30話 いざ魔界へ
何故
どうして
嗚呼、なんて事をしてしまったのだろうか
本当は
ほんとうは――…
+ + +
魔法陣で移動中は、縦横に光の筋が光る不思議な空間でずっとふわふわ浮いていた。
下から目に見えない力で押し上げられている感じだ。
魔界へ辿り着くまでに魔界について色々考えた。
魔界はどんなとこなのだろうか。
悪魔やら、悪人の霊やら…とりあえず怖そうなイメージを抱いた。
やはり、暗くて殺風景で限りなくどんよりした悪い空気やら瘴気やらが立ち込め、
悪と感じる悪を全て詰め込んだ。……そんな感じだろうか。
ついに魔界に辿り着くのだと思うと、いっそう母に近づけた感じがして、
いても立ってもいられない。
そして光に包まれる。
着いたのだ、魔界に。
………魔界に?
目の前に広がった光景を目にし、フェルは唖然とした。
口をあんぐり開けていたかと思うと、はっと我に返り怪訝に眉をよせた。
目の前に広がる光景を指差して、フェルはヴィアを顧みた。
「こ…ここが…魔界…?」
「ああ」
目の前に広がるのは先ほどまでいた人間界の町並みに似たものだった。
空は濃い紫色で決して明るいわけではない。
上空にそれはもう巨大な発光装置が設置されており、
魔法で装置を動かしそれがまばゆい光を放ち、町並みを明るく照らしていた。
意外とも言えば意外過ぎる魔界の情景にフェルは一瞬戸惑ったが、次第に目を輝かせた。
「すっ…すっごい!!!本当に魔界?!あっあれ悪魔…かな?うわぁ羽根が僕のと違うんだ。
それにしても天界と違ってちゃんと生活の場があるんだなぁ…これならお母さんもすぐに見つかりそうだね!」
振り向いたフェルの顔は子どもの無邪気な笑顔そのものだった。
「他にも空間があるみたいだが…ここなのか?」
「…え?セルザスに、どの空間か聞いたんじゃなかったの?」
「知らん」
「…え?」
「俺は何も聞いていない」
「…え?」
ええええええええ?!
ちょっと待て待て!
心の中で全力で突っ込みながらフェルは目を丸くした。
てっきりセルザスから場所を聞いているものだとばかり思っていた。
じゃあ母がいる本当の空間はどこなのか。
実はフェルも魔界に行くということで頭がいっぱいで、空間の事など頭に全くなかった。
セルザスからどの空間なのか、名前があるなら名前を聞くのさえすっかり忘れていたのだった。
「うぅー…最悪だぁ…」
自分の失態に頭を抱えて唸った。
場所が分っていればすぐにでもその空間にいけるのに。
セルザスとはぐれてしまっている今、情報収集から始めなければならない。
これでは時間がかかりすぎてしまう。
近くなったと思った母がずーんと遠のいてしまったかのようだ。
ずーんと重くなった気分を振り払いぐっと拳を握りしめた。
「でも魔界まできたんだ!誰かに聞いていけばきっと手がかりは掴めるはずだよ」
前向きに考え、うんうんと頷きながら遠くを見るフェルの目に、建物が飛び込んできた。
「あれ…なんだろう?」
このほのぼのとした町並みとは違う、漆黒の巨大な建物。
天界にある審判の塔の黒バージョン…といった感じだ。
周りには枯れ木が見える。
「分らん。だが…此処の中心部だろう」
「何か教えてくれるかもしれない…行ってみる!」
ヴィアが答えるのも待たずに、フェルは元気に駆けだしていった。
何なんだこの行動の早さは。
段々と小さくなっていくフェルの背中を茫然と見ていたヴィアであったが、
はっとして、見失いそうなまでに小さくなったフェルの後を追った。
+ + +
綺麗に舗装された道を歩いていた。
それにしても…なぜ人間界の町並みなのだろうか。
それは置いといて。
チクチク
チクチク
「視線が痛いなぁ…」
むむぅと口をとがらせたフェルが呟く。
先ほどから悪魔や堕ちたであろう天使がこちらを興味深々な目で見ているのだ。
いや、興味深々というよりは、奇妙な物を見る時の目かもしれない。
どちらにせよ、あまり嬉しくはない。
「でも気にしないよ。この羽根は僕の宝物だから」
「?」
あれほど気にしていた白と黒の羽根を、宝物と呼んでいるフェルの心変りが、全く分らないヴィアである。
常に無表情の彼の顔にも、分らないといった表情が浮かぶ。
僅かな表情の変化を読み取ったフェルが意味ありげな笑みを浮かべ羽根を触りながら言った。
「この羽根は……僕が、大好きなお母さんとお父さんとの子…っていう証だもんっ」
なおも分らないといった表情のヴィアを尻目にふふんと上機嫌でスキップする。
と思ったら立ち止まって振り返り、ヴィアが追いつくのを待っている。
「そういえば…此処まで付いてこなくてもいいのに…何でここまで…」
「悪いか」
「いや…そういう訳じゃなくて」
「俺は小さい時のお前と会った事があるだろ。…だから何となく放っておけないのだ」
放っておけない。
これも確かにヴィアがフェルの事を想ってくれている証拠だ。
此処も自分の居場所なんだなと思い、フェルは一人にやけるのであった。
+ + +
目の前に全体的に黒い建物が。
「おっきい…」
遠くから見るとそんなでもないが、近くで見るともの凄い威圧感だ。
心なしか建物も減って少しさびしい感じがする。
周りには天界の果てに逢ったような荒野が広がっていた。
その時
「何用だ…?」
声のする方を見ると、蝙蝠羽根をはやした門番であろう悪魔が立っている。
本当に魔界だなとか思いながらフェルは尋ねた。
「あ、あのっ…ここに魔界の事ならなーんでも知ってるような方いませんか?」
「お前のその羽根…堕天してきた者ではないのか?」
「え…ああ…本当は堕天するんだったけど、最後の願いのために逃げ出してきたんです」
「……入るがいい」
え、あれ?意外とすんなり。
こういう時は数々の苦難困難を乗り越えー…というものではないのだろうか。
ていうか、割と魔界の者たちの方が物分かりがいいのかもしれない。
天使天使……どうしてもあの嘲り笑う天使がでてくる。どっちが悪魔なのか。
「その前に…」
門番が身を翻し、目にもとまらぬ速さで槍をヴィアに突き付けた。
寸前のところで鎌で防ぎ、金属音と共に突風が吹き抜ける。
この身のこなしにスピード。並大抵のものでは捉えられないだろう。
「何だ…」
「武器をしまえ」
怪しく笑うその表情といい威圧感は、魔界のものだ。
大人しく指示に従った方がいいと判断したヴィアが鎌をしまい、
それを確認した門番が戸を開いた。
塔の中には何が待っているのだろうか…。




