯れ木や岩が殺風景な景色を作りだしている。
「サタンさんがいた魔界とは…随分違うなぁ…」
ヴィアと別れ此処まで当てもなく歩いてきた。
本当はヴィアと別れたくなどなかった。しかし、困らせないように、
そして振り向かないように。ヴィアの姿が見えなくなるまで走った。
悪魔がフェルの前に現れる。
「あ、あの…僕のお母さん…知りませんか?」
「あ?しらねーな」
悪魔はフェルを一瞥し、どうでもいいというように去って行った。
その他にすれ違う悪魔に母の事を聞いても、やっぱり分らないと言われた。
答えてくれるのはいい方で、大体は異質なものを見る目で見られ、避けられた。
そのうち悪魔の姿も見当たらなくなり、辺りはしんと静まり返った。
音の無い世界。
世界にから一人、自分だけ切り取られたような錯覚にとらわれる。
自分を見失いそうになりながら、フェルは母を探した。
探すと言っても、こんなに広い魔界をどうやって探したらいいのか分らず、
フェルには歩きまわり、尋ねることしかできなかった。
「セルザス…」
そう言えば、セルザスとはぐれたままだが、セルザスはどうしているのだろう。
どこかで自分を探しているのかも知れない。
お母さんを見つけたら、セルザスも探して見つけて、お母さんを連れて帰ってもらおう。
そうフェルは考えながら歩き続けた。
荒れ地を裸足で歩いていたので、足の裏はもうぼろぼろだ。
足が鉛のように重い。
「お母さん…」
立ち止まって母のペンダントを握りしめ、祈るように呟いた。
サタンが教えてくれたのだ。母は此処にいるはずだ。
だが、一向に手がかりさえも見つからない。
無音、不安、焦燥、恐怖、寂しさ
様々な想いが胸の中で渦巻き、フェルを呑みこみかけた時。
手に持っていたペンダントが光った。
――ぴちゃん
「…水の…音…?」
確かに聞こえた水の音。
――ぴちゃん
耳を澄ませてみると再び聞こえてきた。
「…何だろう…」
凛とした水の音はフェルを導くかのように鼓膜に響き、
そしてフェルの足は自然に動いていた。
――ぴちゃん
一歩また一歩と、確かめるように前へ前へ。
水の音の聞こえる方へ。
行く手に小さな小川が見える。青く透き通った小川。
キラキラと光りを放ちながら静かに流れるそれは、
魔界とは違い、凛とした清らかな感じを受けた。
「なんでこんなところに…」
不思議だなと思うと同時に、さかのぼってみようとフェルは思った。
予感がした。
この小さな川を辿って行けばいい。
そんな予感。
段々水脈が細くなっていく。
目の前に大きな影が現れ、見上げるとそこには洞窟の入口があった。
奥は暗く深く、絶望への入り口であるかのようだ。
しかし小川の輝きが、暗闇の中を一筋の道のように照らしていた。
迷わないように。
川は今度は広がっていき、フェルは水の中に足を入れ、進んでいく。
水のせせらぎが優しく鼓膜を打っている。
歩いていくと大きな空間が目の前に広がった。
上には鍾乳洞が何本も連なって神秘的な情景を作りだし、
下は湧き出た水が満たされ、揺れる水面は不思議と光を放っていた。
そしてそこに静かに佇む黒い羽根の女堕天使。
ゆっくりと女が振り向いた。
水面に波紋が広がる。
この小さな川を辿って行けばいい。
そんな予感が、今。
目が合い、心臓が跳ねた。
確信へ。




